フランス最大の地域圏、オクシタニー

「オクシタニー」をご存知? フランス南西部から地中海にかけての広いエリアが「オクシタニー」と呼ばれるようになったのは、2016年のこと。フランスの地方再編により、22あったフランスの地域が13に編みなおされ、南西部から南仏にかけてのミディ・ピレネー地方とラングドック地方が合併して「オクシタニー」が誕生した。

フランスでもっとも広い地域であるこのエリア、いったいどんな場所なのだろう。2018年6月に来日したオクシタニー地方圏議会議長、キャロル・デルガ氏はこう話す。「ひとことで言えば、伝統的なものと現代的なものがバランスよく融合しているところ、といったところでしょうか。大学が多く、それゆえ街には志のある若い世代がフランス全土、いえ、世界中から集まります。なので、街は活気にあふれていますよ」

世界遺産に指定されたアルビの司教都市 |Patrice THEBAULT – CRT Occitanie

グルメな食材の宝庫

自然が豊かで8つの世界遺産を有し、歴史的名所も数多くあるオクシタニーには、1年を通じて観光客も多く集まる。ラグビーでも有名で、トゥールーズには大きなチームもあり、世界大会があるときなどは街を上げて大いに盛り上がるのだとか。そして、オクシタニーの最大の魅力の一つは、ガストロノミー。「これぞフランス!という食材に、ここではたくさん出合えます。例えばフォアグラやチーズやワイン。どれを取っても、高品質で世界に誇れる食材です」と、デルガ氏。世界三大珍味に数えられるフォアグラとトリュフを産し、これまた世界三大ブルーチーズのひとつ、ロックフォールチーズもこの地域の名産品、そしてワインについては世界最大の生産地とされている、と言えば、ここがどれほど美味なる地方かおわかりなるだろうか。「日本の方がまだあまり知らないおいしいものもたくさんあります。オクシタニーに来たら間違いなく太っちゃうでしょうけれど、心配はご無用。馬の放牧体験や、ツール・ド・フランスのコースを自転車で走るツアーなど、しっかりカロリー消費できるいろいろなアクティビティを用意していますから!」

代表的な郷土料理、カスレ |Dominique VIET – CRT Occitanie

地元食材を使った郷土料理

食材に恵まれた地域では郷土料理もまた豊か。海の幸にも恵まれ、魚介類の料理のバリエーションも幅広いが、ここでもっとも有名なのはミディ・ピレネーの「カスレ」だろう。カスレは、「カソール」と呼ばれる土鍋で白いんげん豆と一緒にソーセージや肉を煮込んだもので、ミディ・ピレネーのなかでも地域によって少しずつ異なり、がちょうのフォワグラの産地であるトゥールーズではがちょうのコンフィが使われるなど、それぞれの特色が出る、まさに郷土に根付いた料理だ。歴史をひもとけば、百年戦争のころまでさかのぼるとも言われ、オクシタニ―の代表的な一皿となっている。

ここでしか味わえないユニークな料理って?

もう一つ、ぜひとも紹介したいのがこの「アリゴ」。オクシタニーでも、オーブラックというエリアでのみ出される名物料理で、マッシュしたじゃがいもとトム・フレッシュというチーズを合わせ、生クリーム、バター、にんにく、塩を入れて練り上げるように作る。この、練り上げる動作がまた名物の一つで、レストランでオーダーすると目の前で仕上げをしてくれる。餅のように粘る生地をへらで高く持ち上げるパフォーマンスはユニークで、ここでしか見られない景色だ。トム・フレッシュは、熟成させる前の、文字通り「生(フレッシュ)」のチーズなので、遠くに運ぶことが難しく、本物のアリゴを食べられるのは新鮮なチーズが手に入る地元だけ。チーズとじゃがいもで作った白くてモッチモチのアリゴは、ソーセージや肉料理に添えるのが定番で、肉×ジャガイモ×チーズという黄金の組み合わせは、永遠に食べ続けられるのでは、と思うほど美味。さて、実はこのアリゴ、日本でも少しずつ知名度が上がっていて、温めるだけでできるアリゴミックスなども見かけるようになり、メディアなどでもちらほらと見かけるようになった。これはもしや、次なるトレンドフードかも? もしレストランで「アリゴ」の名前をみかけたら、ぜひともオーダーしてみてほしい。

チーズとじゃがいもで作った「アリゴ 」|Shutterstock

グルメ旅のデスティネーション

自然に恵まれ、豊かな食文化を持つオクシタニーは、食いしん坊を自称する人なら、ぜひ一度は訪れるべき場所だ。地元っ子になったつもりでマルシェを歩いたら、その食材の豊かなことに驚かされる。「オクシタニーのおいしいものについて話を始めたら、一晩かかるわよ!」と、デルガ氏。いや、きっと一晩でも足りないはずだ。いつどんな季節に訪れても“口福”をもたらしてくれる場所。そう、「オクシタニーは、おいしい!」のだ。

ナルボンヌのマルシェ |Laurie-BIRAL-Ville-de-Narbonne


取材協力:
フランス観光開発機構
オクシタニー地方観光局


沼田美樹

フードエディター、ライター。
大学卒業後、広告制作会社、アートギャラリー、出版社で勤務した後、フランスの美術センターにてキュレーターのインターンを経験。帰国後、美術雑誌、インテリア雑誌、グルメ雑誌、グルメサイトの編集を経て独立。食とライフスタイルを中心に編集、執筆を行う。