今年のデンマークは異常気象らしく、例年に比べて快晴が続き気温も高め。昨年の涼しい夏のイメージとは打って変わって暑い日が続く。それでもまだ、湿気もなく暑すぎず、快適に過ごせる最高の夏の天気。そんな日は中心部に近い海や湖などの水辺が、昼間から多くの人たちで溢れかえっている。小麦色の肌に憧れを持つ人たちもいたりして、焼けるだけ焼きたい!と、公園や水辺では、水着姿で日光浴を楽しんでいる姿をよく見かける。こちらが必死に日焼けをしないように気をつけている姿を見て、「お気の毒!」と言われるほど。

夏のコペンハーゲンに来たら、公園や海、水辺などの日光浴スポットで何もしない時間を過ごしてみてほしい。オススメの日光浴スポットの一つに、クリスチャニアの湖がある。どこにいるかを忘れてしまうほど、時間の流れを感じさせない。みんな家で過ごすかのようにゆったりとくつろいでいる。

クリスチャニア内では、お酒やお菓子・雑貨を取り扱う店もあり、クリスチャニアならではのちょっとしたお土産も購入できる。人もみんな人間味があり自然体だ。みんながルールを守り、そのコミュニティを築き上げていることを肌で感じられる。デンマークに住む人達は基本的に現金を使わず、クレジットカードや携帯のアプリで送金するモバイルペイを使用しているが、クリスチャニアでは一部のバーを除いて、現金のみの扱いとなっている。一部カードが使えるバーは割高だったりするので、それも踏まえて現金を持って行くことをオススメする。

正面入り口からクリスチャニアに入ると右手にALISがみえてくる。こちらはクリスチャニアで育った、アルバートとイザベルによって1996年に立ち上げられたスケーターブランドのお店。洋服は女性、男性、キッズ用まであり、ほとんどはオーガニックコットン素材でつくられているそう。ショップに足を運ぶと、お店の人がALISの歴史や活動について話してくれる。

彼らのブランドは、ただ単に洋服のブランドというよりコミュニティとして存在し、スケーターカルチャーに根付いている。hip hopの音楽イベントやスケーターのイベントなどをサポートしたり、チャリティーを行い寄付を募って世界各地(インドやネパール、モロッコ、イラク、ミャンマー、大阪)にまでスケートパークを建設している。ALISのお店の隣にあるスケートパーク“Wonderland”も、お店がオープンして2年後に建てられたもの。もちろんいつでも解放されていてお金もかからない。

さらに先に進んで行くと、大麻が売られているプッシャーストリートが見えてくる。大麻合法の国と少し販売方法が異なるため、驚きがあるかもしれない。デンマークでは基本的に大麻は、一部の医療大麻を除いて法律で違法となっている。しかしクリスチャニアでは堂々と大麻を販売し、吸っている人達がたくさんいる。それゆえに、クリスチャニア=大麻合法のヒッピーの街、というイメージを持っている人もたくさんいるかもしれないが、もちろんそれらに興味がない人達にとってもクリスチャニアは憩いの場所だ。

大麻についてすこし触れると、日本での麻の歴史は長く、今でも繊維や神具に活用されていることもあるが、医療、娯楽、研究全てにおいて違法で、大麻合法の国での使用についても、国外犯規定により罰せられる対象となっている。また薬物としての認知が一般的であり、“ダメ、ゼッタイ”のイメージが根強く残っている。

1937年頃のアメリカでは、全ての大麻の使用を禁止する法律が成立していた。この法律は大麻による害を防ぐための法律ではなく、大麻製品に課税するため、林業と合成繊維、化学薬品業界を活性化するための法律であった。この時代に石油や石炭から出来た合成プラスチックが、天然物から作られていた多くの製品に取って代わり、今でも至る所で利用されているのが現状だ。日本では、第二次大戦終戦後、ポツダム省令を受諾したことがきっかけで、大麻が麻薬と定義され、栽培や所持が全面的に禁止された。

デンマークでは大麻は違法とはいえ、日本ほど厳しい状況ではないらしい。どのくらい厳しいのかデンマークに住む友人に聞いてみたところ、クリスチャニアで堂々と大麻が販売され、多くの人がそれを楽しんでいて、たまに警察がクリスチャニア に偵察に来るとはいえ、ほぼ黙認しているようだ。ホームパーティーに警察の友人が参加していて、もしそこでみんなが大麻を吸っていたとしても、その警察の友人が何かアクションを起こすことはなく、プライベートと仕事上で必要とする行動は別とのことで、黙認するくらいのことだそう。

デンマークでは大麻を合法化するか、違法を貫くかの議論は継続的に行われている。クリスチャニアで販売されている大麻のほとんどは、ギャング達によって扱われている。時にはライバルのギャング達が、縄張り争いのために銃撃戦をして、住民の不安を引き起こしているそう。ついこの間は、警察がクリスチャニアのプッシャーストリートを7日間連続で襲撃した。そのときの映像が一部ネット上に上がって話題になった。全く関係なさそうな女性が突き飛ばされている。

コペンハーゲン市は大麻を合法化することを何度か提案しているが、デンマーク政府はそれを却下し続けてきた。しかしコペンハーゲン市は、公的機関が大麻の販売を専有する、試行合法プログラムを実施することを許可している。試行合法プログラムを実施することで、地元市場を支配しようとしているギャングたちの銃撃争いの増加を防ぐ効果もあり、さらには警察が多くの時間と資金を、大麻の取り締まりに費やしているのをセーブして、その時間と資金をより良い教育や医療に使えるのではないかと考えられている。

先月、政府は4年間のトライアルプログラムを承認し、少数の患者を2018年から医療用大麻で治療することを許可した。かつての世論調査によると、デンマーク人の88%が大麻を薬用に合法化することを支持し、半数以上がレクリエーション用途を容認しているそう。今後デンマーク内で対立している合法化問題は、どのような方向に落ち着くのか気になるところだ。

クリスチャニアは特別自治区とはいえ、政府に税金も収めているので、コペンハーゲン市の一部であるとも言えるのに、デンマーク政府がクリスチャニアの存在を認めているということが、どれだけデンマーク人は多様性に寛容なのか、ということが形になっている。

クリスチャニアのことをもっと知ってみたくなったら、毎週土日午後3時から、クリスチャニアの住人による英語とデンマーク語によるガイドツアーに、特に予約なし、Prinsessegade(プリンセスゲード)側のエントランス集合、50クローネ(900円程)で参加できる。7〜8月の夏の間は、毎日午後1時と3時の2部で、ガイドツアーを行なっているそう。英語に自信のある方もない方も、そちらに参加してみると良いかもしれない。


NATSUKO モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。

Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net