スリランカはインドの南端から海を越えてすぐの島国。インドと同じような文化ではないかと想像しがちだが、そこには独自の歴史と、独特な食文化がある。国民のうち仏教徒が70%を占めるといった点でも、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が多いインドとは異なる。

今回は、年に一度パレードする仏陀の歯、人間不信になった王が岩山の上に建てた城、中国からの資本投資で海岸を失った現在のコロンボ市民、そして鰹節を使って作るカレーについてお伝えしたい。東京からなら直行便で8時間30分。インド洋に浮かぶスリランカが魅力的だ。

仏陀の歯が10日間パレードするペラヘラ祭り

スリランカのエサラ月(7月後半から8月前半)の、新月から満月になるまでの2週間ほどの期間に全国で開催される「ペラヘラ祭り(Esala Perahera)」。スリランカの中央に位置する古都キャンディでは、祭りの期間中毎晩パレードが行われる。キャンディには仏陀の歯が祀られているという「仏歯寺」があり、年間を通して仏教徒たちが参詣に訪れるが、この祭りの間は特別だ。象の背に乗せられた仏歯がそのパレードに登場するのだ。日が暮れると始まるパレードは、夜11時を過ぎる頃に終盤を迎える。

Photo by Atsushi Ishiguro

鞭で地面を打ち鳴らしながら悪霊を追い払えばパレードの開始だ。楽器を演奏する楽隊、ダンス、象によって構成されるチームがいくつも続く。ドラムのリズムに、ダンサーの足に付けられた鈴のリズムが絡み、松明に照らされて進む参加者の顔には不思議な恍惚感が見て取れる。その最後に登場するのがこの仏歯なのだ。ひと際華やかに装飾された象の背中に仏歯が祀られている。沿道の人々は歓声をあげ、すぐさま静かに祈りを捧げ始める。ここまでの一通りの流れで2時間ほど、それがほかのグループのチームによって繰り返され、夜が更けていく。

最初のグループがプロ又はセミプロと思われるクオリティで、仏歯はこのグループでのみ登場する。それに続くグループは練習生、学生、女性のチームといったように、どうもこの辺りの一般の皆さんも大勢参加しているようだった。そのグループごとに一通りの全場面を見せてくれるのだから、それは時間がかかるわけだ。ちょっと上手とは言えないダンスや、多少乱れたリズムも微笑ましい。

Photo by Atsushi Ishiguro

シギリヤロックの上に建てた城

5世紀後半に、父である王を殺害して、報復をするかもしれないと弟も国外に追放してしまったカッシャバ王子。自らの行いで人間不信になり、孤高の巨大な岩シギリヤロックの上に宮殿を建て暮らし始めたそうだ。高さ200メートルの都。11年後には、弟が国に戻りここに攻め込むと、カッシャバ王は自害したという。ちなみにオーストラリアのエアーズロックの348メートルには及ばない高さだが、岩の麓から頂上まで登るのはなかなかの運動量だ。

そんな孤独な彼が住んだこのシギリヤロックには、当時の暮らしを思わせる遺跡が残っている。プールや観劇施設などの娯楽施設、敵を追い払うための投石機も残っている。

コロンボの海岸が狭くなっている

首都コロンボの海岸は今、中国資本が入ったために大規模な港湾開発が行われていて、住人たちがアクセスできる海岸が少なくなった。それでもイギリス統治時代からの公園ゴール・フェイス・グリーンは、今でも市民の憩いの場だ。芝生の緑で「グリーン」と名付けらたという。周りには新しいビルがいくつも建設中だ。

夕方になれば少し涼しくなって、大勢の地元の人たちが集まってくる。思い思いに散歩をしたり、家族や友人同士で座り込んだりしてくつろいでいる。そして西の海に沈んでいく太陽を眺める。

日が落ちた後でも、ぼんやりとした明るさの中で、凧揚げをたのしむ続ける人たちが多い。大都会のほんの少しのオープンスペースで、ちょっとした気晴らしなのだろう。それにしてもすがすがしい。そうしてだんだん暗い夜になっていく。

鰹節で作るカレーが日本人好みで旨い

「ライス・アンド・カリー」は「カレー定食」といったらいいだろうか。メインのカレーと、好きなライス(白米や赤米)を選んで、野菜のカレーや、サンボルといった炒め物に、カリッと揚げたパパダンものせてくれる。内容に違いはあるが、街の定食屋でも、ちょっとこぎれいなショッピングモールのフードコートでもこのスタイル。

Photo by Atsushi Ishiguro

これはコロンボで食べたライス・アンド・カリー。真ん中には赤米、その上に1時の位置から時計回りに、チキンのカレー、ニンジンのサンボル、ジャガイモのカレー、ココナツのサンボル、マンゴーのカレー、豆のダール、そして上にパパダンを乗せてくれた。

スリランカのカレーには鰹節を使う。市場に行けば1尾まるまるの鰹の開きや、見るからに日本のものと同じ鰹節、干した小魚やエビなど、旨いスープがとれそうな材料が並んでいる。もちろん唐辛子は必須アイテム。カカオミルクをたくさん使うので、口当たりはマイルドだ。そして米は赤米が一般的で、茹でて調理するせいかサラッとしている。

日本に帰ってから、作ってみた。
オクラとトマトのサンボル、ジャガイモのカレー、赤米。それに魚(ヒラマサ)のカレーだ。独特なのはフェネグリークという甘い香りの苦いハーブに、スパイシーなカレーリーフはどの料理にもほぼ必須。鰹節は日本のものを使った。インドのカレーよりもサラッとして刺激が少なめ。ココナッツ(ジャガイモのカレー)やタマリンド(魚のカレー)で、様々なバリエーションになるのだ。それに玉ねぎをあめ色に炒めるということもなく、気軽に作ることができる。

仏教徒が多いということもあってか、日本人にはなじみやすいスリランカ。現在は治安も安定しているので、次の旅の候補にどうだろう。


All photos by Atsushi Ishiguro

スリランカ観光局

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/