ミャンマーの中心都市ヤンゴン。全土から多くの人々が集まるこの大都市では、様々な民族が複雑に交じり合いながら住んでいる。その中にあって、モン族は比較的人口が多いはずだが旅人にはもちろん、ヤンゴン在住の外国人にさえその存在感は希薄だった。それがここ数年、興味深い変化が起こっている。

カソン満月の日には民族をあげてお参り

2018年の4月29日は、ビルマ暦でカソン満月の日にあたった(*)。この日、ミャンマー全土では菩提樹に水をかける祭りを行う。ミャンマー仏教の総本山ともいえるシュエダゴンパゴダでは紅白の民族衣装をまとったひときわ目立つ集団が隊列を組んでねり歩き、境内の菩提樹に水をかけた。彼らはヤンゴンに住むモンの人びとだ。

モンの人々は、日常生活ではビルマ族と見分けがつかない服装をしていることがほとんどだ。しかしこの日ばかりはモンの正装に身を包み、講堂からシュエダゴンパゴダまでの道を行進する。参拝客や観光客でごったがえす境内で格好の被写体となっていた。カソン満月の日にこのように大規模な儀式を行う少数民族は、ヤンゴンではモン族のみだ。

民族の坩堝ヤンゴン

日本人にはあまり知られていないが、ミャンマーは135もの民族が住む多民族国家だ。人口に占める割合で多い順に68%のビルマ族、9%のシャン族、7%のカレン族、4%のラカイン族、2%のモン族、さらにカチン族、カヤー族と続く。東南アジアに存在する6つの言語系統すべてが揃うほど、文化の様相は多岐にわたっている。

モンの人々はヤンゴンにも多数住んでいる。しかし、民族料理で群を抜く人気を誇るシャン族やラカイン族、民族衣装の模様が全土の女性のファッションに取り入れられているカチン族などに比べると、モン族の文化はここヤンゴンでは若干影が薄い。
もちろん、モン族自身はそうは思っていない。外国人がモン文化について尋ねれば、彼らは嬉々としていろいろ教えてくれるはずだ。ビルマ文化との差異を強調しながら。

9月に行うモンの伝統行事「兄弟船」。仏陀の聖髪を船で持ち帰った兄弟を称える祭り

モン族の誇りとビルマ族への複雑な感情

モンの人々がモン文化について語る時、よく使うフレーズが3つある。ビルマ族に対する複雑な気持ちが読み取れるものだ。

1.ミャンマーに仏教を持ち込んだのはモン族
11世紀初頭にアノーヤター王はモン族の王国を滅ぼしてビルマ族の国を打ちたてるが、その際、モン族が信仰していた仏教を取り入れた。

2.シュエダゴンパゴダを開いたのはモン族
今やミャンマー人の心の拠り所であるシュエダゴンパゴダは、モン族の兄弟が釈迦から授かった聖髪を安置するために建てたのが始まり。

3.ビルマ族に文字を与えたのはモン族
古い時代からモン語には文字があったが、ビルマ語にはなかった。現在のビルマ文字は、12世紀以降にモン文字を元に考案されたもの。

毎年2月には、モン王国の建国神話を描いた劇をモン族の有志で上演する

モン族料理店がヤンゴンでヒット

モン族が多く住むにもかかわらず、長くヤンゴンにはモン料理店がなかった。しかし2016年、モン料理専門店「ジャナモン」がオープン。地元の英字新聞によって「2016年にオープンしたナンバーワンレストラン」に選ばれた。

モン料理はビルマ料理に比べて脂分が少なく、果物の酸味を効かせたすっぱ辛い味付けになっている。ウコンを多用するのも特徴で、黄色い色味の料理が多い。これがヘルシーな食事を好む欧米人を中心に話題を集めたのだ。

「モン族には独特の食文化があるのに他民族や外国人に知られてない、もっと知ってほしい」というのがオーナーがこの店を開いた動機だったのだという。

「ジャナモン」のモン族料理

民族衣装にも新しい流れ

ミャンマーは男女ともに日常的に民族衣装ロンジーを着用するが、その柄は民族特有のものだ。かつては多数派のビルマ族が少数民族のロンジーを着ることはあまりなかったが、10年ほど前から女性を中心に、所属民族にかかわらず柄のかわいさで布を選ぶようになった。なかでも人気を集めたのは、幾何学模様が鮮やかなカチン族の布だった。

モン族のロンジーは赤く、模様は上の方が細かい格子柄で下の方が無地というものだったが変化に乏しく、モン族以外が好んで着ることはあまりなかった。それがここ数年で格子柄はそのままに様々なバリエーションでデザインするようになり、色も青や緑、モノトーンなど、ほとんどの色味が揃った。新しいタイプのモンロンジーは好評で、他の民族が着ているのもよく見かけるようになった。

新しいタイプのモンのロンジー

実はここ数年で民族独自の文化を発展させ、花開かせてきたのはモン族だけではない。モン文化はこれまでビルマ文化にまぎれてきただけに、変化が目に付きやすかったといえそうだ。少数民族文化のこうした変容は、ミャンマーの民主化と無縁ではない。

民族文化を前面に押し出しにくかった全体主義的な軍事政権が終焉を迎え、経済開放で消費社会への道を突き進む今のミャンマーでは、レストランやファッションは常に新しい素材を求めている。そこにミャンマーが潜在的に秘めてきた少数民族文化が合致したのだろう。

ミャンマーを旅する機会があれば、様々な民族の文化が入り混じる豊かな「ミャンマー文化」を堪能してほしい。きっと新しい発見があるに違いないから。

モンの居住エリアであるモン州の州都モーラミャインの下町

*ビルマ暦は月の満ち欠けを元に決まるため、西暦上は毎年変動する。

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モン料理専門店・ジャナモン/JANA MON
住所:119 Nandawon Rd.(Near Yae Tar Shay Rd.), Bahan Tsp., Yangon
電話:09-2508-25442
営業時間:9:00~21:00

モンロンジー専門店・パーカオモン/Pa Kao Mon
住所:13 Thingaha Rd., Tamwe Tsp., Yangon
電話:09-4492-50890
営業時間:10:00~21:00

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プロフィール
板坂真季 ITASAKA Maki
日本でのライター業を経て中国・上海やベトナム・ハノイなどで計7年間、現地の日本語情報誌の編集を務めるかたわら、日本の雑誌、書籍、webマガジンなどへ多数寄稿。各種ガイドブックの編集・執筆・撮影、取材コーディネート業にも従事。2014年よりヤンゴン在住。著書に『現地在住ライターが案内するミャンマー』(徳間書店)など。