僧侶が食事するのを見学する。写真や動画の撮影もOK。
聖職者に対しとても失礼な気がするが、これが敬虔な仏教国ミャンマーで人気の観光スポットだ。同じく熱心な仏教徒であるタイ人を含む外国人をはじめ、ミャンマーの人たちも食事時の僧院につめかけ、僧侶たちが食事をとる光景を楽しそうに眺めている。

食事見学の2大有名僧院はアマラプラとバゴーに

僧侶の食事見学で最も有名なのは、ミャンマー第2の都市マンダレー近郊の町アマラプラにあるマハーガンダーヨン僧院だろう。1,000人近い僧侶が暮らす国内最大級の僧院だ。しかし、個人的なおすすめは、ヤンゴンから車で2時間ほど東に行った街バゴーに位置し、500人を超える僧侶が修行を積むチャカッワイン僧院。マハーガンダーヨンは食坊の外から窓越しに見学するのに対し、こちらは中まで入ることができるからだ。

日本の仏教は、修行を重ねた僧侶が多くの信者を救済すると考える大乗仏教が、ミャンマーやタイ、スリランカの人々が信仰する上部部仏教は、信者ひとりひとりが修行して各自が解脱を目指すことを求めている。戒律は227にも及び、一般人はその一部を守るだけでよいが、僧侶はすべて守らねばならない。

食事に関して戒律は、僧侶は正午以降に食事するべからずと説く。そのため僧院での食事時間は早朝5時と昼前11時の2回で、見学のチャンスもその2回となる。特に観光客が訪れやすい11時には大勢がつめかけ、まるで上野動物園のパンダ舎前のような混雑ぶりだ。

僧侶による読経が荘厳なチャカッワイン僧院

チャカッワイン僧院での、11時の食事風景を見てみよう。
朝の9時頃にはボランティアの信者たちが調理を開始。10時には、調理風景も見学したい観光客がちらほらと調理場に姿を現し始める。大鍋の中で煮立つ炊き合わせやスープを調理担当の信者が大きなしゃもじでかき混ぜている同じ頃、井戸端では僧侶たちが食前の水浴びをしている。

10時半になると食坊の入口には長机が並び、外国人も含む信者たちが菓子や文具などを小分けにして準備を始める。食事前に、観光客も参加した托鉢を行うのだ。タイの旅行会社が実施するミャンマーツアーは「ミャンマー僧への托鉢」を目玉企画にしているものも多く、タイ人の姿が目立つ。もちろん日本人が小袋入りの菓子をたくさん用意し、この列に並んでも問題ない。

10時半になると大木をくりぬいた木魚が鳴り、あちこちの僧坊から僧侶が集まり始める。500人近い僧侶が1列に並ぶ様は実に壮観な眺めだ。調理室では食卓にのせる大鉢に食事がとり分けられ、当番僧が大きな盆にのせて食坊へ運ぶ。そしてちょうど11時、どこからともなく読経が始まった。数百人がいっせいに唱えるお経が重低音で響く光景はこの僧院独自のもので、なんとも厳かな雰囲気が漂う。

この間、観光客は希望すれば入口に据えた大釜の横に控え、次々と食坊に入ってくる僧侶の鉢にご飯をよそうボランティアにも参加できる。ご飯をよそいながら同行ガイドに写真を撮ってもらっている人も多い。観光客は食事中の食坊へ入ることもでき、食事中の僧侶にカメラを向けたり、その光景をバックに自撮りに励む人も少なくない。

食事見学が不敬でない理由

初めてこの「観光スポット」を目にした際、あまり真摯ではないとはいえ同じ仏教徒としてはいたたまれない気持ちになった。あまりに僧侶に失礼ではないか、と。しかし同行したミャンマー人の友人はこう言う。

「友達のために料理を作って、それを友達がおいしそうに食べてくれたら嬉しいでしょう? それと同じ。誰かが托鉢で寄進した食べ物を僧侶たちがおいしそうに食べているのを見れば、『寄進した人は功徳を積めたのだなぁ』と見ている私たちも幸福になれるし、私たちを幸せな気持ちにしたことで寄進した人はさらに功徳を積めるのよ」。

なるほど、功徳のダブルアップになるということのようだ。

積徳はミャンマー人にとって一生のテーマ

ミャンマー人は功徳を積むことにとても熱心だ。上座部仏教の根底には輪廻転生思想があり、現世で積んだ徳が来世を決めると人々は信じているからだ。功徳を積む方法はいろいろあるが弱者に施しをすることでも積め、信者たちは熱心に養老院や孤児院へ寄付し、野良犬や野良猫に餌を与える。

なかでも僧侶に食事を提供することは大きな功徳になるため、托鉢はミャンマーの日常風景となっている。托鉢において、僧侶は信者に礼を言ってはならない。せっかく積んだ信者の功徳を減らしてしまうからだ。あくまで無表情に淡々と食事を受け取っていく。

修行に励む僧侶は菜食というイメージが日本人にはあるかもしれないが、ミャンマーの僧侶は肉でも魚でも何でも食べる。求められているのは、信者に功徳を積ませるために寄進された食べ物を余さず食べることなのだ。

マナーを守って気持ちよく見学を

僧侶が食事をする。これは誰かが功徳を積めたということにほかならない。とはいえ、普段の生活で托鉢に食事の提供などをしたことがない身としては、ただ見学するというのもどうにも身の置き所がないものだ。

だが彼らの論理では、僧侶の食事風景を見て観光客が喜ぶこともまた、積徳に繋がることになる。我々としてはこうした光景を見学して楽しい気持ちにさせてもらい、食事を提供した人や調理ボランティアの人たちがさらに功徳を積めるよう心がけるのが最善なのかもしれない。

最後に、僧侶の食事風景を見に行く人に注意点を教示しておきたい。

・僧院では靴や靴下を脱ぐ
・僧院内では裸足にならねばならない。ストッキングも禁止なので気をつけて。
・僧侶に触れない
・特に女性が男性僧侶に触れるのは厳禁。異性に触れられると修行がすべて無駄になると言われている。
・食事中の食卓で配膳をしない
・食事中の僧侶の鉢にご飯を足したり、お茶を注ぎにいく人がままあるがこれも禁止。

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チャカッワイン僧院/Kya Khat Wain Kyaung
住所:Thun Paya Rd., Bago
マハーガンダーヨン僧院/Maha Gandar yone Kyaung
住所:Mahagandaryone Rd., Amarapura, Mandalay

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板坂真季 ITASAKA Maki

日本でのライター業を経て中国・上海やベトナム・ハノイなどで計7年間、現地の日本語情報誌の編集を務めるかたわら、日本の雑誌、書籍、webマガジンなどへ多数寄稿。各種ガイドブックの編集・執筆・撮影、取材コーディネート業にも従事。2014年よりヤンゴン在住。著書に『現地在住ライターが案内するミャンマー』(徳間書店)など。