世界地図から2度も消えたポーランド
ドイツのすぐ東、北はバルト海に面したポーランド。面積は日本の4/5だが国名が「平原の国」という意味である通り、平坦な地形が広がるので農業が盛んだ。実はポーランドは2度世界地図から消えている。最初は18世紀に国力が衰退すると、第一次大戦終了までの123年間もの間、近隣諸国に分割された。第二次大戦ではソレントとドイツに分割占領される。その後1989年に民主化までは社会主義政権だった。


ポーランドの古都クラコフが面白い理由

クラクフは、ポーランドが栄華を極めたヤギェウォ王朝の首都。ポーランドの文化の中心と言われている。第二次大戦中はナチスドイツの司令部がおかれた。16世紀以降の首都であったワルシャワは第二次大戦で都市部が壊滅したが、クラコフには被害が少なく今でも中世からの街並みがそのまま残っている。織物取引所とその前に広がる中央広場が街歩きの目印。広場から南へ数百メートル歩けば、 ヤギェウォ朝のヴァヴェル城が、カーブを描くビスワ川のほとりに静かに立っている。ほかのヨーロッパの都市と同じように旧市街が街の中心。街並みを見て歩くだけでも楽しい。

夜になれば、広場やその周りのレストランには人が集まって、まるでちょっとした祭りのような賑やかさだ。ヨーロッパの中の比較的物価の安い都市には、他のヨーロッパの都市から若い人たちが週末を過ごしにやってくる。そして、まるでそこら中がパーティーのようになる。クラコフもその例外ではないようだ。
城からビスワ川に沿って東へ進めば、旧ユダヤ人地区。第二次大戦まで経済を担ったユダヤ人たちが生活していた。今でもシナゴーグ(ユダヤ教会)や、古い建物も残っている。廃墟を利用したカフェで少し休んだ。

リノベーションによる再開発も少しずつ進んでいるようで活気が感じられる。歩いていれば蚤の市に出会ったり、壁には風刺的なグラフィティーがあったりして飽きない。そのあたりにあるのがガリシア・ユダヤ人博物館。ホロコーストの犠牲者と東欧系ユダヤ人文化をテーマにしているコンテンポラリーなミュージアムで、写真による展示などのエキジビションが興味深い。ビスワ川を南に渡ると新市街が始まる。映画「シンドラーのリスト」の舞台となった琺瑯工場はシンドラーミュージアムとして公開されていて、ナチスドイツに占領されたクラクフに関する資料などが、インタラクティブな手法も利用して子供にもわかりやすく展示されいる。

アウシュビッツ見学の玄関口
ナチスドイツと言えばドイツだが、アウシュビッツ強制収容所はクラコフから西へ50㎞の距離にある。アウシュビッツへの見学ツアーは現地でも申し込み可能だ。収容所の中まで引きこまれた線路には、鎮魂の灯りがともされていた。

この日はそれまでの好天から一転して激しい雨。それでもアウシュビッツに向かった。晴れていればもっと違った印象になったかもしれないが、冷たい雨のせいで沈鬱だ。旧市街を歩けば肌で感じられる中世の栄華と、そのあとの混乱。そして第二次大戦の辛い歴史。今のクラコフの日常は若く活気があって前進しているといった印象だが、同時に過去の歴史が非日常の時代の記録として残されていて、そのコントラスト、いやギャップがものすごいのだ。それがクラコフの魅力。行ってみなければわからなかったと思う。

ジャガイモぐらいしかないのかなと思っていたら大間違い
ポーランド料理といっても、なにかピンとこないというのが旅の前の印象だった。東京でもポーランド料理専門のレストランは見当たらない。それならポーランドに行ってみようと思った。もしかしたらジャガイモぐらいしかないんじゃないのかなと、失礼ながらも期待値を下げながら。しかしこれが大間違い。素朴ながらもおいしい料理を気軽に楽しめるのだ。

例えば餃子のようなピエロギは、野菜、チーズ、肉などを包んだまさに餃子で、しかも焼いたものも茹でたものもある。食材をいろいろ組み合わせたバージョンがあるので、お店によっては9種類1個づつといった注文も可能。パンをくりぬいてスープと茹で卵を入れたバルシチ・ビャウィは豪快。素朴な味付けのスープがパンに浸みこんだシンプルなおいしさ。スイーツならポンチキがおすすめ。季節のジャムやクリームなどを入れた大きな揚げパンのようなもので、どこの街でも持ち帰り・食べ歩きができるお店が人気だ。

ポテトパンケーキとズラジーを日本で作ってみた

クラコフで旨かったのは、ジャガイモを使ったパンケーキだ。粉が少ないのですこししゃっきりとしたテクスチャーで、甘くなく前菜として食べる。ジャガイモを荒くおろして成形したものを焼くハッシュブラウンとは全く異なり、ふわっとした食感がまさにパンケーキだ。スモークサーモンとディルを乗せてもおいしい。ポーランドはビールも旨い。一人当たりの消費量は世界5位(日本は54位)で、日本人の2.5倍の量を飲むらしい。確かに飲み口がよく食べ物にも合う。

もう一つおすすめは「ズラジー」。スライスした牛肉にハムとネギなどを巻いて焼いたものを、さらにグレービーで煮込んでいく。メニューを見た時には肉の肉巻きというあくまでも肉食な料理に驚いたのだが、実際にはネギが多く使われているのであまり重くはない。サワークリームと一緒に食べれば、なおさらさっぱりとした味わいになる。付け合わせにはビーツ。赤いスープ、ボルシチに使われる東欧ではおなじみの赤蕪のような根菜だが、野性味のある香りと茹でただけのシンプルな調理が、ズラジーと言いバランス。

さて、ワルシャワまでは成田からなら11時間ほど。さらにクラコフ近郊のパリツェ空港へは1時間かからない。長い歴史の中で、時に繁栄を極め、また苦しい時代を生き抜いてきたクラコフの街。そして、その割に明るく前向きな雰囲気もぜひ肌で感じてほしい。

All photos by Atsushi Ishiguro


石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。

HP:http://ganimaly.com/