観賞用だったトマト

世界各地で愛され食べられているトマトは、ナス科に属するぶらさがり野菜のひとつ。日本では暑い地域の夏野菜と思われがちだが、原産は南米ペルーの高原地帯で、現在のミニトマトに近い形だったと言われている。

今ではイタリア料理に欠かせない食材となっているトマトだが、ヨーロッパでの歴史はさほど古くなく、中世の大航海時代に南米大陸から持ち帰られた様々な野菜の中のひとつで、当初は観賞用として扱われていたようだ。日本に渡来したのも江戸時代、ヨーロッパ同様の観賞用だったと言われており、真っ赤なその姿は、食べるためというより、愛でるための存在だったそう。

日本でトマトを食べ始めたのは近代から

トマトが日本で食用として栽培され始めたのは明治時代に入ってからだが、赤い見た目や香りが敬遠され、一部の外国人を除いて、一般の日本人にはなかなか好まれなかったようだ。

その後、大正から昭和にかけて西洋料理というジャンルがすこしずつ定着し、戦後には食の洋風化がぐんと進んだことで、サラダなどの形でトマトを生で食べる習慣が広まっていった。現在では、その鮮やかな彩りも手伝って、無くてはならない野菜としての地位を築いている。

トマトはうまみの宝庫

トマトは、昆布のうまみ成分としても知られる「グルタミン酸」などを含むうまみの宝庫だ。日本で昆布やかつおぶしの出汁が料理のベースとして使われているように、西洋ではトマトソースが料理のベースとして活用されている。

例えばイタリアでは、トマトの収穫の時期に各家庭で一年分のトマトソースをまとめて作り、密閉容器に保存、様々な料理のベースとして活用する。手作りの味噌を仕込み、一年を通して使うという日本の風習を思い起こさせる光景だ。過去にイタリア・シチリアの友人から自家製のトマトソ―スをもらったことがあるが、うまみが凝縮された濃厚な味わいで、これまで食べてきた中でも指折りのトマトソースだった。

トマトソースのストレートな美味しさからもわかるように、トマトは生食だけでなく加熱調理でも活躍する野菜のひとつ。和食であれば、おでんのタネとして楽しむほか、焼きトマトにするのも格別だ。様々な加熱調理に活用できるが、今回はトマトの代表的なうまみ成分でもあるグルタミン酸を多く含む味噌と合わせた、トマトの豚汁を紹介しよう。

トマトの豚汁 材料 | Photo by Misa Nakagaki

トマトの豚汁の作り方(2~3人分)

豚肉(こまぎれ):75~100g
プチトマト:6~9個
舞茸:適量
大根、にんじん、ごぼうなど好みの根菜:適量※4~5mmほどの厚さ
ねぎ:適量
出汁:2カップ
味噌:20~25g
みりん:少々
ごま油:適量
(七味唐辛子:お好み)

豚肉を混ぜながら炒める | Photo by Misa Nakagaki

1. 豚肉を一口弱サイズに切る
2. プチトマトのへたを取り、へたのあった部分に浅く包丁目を入れ、湯剥きする
3. 舞茸を一口弱サイズに切る
4. 根菜類の皮をむき、4~5mmほどの厚さに切る
5. ねぎを小口切りにする
6. 鍋にごま油を入れ、豚肉を香ばしく炒める。あらかた火が通ったら、舞茸を追加しざっと炒め、出汁を入れる。ひと煮立ちしたら、切った根菜類を入れ、小煮立ちをキープする。
7. 根菜類に火が通ったら、味噌をときいれ、湯剥きしたトマトをいれる。仕上げにみりんを少々たらし、火を止める
8. お椀に盛り付け、ねぎをそえたら出来上がり

ポイント
※ 豚肉は、こまぎれのほか、ひき肉でも可
※ 普通サイズのトマトを使う場合は、湯剥きをしたのち、食べやすい大きさに切り、種の部分を取り除いてから使用する
※ 味噌とトマトを調和させる仕上げのみりんを入れたらすぐに火を消す

All photos by Misa Nakagaki


All photos by Misa Nakagaki

奥田ここ

国内外各地の市場を「師」とあおぎ、旬の食材を中心にした和食及びイタリア料理の料理教室を主宰。外国の方の参加や築地市場内での料理教室など様々なスタイルで開催するほか、各種媒体・広告へのレシピ提供や、食材産地の取材および食に関するさまざまな話題の企画・執筆に加え、個別の要望に応じた出張料理など、国内外問わず活動中。素材の味を大切にし、無駄なく使い切る献立作りを心掛けている。
Instagram 

中垣美沙 | Photographer

写真家
雑誌や書籍を中心に撮影し、自身の作品制作も行う。
http://misaphotos.com