古書の街、東京・神保町にある『レピック』。
ボルドーワイン専門のインポーター(輸入会社)「L’Astre(アストル)」直営のワインバーだ。

アストル社長の井田浩樹氏と、「自分の仕事人生はほとんどバーカウンターの中」という生粋のバーテンダーでありシニアソムリエの丸山練太郎氏が手掛けるレピックは、地元の人や、近隣の会社に勤める人、また様々な世代の書物好きに親しまれ、この夏2周年を迎える人気店だ。

ボルドーワインをグラス一杯から楽しめる

20年近く前、ボルドーに3年間留学していた井田氏は、「日本で見聞きしてきたボルドーとはまったく異なる景色や表情、食文化に衝撃を受けた」と当時のことを振り返る。「“ボルドーワイン=赤ワインと肉料理”という公式が間違っているわけではないが、海に面したボルドーは、市場の中で魚介売場が非常に広く、シーフード料理も豊富、何よりも地元では白ワインが盛んに飲まれていることにも驚かされた」と話す。また留学生時代、現地の野球チームに入り、地元の人々と親交を深めた井田氏は、「人々の懐深い温かさは今でも忘れない」という。

ボルドーで過ごした時間は井田氏の人生の深き1ページとなり、愛するボルドーへの恩返しがしたいという思いのもと、“普段着のボルドーとワイン”を日本で発信していこうと立ち上げたのが「アストル」だ。アストルが扱うワイン生産者は約500~600社、そのすべてがぶどう栽培からワイン醸造までを一貫して手掛けており、彼らのことをアストルでは「アルティザン(フランス語で職人という意味)・ボルドー」と呼んでいる。生産者との緊密な関係のもと輸入される豊富なボルドーワインを、グラス一杯から手軽に楽しませてくれるのがレピックの最大の特徴だ。

ボルドーワインのみならずボルドーの入り口に

丸山氏は、レピックのカウンターに立つ傍ら、井田氏とともにワインの輸入業務にも従事しており、ボルドーにはかなり精通している。カウンターに座れば、ワインのみならずボルドー現地の最新の情報が自然と耳に入ってくるのもレピックならではだ。

また、アストルはボルドーで日本人シェフ宮本哲朗氏が腕をふるうレストラン『L’exquis(レクスキ)』も運営しており、宮本氏からも現地の情報が日々レピックに届けられるそうだ。レピックは現地さながらのつまみも充実しており、料理を任されている佐藤紘子シェフは宮本氏とも相談しながら日々の料理を創り出している。ボルドー発のワインと料理、そして現地のリアルな情報にも触れられるレピックを、丸山氏は「ワインのみならず、ボルドーの入り口」と呼んでいる。

佐藤紘子シェフ

ワインの事始めにレピックを

ワインをはじめ、様々な酒を相手にしてきた丸山氏は、「今や世界中に広がるワインの産地を挙げ始めるときりが無いが、赤ワインであればカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、白ワインであればソーヴィニヨン・ブランやセミヨンといった、ワイン事始めにふさわしいぶどう品種を扱うのがボルドー。ワインが好きな人にはより深いボルドーワインの世界を、またワインに詳しくない人でもボルドーワインを軸に色々と好みの幅を広げていくことができるのもレピックの良さだ」という。

左から、佐藤紘子シェフとシニアソムリエの丸山練太郎氏

レピックおすすめのワイン

3日以上は畑仕事をあけたくないというほどぶどう栽培が好きなブルーノ・マルタン氏が造る「Château ROLAND LA GARDE(シャトー・ローラン・ラ・ギャルド)」の赤ワイン。ワインを作るぶどうを良くすることに力を注いできたら自然とビオディナミ(自然農法)になっていたそうで、ぶどうのいきいきとした美味しさがぎゅっと閉じこめられており、鯖との相性の良さにも驚かされる赤ワインだ(1杯880円+税)。

また、白ワインのみを醸造しているエルヴェ・デュブルデュー氏の「Chateau Ducasse(シャトー・デュカス)」は、ドライで透明感があり、多くの名だたるレストランでも扱われている高品質なワイン。のどを通り過ぎたあとも残る、ピュアなミネラル感の余韻が非常に心地よい白ワインだ(1杯840円+税)。

また「フランスパン ヴァンテアン」から取り寄せているバゲットにも注目だ。北海道産小麦と北海道産ライ麦を用い、16時間以上の発酵で旨みを引き出しており、料理と合わせるほか、バゲットだけでも十分ワインの肴になるほど滋味深く、ぜひ味わってもらいたい。

“L’EPIQUE(レピック)”という店名に込めた思い

2~3ヶ月に1度はボルドーに出張するという井田氏のほか、アストルの社員も立ち寄ることが多いというレピック。インポーターと一緒にワインを楽しむことができるのも直営店ならでは。はためくフランス国旗と樽が置かれた軒先、叙事詩という意味の店名、8席のカウンターで、それぞれのボルドー物語を紡いでみてほしい。


Bordeaux Wine Bar L’EPIQUE(ボルドー ワインバー レピック)
住所:東京都千代田区神田神保町1-7-1
電話:080-7937-7890
営業時間:17:00~23:00(L.O.)

Menu:
グラスワイン680円~
おつまみ300円~


All photos by Misa Nakagaki

奥田ここ

国内外各地の市場を「師」とあおぎ、旬の食材を中心にした和食及びイタリア料理の料理教室を主宰。外国の方の参加や築地市場内での料理教室など様々なスタイルで開催するほか、各種媒体・広告へのレシピ提供や、食材産地の取材および食に関するさまざまな話題の企画・執筆に加え、個別の要望に応じた出張料理など、国内外問わず活動中。素材の味を大切にし、無駄なく使い切る献立作りを心掛けている。
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中垣美沙 | Photographer

写真家
雑誌や書籍を中心に撮影し、自身の作品制作も行う。
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