タイで人気の観光地というと、エネルギッシュで眠らない大都市バンコク、開放的なビーチリゾートのプーケットやサムイ島、バンコクからの日帰りのエクスカーションも可能なアユタヤの遺跡などがメジャーだ。タイ北部に向かう人はあまり多くはないかもしれない。

今から900年ほど前に、タイ族による最初の王朝が開かれたスコータイ。スコータイ歴史公園は、現在のスコータイの新市街から西へ12キロに入り口(チケットセンター)があって、その先に70平方キロメートル(皇居の約60倍)という広大な土地に約200の遺跡が点在している。すべてを歩いて回るのはとても無理な広さだ。

© Atsushi Ishiguro

スコータイ歴史公園の周りには世界資本のラグジュアリーなホテルが並ぶが、地元の人たちが住む旧市街のリーズナブルな小さなホテルに宿を決めた。ここから歴史公園まではトラックの荷台にベンチがしつらえられたバスで20分ほど。バスを降りたそばに貸自転車屋で自転車を借りることができる。1日目は自転車を借りて、まずは中心部を回ることにした。

食べ物を大切にありがたくいただくということ

公園のチケットセンターのそばに、いくつか食堂がある。といっても屋根しかない大きな東屋はまるで日本の海の家のようだ。そろそろ昼時ということで、その中の1軒で、豚肉バジル炒めご飯を食べることにした。観光客相手なので写真のメニューがあってわかりやすい。かといって値段が高いということもない。プラスチックの、バラの花が描かれた皿に盛られて料理が運ばれてきた。まず、ここで愕然とするのである。量が少ない。そういえば、旧市街に到着してすぐ食べた屋台のタイ風チャーハンも、軽くご飯1杯程度の量だった。そう、1食の量が少ないのが当たり前のようなのだ。

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あまりにもあっけなく食べ終えたせいか、食堂のおばちゃんがもう一つどうだと聞いてきた。周りの人たちは、ゆっくりと味を楽しみながらしっかりと噛みしめて食べている。そう気づけば、なんとなく恥ずかしいのである。確かにおいしくいただいたのだが、ちゃんと噛みしめて、深く味を感じて、感謝しながら食べたのだろうかと、自問する。答えはあまりにも単純なNO。郷に入りては郷に従えということで、それからはゆっくりと大切に食事をとることにした。

2日目には、ホテルで120㏄のバイクを借りた。風を切って歴史公園へ走る。そして、公園内の比較的遠い場所に足を伸ばした。11月に行われる、ロイクラトンという祭りはスコータイが発祥の地。数日にわたってパレードや様々なイベント、夜には歴史絵巻が光と音で描かれるショーも開催される。その直後だったこともあって、観光客は少ない。仏教にかかわる遺跡の数々を見て回っても、静かで落ち着いた雰囲気なので、それだけでメディテーションのようだ。

© Atsushi Ishiguro

ご飯を食べることもメディテーション

公園の中には高床式の古い建物でマッサージを受けることができる。鳥の鳴き声や、吹き抜ける風が気持ちいい。眠ってしまった。起きた時にはもうマッサージは終わっていたが、おばちゃんたちが、寝ていけ寝ていけと手振り身振りで勧めてくれたので、そのまままた、うつらうつらとまどろみを楽しんだ。

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この日のランチは、歴史地区の少し外側を走る幹線道路(といっても田舎の上下1車線の道)にあった街道の食堂へ。カシューナッツと鶏肉の炒めたものだが、これまた量が少ない。ゆっくりと味わう。そうするとしっかりおなかがいっぱいになる。気持ちの満足感が満たされていく。タイでご飯を食べるなら、やっぱりこれがいいんだな、自然なメディテーションでもあるのだなと実感した。結局日本に戻れば、せかせかした食事に戻るのだが、時々この旅の食事の摂り方を思いだして、反省するのだった。

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今までで一番好きなタイ料理店に出会う

旅先で食べる現地の料理は非日常で、いつも日本で食べているものとはまた異なった感動がある。限られた旅程の中で食べる食事の回数には制限があるし、行ける場所にも制限があるのだから、感動を超えた喜びに出会える確率は高くない。スコータイの旧市街にある「Dream Café」は、そんな奇跡の1店だ。でも、食べ物の好みは人によって千差万別だから、あくまでも自分好みということで、私見に過ぎないのだけれど。

© Atsushi Ishiguro

タイ料理のサラダには、単なる野菜という枠に収まらずしっかりとした1品になっているものも多いが、海老と鶏ひき肉のサラダその一つ。イエローカレーの爽やかな辛さがシーフードに合う。グリーンカレーはシンプルだが奥が深い。英語も流ちょうな店員に、自家製で毎日その日の分を用意するというカレーペーストの配合を聞いてみたが、秘密だといってにっこり。タイの意味は「微笑みの国」。その威力はなかなかで、それ以上突っ込んで聞くことはできなそうだ。

この店には2日連続で出かけた。一人旅には気ままという大きなメリットがあるが、料理をシェアしていろいろ試せないという大きなデメリットがある。いろいろ試したければ、何度か出向かなければならないのだ。

2日目は茄子のサラダで始める。タイには、丸いナスや長いナスなどいろいろあるがこちらは後者。シンプルな味付けがいいのだが、概してそんなサラダはとても辛いのだ。これも辛い。豚肉のレッドカレーもまたいい。ココナッツも新鮮なものを使っているようで、なかなか日本では出せない味だ。

食事をゆっくり楽しんでから、地元の人たちで盛り上がるナイトマーケットへ足を運んだ。地元料理もあれば、寿司、タコ焼き、焼き鳥も、現地の人が作って売っている。すぐそばの公園では野外ディスコが行われているし、バンドや吹奏楽の演奏もあって賑やかだ。画像で、その雰囲気を感じてもらえればうれしい。


タイ政府観光庁|スコータイ歴史公園 


All photos by Atsushi Ishiguro


石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。

HP:http://ganimaly.com/