気のおけない友人や家族、恋人と一緒に料理を作ったり持ち寄ったりして、たわいもない話をしながらテーブルを囲む休日。日々の喧騒を忘れてのんびり過ごすひととき。そんな時におすすめしたいカクテルがある。材料さえ揃えておけば、たったの15秒でつくることができる、とびきり美味しいジンを使った、ジントニックだ。
今回紹介する“とびきり美味しいジン”とは、2015年にジン&トニックの世界一を決めるIWSC(International Wine & Spirit Competition)で、“GIN&TONIC TOROPHY-世界最高のジン”を見事に受賞し注目を集めている、フィンランド産のクラフトジン・「NAPUE(ナプエ)」。今回はブランドアンバサダーを務める 野村空人(ソラン)さんからNAPUEジンの生まれたストーリーと、ジントニックレシピを教えてもらった。
5人の若者から始まったキュロの物語
NAPUEのジンが作られているのは、大自然に囲まれる国、フィンランドの首都ヘルシンキから北西へ345km程離れた、イソキュロ(ISO KYRO)という村。海を隔てるとスウェーデン寄りのほぼ北極圏に位置するこの村は “ビッグチャーチ”と呼ばれており、街には大きな教会がある。イソキュロのキュロには「炎、火」という意味があるそうだ。7〜8月頃は、太陽が沈まない白夜が訪れる。
野村さん:キュロ・ディスティラリー社は、5人のファウンダーによって生まれました。もともと友達だった5人は、サウナに入りながらライ・ウィスキー(ライ麦を主原料とするウィスキー)を飲んでいました。彼らはフィンランド出身なので、フィンランドのライ麦がどれだけ素晴らしいかをよく知っていました。そして何故こんなにウィスキーは沢山あるのに、自分たちの国では作らないのかと夜な夜な語り合っていたそうです。次の日、みんな二日酔いになりながらも『このアイディアいいんじゃない?』『僕ら5人でやらない?』という話になり、具体的に動き出して会社を作ったんです。
そして5人が決めた目的は「IN RYE WE TRUST」、直訳すると「ライ麦を信じて」
100%フィンランド産のライ麦を使った商品を作ろう、という信念を持ってこの事業が始まった。どこでやるのか場所を探していた時に見つけたのが、ファウンダーのうちの一人、Mikoの地元のイソキュロで1908年から長年使われていた、地元では有名なチーズ工場の跡地。2000年頃にその工場が別の場所に移ったことがきっかけとなりこの場所に決めたのだそう。
野村さん:2013年頃、彼らはライ・ウィスキーのニューポットを作りました。ところがそれが実際に美味しいかどうか、自分たちでは全然わからなかったんです。そこでCEOのMiikaが『ロンドンのウィスキーフェスに行って、これが美味しいのかを誰かに聞いてみよう』と言って、会場に潜り込んだんです。その時にたまたま見つけたのが、有名なBuffalo Trace Bourbon Distilleryのヘッドディスティラーでした。その人物に、小さなカップに入れたニューメイク(熟成してないウイスキー)のライ・ウイスキーを飲んでもらい、感想を聞いてみたところ『もしこのプロダクトがこのマーケットに出てきたら、僕はこの仕事をもう辞めたいと思うくらい美味しいよ! 』と言ってくれた。そこで彼らは自信を持ちました。そして2014年、本格的に蒸留所でライ・ウイスキーとジンの生産を始めました。
樽で3年以上もの長期熟成が必要になるウィスキーと比べ、ジンは基本的に長期熟成する必要がないためNAPUEジンが先に市場に出回ることとなったが、本格的に作り始めておよそ1年という短い期間で冒頭でも述べたように“GIN&TONIC TOROPHY-世界最高のジン”を獲得するという快挙を遂げた。その後、瞬く間に世界中に広まったNAPUEのジンは、豊かなハーブの香りと、コクがありながらもすっきりと爽やかな味わいが特徴。そのおいしさの秘密は、フィンランドの豊かな自然から生まれた材料にあった。
野村さん:フィンランドは2万年前・氷河期にあたる時代に、国全土が約3kmの厚い氷で覆われていました。その氷が長い年月をかけて地中にフィルタリングされているため、水はすごくピュアで軟水なんです。そしてライ麦。全世界で食べられている平均消費量の100倍もの量をフィンランドでは食べられているほど、みんなライ麦が大好きなんですよ。ナプエのジンは100%フィンランド産のライ麦、混じり気のないものを使っています。
ピュアな水とライ麦、そしてシーバックソーン(栄養価の高さからスーパーフルーツとも呼ばれるグミ科の実)やクランベリー、白樺の葉など、フィンランドならではのボタニカルを使用してつくられるNAPUEのジンは、甘く優雅な柑橘系の香りが漂い、ライ麦のスパイシーな刺激がコクを生み出している。
それではさっそく、NAPUEジンを使ってジントニックをつくってみよう。
NAPUE(ナプエ) ジントニックのレシピ
材料
キュロ・ナプエ:40ml
フィーバーツリー・トニックウォーター:120ml
ローズマリーの枝:1枝
クランベリー(フレッシュまたは冷凍):適量
氷:適量
作り方
1. グラスいっぱい氷を入れて、ジンを入れる、その上にトニックウォーターを注ぐ
2. ローズマリーの枝を少しだけ叩いて香りを出す
3. ローズマリーの枝と、好みの量のクランベリーを入れて完成
フィンランドのサウナ
今回、野村さんからフィンランドのサウナ文化についても教えてもらった。
