ポルトガルの首都リスボンは、大西洋に流れ込むテージョ川の北岸に位置し、中心部の平地は狭く、東西、そして北からも丘が迫っている。そうして郊外へと続いていく丘にも、建物がひしめき合っていて、高低差だらけなのだ。

リスボンを訪ねる楽しみ一つはもちろん料理。そして、この町の独特な地形ならではの公共交通機関もとても魅力的なのだ。

スタンドアローンのエレベーターも公共交通機関

夜6時頃リスボンに着いた。ホテルにチェックインするなり、歩いてすぐの場所にあるエレベーターを見に出かけた。リスボンのエレベーターが一般的なものと違うのは、ビルの中にあるのではなく、エレベーターだけが単独の建造物として立っているというところ。スタンドアローンなのである。

リスボンの古い建物の間に、すっくと立つ姿は美しい。1902年に完成したというから、もう115年歳。機能美とアールデコの様式が混じりあって魅力的なのだ。ライトに照らされて、夜はさらに甘美なイメージが漂う。

垂直に立ち上がるエレベーターに乗ってみる。エレベーターの籠の中は木造で、そのアールを描く窓も美しい。二重のドアを出て空中の短い通路を数メートル歩いたら、そこはもう西側の標高の高い地区だ。乗っているのは30秒ほどだから、交通機関というのは適当ではないかもしれない。

比較的勾配の少ない通りを下って、ホテルにそばに戻った。そばのレストランで遅めの夕食に選んだのはイワシの炭火焼。塩を振った新鮮なイワシを、炭火で香ばしく焼き上げたシンプルなもの。一皿に並ぶのはどこの店でもだいたい4尾から5尾で、トマトとレタスのサラダに茹でたジャガイモが添えられる。イワシのうまみがよくわかる。日本で食べる魚の塩焼きもそうだが、新鮮な素材さえあれば、あとは火加減と塩加減。そんな食べ方を知っているポルトガルの人たちに、親近感を感じるのだった。

市街地は走り回るトラムを上手に使う

翌朝、今度は東側の丘に出かけて遠目でエスカレーターを眺める。昼は周りの建物に静かに同化しているようだ。そのまま歩いて、フィゲラ広場にあるコンフェイタリア・ナシオナルというカフェに向かった。このカフェはなんと1829年創業。甘いペイストリーと濃いコーヒーがよく合う。簡単な朝食にちょうどいい。

このフィゲラ広場からトラムに乗って、まずは南下して川岸に出て西へ進み、ベレンという修道院のある街へと向かう。

最盛期には15系統あったトラム。いまでも6系統が運航されている。その古い車体は見るからに重そうで、ぐいぐいと狭い通りを進む。トラムが走ってくれば、車も人もよけなければならない。トラム、車、それに人を隔てる柵もないので、すぐ横を通り過ぎていくからちょっとスリルを感じる。

テージョ川対岸の漁村でシーフードを堪能する

ベレンには、ジェローニモス修道院とベレンの塔により構成される世界遺産があったり、修道院由来のおいしいエッグタルトの老舗パステル・デ・ベレンがある観光地だが、ここからテージョ川の対岸にあるトラファリアという漁村までボートで行く観光客は多くはない。出港して30分ほどで到着。

海沿いの通りあるレストランの一つに入って、アジのフリットとコウイカの仲間と思われる銅が太いイカの炭火焼を食べてみる。どちらもシンプルながら旨い。ちょうどいい塩加減だ。

帰りの船の時間に合わせて静な街並みを散策したり、広場に面したカフェで地元の人たちをぼんやり眺めたり、穏やかな時間を過ごす。

船でベレンに戻って、トラムに乗って市街地に帰る。古い車両はインテリアが木製のものがあって、なかなかいい雰囲気だ。

翌日には、旧市街の川沿いの広場にあるシーフードの店にでかけた。名物バカリヤウのコロッケがいい。バカリヤウはポルトガルの干し鱈。塩が効いているので、水でゆっくり戻してから使う。軟らかく煮た蛸は、うっすらとした塩味。イワシの丸焼きもそうだが、干し鱈と煮蛸と、日本の食文化に通じるものがあるのがうれしい。

ケーブルカーも市民の足

今度はケーブルカーを利用してみる。中心の平地部分と西の丘の上をつなぐ3つの路線は、地元の人も観光客も使う便利な足だ。丘の上は、商店やレストランが多いバイロアルトという地区で、そこで人気のBairro do Avillez Tabernaへ。

ポルトガルはシーフードも旨いが、豚肉の料理がまた旨い。豚の丸焼き肉を使ったサンドウィッチは、その肉が香ばしくジューシーで、ラフな料理だが絶品だ。生ハムも種類が多く、肉質と味の違いを堪能することができる。それに豚の丸焼きも名物料理。サンドウィッチでいただいたが、クリスピーな食感とジューシーなうまみがいい。

日本に帰って作って食べたポルトガルの庶民の味

日本に帰ってからしばらくして、バカリヤウのコロッケを作ってみた。作り方は難しくなく、日本の干し鱈で美味しく出来た。最近はポルトガルのワインも手に入りやすくなっているのもうれしい。

そういえば、天婦羅もカステラもポルトガルから伝来したもの。なるほど、日本人の食文化に影響を与えた国だけあって、ちょっと懐かしいような気分になる食べ物が多いのだった。


All photos by Atsushi Ishiguro


石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。

HP:http://ganimaly.com/