日本からデンマークに訪れる人たちを観察していると、みんなどこか日本の未来に興味があり、自分や日本の社会がより良い方向へ向かうにはどうしたらいいか? そのヒントを探りにデンマークに来る人は少なくない。そしてデンマークを知る中で、外せないのがクリスチャニアの存在。

クリスチャニアはコペンハーゲンの、東京で言う所の銀座のような一等地に存在する。

広さは34ヘクタール、人口はおよそ1,000人以下。そこに住むには空家があり次第申請をし、申請者全員が集められ、住人によるオリエンテーションによって “社会状況”、“家族構成”、“クリスチャニアでの雇用”、“クリスチャニア繁栄への貢献” などを加味して審査される。そして審査通過者の中から抽選で移住者が決まるそう。

クリスチャニアは元々は軍事基地だったところ、数人の警備員によって見張られているくらいで、徐々にヒッピーや不法居住者の憩いの場となっていった。1971年頃、近隣の住人が子供達を遊ばせるため、フェンスを壊したことをきっかけに、多くの人々が出入りするようになりクリスチャニアは建国された。最初は50人ほどだった住民が現在は1,000人近くに及ぶ。

1973年、政府はこの場所を ”社会的な実験” と呼ぶようになり、1989年についに国会で過半数の票を獲得して住民による自治が認められ、”不法占拠” も撤回された。

クリスチャニアは独自の国歌もあり、そのタイトルは、“あなたに私は殺せない” 。

2012年にはフリータウン・クリスチャニア財団が設立され、土地はこの財団の所有となっている。1994年以来、デンマークに税金は納めているが、独立したルールによって成り立っている。基本的なルールは、ハードドラッグの禁止、自動車の通行禁止、暴力の禁止、銃や刃物、防弾チョッキの禁止など。車はゴミ収集車などの関係者しか入ってこれず、自転車での侵入はもちろん可能だが、みんな街に入れば自転車から降りて歩く。他にも、犬に鎖をするのは禁止、プッシャーストリートと呼ばれる大麻を販売している場所で、許可を得ずあからさまに写真をとったりすることも禁止とされている。家には”no photo” と貼られているところもある。もちろんそれらを知らずにおこなったからといって、捕まる訳ではないが、モラルに関することにはシビアだ。

クリスチャニアには住民の代表者はなく、権威を振りかざすような人もいなければ、上下関係も、男女差別もない。何か大事なことを決める時は、全住民が集まり結論がでるまで話合う、直接民主主義で成り立っている。その時だけは街を封鎖するそう。そして51:49や、80:20で賛成が多くても話し合いは終わらず、90:10くらいになったら、まぁこれでいきますか、となるらしい。どれだけ時間がかかったとしても、最後にみんなが納得することが最も大切だそう。時間こそが人々を豊かにする。これらの考え方は基本的にデンマーク的な考え方と同じで、クリスチャニア はそれをより濃くナチュラルにしたものと言える。

クリスチャニアに来ると、”郷に入っては郷に従え” という教訓を思い出す。

クリスチャニアで犬に鎖をしている人を見かけると、外から来た人なんだな、とすぐにわかる。ハイヒールを履いている人やスーツを着ている人、周りに不快感を与えるほど大騒ぎをしている人たちを見かけたことは、今のところない。逆にかなり自由な身なりの人たちはたくさんいて、その自由度はかなり高い。家にいるような、リラックスして過ごしている人達がたくさんいて、どこか心地が良い。全くの他人がたくさんいる中でここまでリラックスでき、ただただピースフルで、人間の表現の自由が限りなく追求でき、受け入れられている。そこにはモラルが必要で。モラルとは何か、モラルさえ守ればどれだけ幸せに、人々が調和して自然体に関わり合えるか、そんな感覚を説明なしに感じさせてくれる場所。

基本的には家は全てDIY

そこに住む人たちは、コペンハーゲン市内に働きに出ている富裕層の人達もいれば、アーティストや自給自足の生活をする人など様々。

クリスチャニア の真ん中には大きな湖があり、それを囲むようにDYI で作られた家が点在し、どの家もデンマークの洗礼されたデザインとは打って変わってとてもユニークだ。クリスチャニアに来たら、それらを見て回るといいかもしれない。ただ基本的には住居なので、住んでいる人たちに敬意と愛を忘れずに。

デンマークでよく見かけるクリスチャニアバイクはクリスチャニア発祥

クリスチャニアに住むとあるカップルが、カーフリーを掲げ興したエコロジカルバイク。前の荷台に子供を乗せて幼稚園に連れて行く親達や、買い物をし荷物を乗せたり、レストランを運営する人や郵便局の人達の荷物を運ぶツールに、たくさんの人達に日常的に愛用されている。クリスチャニアバイクはクリスチャニアでもレンタル可能で、その運転は思ったより難しいが、一度トライしてみる価値はあるかもしれない。

デンマークのまちなかにはあちこちにリサイクルショップがあり、ただも同然の値段でいろんなものが売られている。それもクリスチャニア発祥のムーブメント。クリスチャニアにはリサイクル建材屋や、こちらはゴミ置場かと思いきや、まだ使えそうないらなくなったものを置いていき、欲しいものがあれば持ってかえれる無人の物々交換所。

デンマークでは、全てがオーガニックのものを取り扱う幼稚園が増えてきている。それを最初にし始めたのも、クリスチャニアにある幼稚園だ。

デンマークでよく見かける空き瓶入れ付きのゴミ箱も、クリスチャニア発祥

デンマークでは、ペットボトルや瓶、缶をスーパーマケットに持っていき、専用の機械に投入すると、その分のお金が返金されるシステムがある。外でジュースやお酒を飲んでいたら、その空き缶を持って行っていいか?と回収に励んでいる人がいる。その人達のおかげで、ピクニックシーズンでも公園に空き缶が転がりっぱなしになることはなく、野外フェスティバルが行われる際にも、そのシステムのおかげで掃除が何倍にも軽減されている、画期的なシステムだ。

クリスチャニアでは空き瓶をゴミ箱の外に置く習慣がある。ゴミ箱の中に入れてしまうと、瓶を集めている人達が、腕をゴミ箱に突っ込んで取ることになるので、その手間を省くため、瓶等はゴミ箱の外に置くようになった。デンマークはその慣習を、ゴミ箱の側面に空き瓶入れを作るという形で導入した。とても小さなポイントだが、クリスチャニアの人達の愛情深さや、デンマーク人の良いと思ったことは積極的に取り入れ、自分たちの文化に落とし込むというクリエイティブ精神が感じられる、とても心温まるストーリーだ。

少しでもクリスチャニアのことを聞いたことがある人は、ヒッピータウンや大麻合法な場所というイメージを思うかべ、中にはその言葉自体にネガティブなイメージを持っている人も少なくないかもしれない。しかし実際にクリスチャニアの歴史や、そこで暮らす人々の様子を見てみると、私たちなんかよりもずっと自然体で人間味や愛、道徳心に溢れ幸せに暮らしている。何よりコペンハーゲンに住む人達や、海外からコペンハーゲンに訪れる人達の憩いの場にもなっている。さらには、デンマークでのほとんどムーブメントはクリスチャニアが火付け役になっていたと知ると、クリスチャニアはデンマークそのもの、もはや真髄とも言える場所なんだと気づかされる。

紛れもなくデンマークは、コペンハーゲンの一等地に、クリスチャニアの存在を認めている。そこでは実際に違法な大麻も、いまだおおやけに売買されている。そのことで警察との闘争がいまだにたびたび行われている。その論点については次回続編にてご紹介させて頂きたい。


NATSUKO モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。

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