ロンドン南西部にあるリッチモンドは、中心部から地下鉄で30分ほど離れたサリー州との境目の郊外の街。名の知れた観光名所はないため旅行客にはほとんど知られていないが、テムズ川となだらかな丘にはさまれ、美しい景色を擁し、しっとり落ち着いている場所だ。人々がロンドンに持つ、七つの海を支配した国の中心地然とした重厚な歴史的建造物やにぎやかな繁華街、最先端の流行の発信地といったイメージとは異なる魅力を持つ。
恵まれた景観の高級住宅街
都心へ向かうほど、またにぎやかな繁華街に近いほど不動産価値の上がる日本の都市と違い、ロンドンでは静かで風光明媚な土地の方が好まれ、高級住宅街となっていることが多い。極上の景観を持つリッチモンドは、エリザベスⅠ世が多くの時間を過ごし、人生の終焉の地として選んだ歴史を持ち、18~19世紀にはおしゃれな街として富裕層に好まれ、その頃に瀟洒な建物が多く建てられた。
恵まれた景観に美しい街並みが加わったリッチモンドは、現在ではセレブリティなど裕福な人たちが好んで居を構える高級住宅街となり、婚姻中だったアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの一家が暮らしていたことがある他、ミック・ジャガー、トム・ハーディなどが、現在、そしてかつてのリッチモンドの住民として名を連ねる。
テムズ川を眺めるように立つ、古い石造りの建物にオフィスを構えるeBay やPayPalなどのような大手を筆頭に、近年、数多くのIT企業がリッチモンドに拠点を置いている。厳しい国際競争に挑む最先端企業が優秀な人材を確保するためにはオフィスの立地や環境も重要ということか。
郊外の街であるリッチモンドの中心街はさほど大きくなく、軒を連ねるのは日本で「プチプラ」、イギリスでは「ハイストリートブランド」と呼ばれるメジャーなファッションチェーン店などがほとんどだが、少し脇道に入れば、個人経営の雑貨店やアンティーク店、子供用品店などもあり、ポッシュな人たちの好みが垣間見れる。
また、リッチモンドには、The CricketersやThe princess’s head、the Britannia 、そしてテムズ川沿いの立地が人気のWhite Crossなど、18世紀から、現在では文化財に指定される古い建物で営業をしていることを誇りとする伝統的なパブが多く、パブ巡りも楽しい。
美しい立地を存分に生かすイギリス人の余裕を楽しむ
リッチモンドを訪れる最大の楽しみは、窮屈な日本では見つけるのが難しい、美しい立地を存分に生かしたセッティングがそこかしこにされていること。
テムズ川沿いには、川を眺めながらのんびり食事や酒を楽しめる飲食店の選択肢がいくつもある。味と雰囲気にこだわるステーキレストラン「Gaucho」はそのひとつで、上質なアルゼンチンステーキが最高の立地で楽しめるとあって、ディナー時は要予約の人気ぶりだ。
また、リッチモンドを特別な場所たらしめているのが、中心街から歩いて行けるリッチモンドヒル。広大なリッチモンドパークの一角であるリッチモンドヒルからの絵画のような美しい風景は、景観保護条例により守られている。条例の発令は1902年と古く、それを現在も守り続けるイギリスに、国としての文化的な成熟ぶりがうかがわれる。
リッチモンドヒルからの眺めはロンドンの眺望のトップ10に入ると称するメディアは多い。特に、King Henry’s Moundという展望台から見える、大都市ロンドンの都心から地下鉄で来れる場所のものとは思えない平和で牧歌的な眺めには思わずため息が漏れる。
リッチモンドパークは豊かな自然をそのままに残し、その広い敷地には野生動物も多い。運が良ければ野生のウサギやシカに遭遇できることも。
リッチモンドは世界遺産の植物園キューガーデンから一駅。観光ついでに足を延ばすのも悪くない。バスや地下鉄も便利だが、キューガーデンとテムズ川の間に自然を生かした遊歩道があり、キューガーデンとリッチモンドを結んでいる。全長4㎞と少々長い散歩になるが、緑に囲まれた川沿いの遊歩道の散策を楽しむ、豊かな休日の過ごし方をするイギリスの人たちに混じって歩いてみるのも、旅の思い出になるだろう。
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All photos by Tamami Persson
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The Cricketers
The Green, Richmond, TW9 1LX
The princess’s head
28 The Green, Richmond, TW9 1LX
The Britannia
5 Brewers Ln, Richmond, TW9 1HH
White Cross
Riverside (off Water Lane), Richmond, TW9 1TH
Gaucho Richmond
The Towpath, Richmond Riverside, Richmond, TW10 6UJ
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パーソン珠美
シンガポール在住 通訳・ライター。さまざまな業界での通訳や取材、5ヵ国の在住経験と40ヵ国を超える海外渡航歴、国際結婚、子育て経験などから、軽快なフットワークをもってネタ収集に努める人生満喫中。
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