夏を飾る、素麺

冷たい素麺を流しこんだときの、のどごしは夏の楽しみだ。

茹でて、〆て、つゆにつけるだけで格別な夏の麺のひとしなになる素麺の歴史は古く、平安時代の法令を記した書物「延喜式(えんぎしき)」には、七夕に素麺を食べ無病を願う、という記述があったと伝えられている。その後時代を経て、現在の素麺の原型ともいえる姿で食されるようになり、江戸中期には有名な産地が出てくるなど、素麺づくりが盛んになっていったようだ。

天の川を思い、七夕に素麺

7月7日は七夕。天の川を渡り、織姫(織女星しょくじょせい)と彦星(牽牛星けんぎゅうせい)が、1年に1度の逢瀬を楽しむというロマンティックな中国の伝説にちなんだ行事。

中国や日本のいくつかの言い伝えや行事が重なりあって出来上がった現在の七夕だが、その源流といえるのは織女星と牽牛星。織女星は裁縫を、牽牛星は農耕を司る星と考えられている。そしてこの頃は、ちょうど麦が穂を黄金色に輝かせ収穫の時期を迎えることから、麦秋と呼ばれる時期でもあり、麦の収穫に感謝し小麦を使った素麺を神前に供える風習があった。

初夏のこの時期はちょうど前年の米の備蓄が少なくなる頃でもあり、それを補う食物としての麦を使った素麺が人々の食を支えており、織女星の裁縫にちなんだ糸、牽牛星に供える食品とが重なりあい、糸になぞらえた素麺が七夕の行事食として用いられるようになったと言われている。

手製つゆと薬味で極上素麺

素麺をおいしく食べる一つめのキーワードはつゆ。素麺つゆは、蕎麦やうどんの出汁とは異なり、日頃の和食で使う昆布とかつおぶしの出汁で作ることができる。またつゆの味は、そのまま味見をしたときに「ちょっと濃いな」と感じるぐらいが正解で、味見をしてちょうどよい味では素麺をからめたときに、ぼやけた味になるので要注意だ。

Photo by Misa Nakagaki

二つ目のキーワードは薬味。小麦の旨みとつゆのこく、そこに香り豊かな薬味が相伴することで、暑い夏に涼を届ける素麺に仕立てあがる。基本は大葉と生姜だが、みょうがや長ねぎなど薬味の重ね使いもおすすめだ。

Photo by Misa Nakagaki

素麺つゆ・薬味・素麺の茹で方

素麺つゆ:作りやすい分量
出汁(かつおぶしと昆布):2カップ
淡口醤油:大さじ5
砂糖:大さじ2と1/2
みりん:大さじ2
醤油:大さじ1

1. 鍋にだしを入れる
2. 他の調味料も入れて、加熱する前に砂糖をとかす
3. 火にかけ、ひと煮立ちさせ、冷ます
4. 粗熱がとれたら冷蔵庫へ入れ、しっかり冷やす

薬味:1人分
大葉:1~2枚
生姜:10g

1. 大葉を洗い千切り、ふきんで大葉を包み、ふきんの上からさっと流水にさらし、水気を切る
2. 生姜を洗い、皮をむき、おろす

素麺:1人分
素麺:1わ
さし水:約1カップ

1. 湯をわかし、素麺を入れ、箸でざっくりと素麺をほぐす
2. 湯が再び沸き上がってきたら、水1/2カップを鍋にいれる。この工程をもう一度繰り返し、3回目の沸き上がりで火をとめ、ざるに素麺をあげる
3. 氷水を入れたボウルに2.のざるを入れ素麺を洗い、素麺にすこし弾力が出てくるぐらいまで、水を換えながら行う
4. 水気を切り、素麺と素麺つゆをそれぞれに盛付け、薬味とともに素麺つゆにつけながら食べる

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具材や薬味で自分好みの素麺に

今回紹介した内容は、様々な風味をそえた素麺に展開していくことができる基本形。身近な食材を通して自分好みにアレンジするのも素麺の楽しみ方のひとつだ。

具材を添える
・きゅうり
-細切り
-薄切りにして塩水につけ、水気をしっかり搾り、ごま油少々をまとわせる

・椎茸
-椎茸のカサ側に塩を少々ふり、網で焼き細切り
-細切りにして茹でる

・ズッキーニ
-薄切りにして少量の油で焼くように揚げ、ほんのすこし塩をふる

・卵
-薄焼き玉子にして、細切り

薬味を増やす
・白ごま
・松の実やくるみなどのあまり甘くない種実類を叩いてくだく

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基本形をベースに、冷蔵庫にあるものや手に入りやすい食材を加えることでさらにひろがる素麺献立、身近な食材から自分好みの素麺献立を創っていくのもおすすめだ。

手製素麺つゆは密閉容器に入れ冷蔵庫で1週間強保存可能。また夏の常備つゆとしてだけでなく、ちょっとした手土産として活用することもできる。この夏は、ぜひ手製素麺つゆにトライしてみて欲しい。

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All photos by Misa Nakagaki

奥田ここ

国内外各地の市場を「師」とあおぎ、旬の食材を中心にした和食及びイタリア料理の料理教室を主宰。外国の方の参加や築地市場内での料理教室など様々なスタイルで開催するほか、各種媒体・広告へのレシピ提供や、食材産地の取材および食に関するさまざまな話題の企画・執筆に加え、個別の要望に応じた出張料理など、国内外問わず活動中。素材の味を大切にし、無駄なく使い切る献立作りを心掛けている。
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中垣美沙 | Photographer

写真家
雑誌や書籍を中心に撮影し、自身の作品制作も行う。
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