野村さん:北極圏に近いフィンランドでは白夜があり、北フィンランド地方へ行くと24時間日が続いています。その期間は、新聞に『次の日没は7月末です』と載るくらい、2ヶ月半もの長い間日が続くんですよ。また、フィンランドの人々の日常生活に深く根付いている文化の一つにサウナがあります。サウナではバーチ(白樺)で身を清めたりする習慣があります。
サウナで身体が温まったら“ヴァスタ(Vasta)”と呼ばれる、白樺の枝を束ねてつくられたもので身体を叩く。天然の白樺のウッディーな香りは、まるで深い森の中で深呼吸しているような、リラックスした気分にさせてくれる。保湿や抗菌作用にも優れていて美肌効果もあるのだそうだ。
日本ではめずらしい、お酒のブランドアンバサダー
今回キュロについてお話を聞かせてくれたのは、日本ではまだめずらしいとされる、お酒のブランドアンバサダーを務める野村空人さん。今年自身のコンサルタント会社・ABV+を立ち上げ、主にイベントやケータリング、ドリンク開発など、お酒を通して新しい経験を提案している。
20代前半、初めは美大を目指してロンドンに行ったという野村さんは、数々の有名なバーでバーテンダーとして働き経験を積んだ。バーテンダーの道を選んだきっかけとロンドンのバーについてお話を聞かせてもらった。
野村さん:お金がなくなり、動くためにどうするかを考えた時にバーテンダーが身近だったので始めました。もともとお酒自体好きだったこともあります。最初は英語も全然わからなかったんですが、カクテルを作ることで注目を浴びるようになってから、だんだん面白くなって。初めはパフォーマンスから入ったけど、ちゃんとしたカクテルを作りたいと思うようになり、勉強したり、色んな人に会うようになりました。結局7年ロンドンにいました。ロンドンのバーはすごくフランクですし幅も広いです。また、日本で言う居酒屋のようなお店に行ってもちゃんとしたカクテルが用意されていたり、人々のドリンクに対する興味や関心度も高いですね。海外の人は飲める絶対量が多いというのもあると思いますが……。僕は日本でも日本人に合う楽しみ方があると思うので、それをこれから提案していきたいです。
キュロのメンバーに出会ったのは2015年のこと。以前ソランさんがバーマネージャーとして働いていたFuglen Tokyoに、彼らが訪ねてきたのだそう。「彼らはウィスキー、ジンを作ることから始まって、いまは他にもビターズ(カンパリに近いような甘苦いようなお酒)を作ったりしています。バーテンダーを育てようという気持ちもありますし、ライ麦を使って、ポジティブに色んなことに挑戦しているところがすごく良いと思います」
キュロ・ディステラリー・カンパニー蒸留所では、蒸留所ツアーやティスティング、カクテルツアーも行なっているそうなので、フィンランドを訪れる際には、イソキュロまで足を伸ばしてみるといいかもしれない。たった5人の友人たちから始まった、自然豊かな故郷への愛情が感じられる、時間と手間をかけて生まれたライ麦100%のナプエのジンを、ぜひ試してみてほしい。
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All photos by Kentaro Yamada
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Kyrö distillery company
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野村空人
21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとして活躍したのち、2016 International Best Restaurant bar of The Year に輝いた Hawksmoor Spitalfields barのヘッドバーテンダーを務める。帰国後、ノルウェーの名店Fuglenの海外初店舗で有るFuglen Tokyoに入社し、数々の賞を受賞。現在はFinlandのKyrö distillery companyのJapan ambassadorとして活動中しながら、今年からドリンクコンサルタント会社ABV+を立ち上げた。
Soran Nomura
Born and raised in Tokyo, Soran moved to the UK in 2007 to pursue his bartending career. In London, he built his craft at bars such as Green and Red and Hawksmoor Spitalfields.
He moved back to Tokyo 5 years ago and became bar manager of Fuglen Tokyo. Since his return, Soran has made his mark in the Tokyo bartending scene by collaborating with brands, bartenders, chefs and PR companies, co-creating cocktails for various events.
Recently, he was appointed as Brand Ambassador of Japan for Kyrö distillery company from Finland.
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