日本人に人気の旅行先の定番

おそらく10年ほど前からベトナムは日本人にとって人気の旅行先と言われているので、少し調べてみよう。

2016年の統計によれば、国別の日本からの旅行客数ランキングの第8位で、第7位のグアム島の81万人より少なく、第9位の香港の64万人とほぼ同じ65万人だった。2012年からしばらく10位前後だったのが8位に上がってきている。ランキング上位の常連国は、アメリカ(ハワイやグアム等を含む)、中国、韓国、台湾、タイ、シンガポール。その他のアジアの国や、ヨーロッパの国がそれに続く。2017年、世界からベトナムを訪れる総観光客数は10年前と比較して約3倍に増加して1300万人になった。

そう、確かにベトナムは人気の旅行先なのだ。

元気で明るい社会主義国

ホーチミンを訪れたのはもう10年ほど前。空港からバックパッカーに人気の安宿が軒を連ねるブイビエン通りに向かった。そのエリアにある、1階がベトナム料理屋の民宿に泊まることにした。料理屋と宿は同じ経営者で、30歳くらいの若いオーナーが家族と一緒に営業している。彼も家族もみな明るい。にっこり笑って声をかけてくれる。いい宿を見つけた。

荷物を部屋に置くなり、観光客にも人気のベンタイン市場に早速出かけた。土地の人たちの食料品、生活雑貨、衣料品が売られているが観光客向けの土産屋もあって、みんな外国人に慣れている様子。客引きも軽く声をかけてくる程度で激しくない。こちらが冷やかし程度の質問を返しても、にこにことまじめに答えてくれた。町のあちこちに、籠をしょったり、リヤカーを押して野菜などを売り歩く人がいる。行商のお母さんたちが歩道で休憩していた。何か楽しそうにのんびりと話している。

少し歩けば、勤め人と思われるお父さんたちがカフェに集まっている。飲んでいるのはコンデンスミルクたっぷりで甘いベトナムコーヒー。こちらも何かたわいもないことを話しているようで、笑い声が絶えない。

ベトナムの正式名称は「ベトナム社会主義共和国」。1954年に南北に分断された後、1962年にはベトナム戦争が勃発し1975年まで続いたのち、1965年に南北が統一された、というのは歴の教科書の通り。ホーチミンからはその戦争の爪痕を見学できるツアーに参加できる。ゲリラが張り巡らせた地下通路や、林の中に置き去りにされた戦車、爆撃によってできた10mを超えるクレーターなど、生々しい。

また、メコン川沿いの村を訪れて、伝統的なライスペーパーやココナッツキャンディーの作り方、ニョクマムを作る工場なども見学した。悲惨な時代を乗り超えて、みんな元気に生活しているなと感動する。ベトナムは他の社会主義国と同様に、1980年代には資本主義経済を導入して、より自由な経済活動ができるようになった。民宿の若オーナーは、もっともっと働いで事業を大きくしたいと笑っていた。

屋台のバインミーは一日中楽しめる


ベトナムはフランスの植民地だった時代もあるので、ベトナム料理にもフランス料理の影響があるといわれている。エスニック料理にカテゴリーされることも多いので辛い料理ではないかと勘違いするが、中華料理の影響もあってなんとなく食べ覚えのあるような料理も多い。米の麺であるフォーのスープもそうだが、きっちりと出汁を取っているので味わい深いのだと思う。

バインミーはフランス語のPain de mie (パンドミ)がその語源。本来は単にパンという意味だ。一見フランスパンだが、中はふっくらと柔らかい。切れ目を入れて、その間に具を挟むサンドウィッチだ。まずパンにバターを塗り、レバーパテを重ねて、スライスして甘酢に漬けたニンジンとダイコン、玉ねぎ、キュウリを乗せ、ハムやサラミ、鶏や豚などの肉を調理したものを挟み、ニョクマム(魚醤)を振り、パクチーを乗せて挟む。食べるときには、ちょっと押しつぶすようにして食べやすくする。

ドンコイ通りにも、早朝から屋台がやってくる。具を選んで注文する仕組みだが、言葉が通じずに指差しで大丈夫だ。出来上がれば、電話帳の1ページでくるりと包んで渡してくれた。その日、一日中あちこちと歩き回ったあとに深夜にこの通りに戻ってくると、まだ同じ屋台が営業中だった。「シンチャオ(こんにちはの意味で一日中使う)」と声をかければ、覚えていてくれたのかどうかは定かではないが、にっこり笑い返してくれる。それだけで嬉しい。夜中でも、バーで飲んで帰る観光客を相手に締めのラーメンならぬ締めのバインミーを作り、忙しそうだった。

日本に帰ってから、バインミーを作ってみた。

日本でも、バインミーに挟む具材は揃うのだが、あの独特なフランスパン風のものが見つからない。自分で焼いてみると、まぁまぁ。都内のバインミーを出す店数件に出かけて聞けば、どの店も独自のパンのレシピを持っていて、自ら焼いたり、提携するパン屋に焼いてもらったりしているそうだ。そのうちの一軒のベトナム人オーナーから、比較的似ているフランスパンを売っているというパン屋の情報を教えてもらった。それを使って作ってみればおいしい。なるほど、ベトナムのことはベトナムに聞くのが一番なのだと、当たり前のことを再認識させられた。

海外の街を歩いていて、自宅の前の通りを箒で掃除している人をみることは少ないのだが、ベトナムではよく見かけた。日本人も、自分の家の前と隣の家の前まで少しきれいにしなさいと教わるが、そういった倫理観がベトナムにもあるのだなと、なお一層親しさを感じたのだった。。


<参考>

日本政府観光局

Viet Nam National Administration of Tourism

All photos by Atsushi Ishiguro


石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。

HP:http://ganimaly.com/