今年の初めにヨルダンを旅することにしたのは、あの往年のスペクタクル大作「インディージョーンズ 最後の聖戦」の舞台になったペトラ遺跡を一度は見てみたいという思いと、アラブ料理をその地で食べてみたいという欲望が理由だった。ペトラまでの道のりは長く、東京からドーハを経由して17時間ちょっとかかって首都アンマンのクィーンアリア国際空港にたどり着き、更に車で4時間かかる。

インディージョーンズのロケ地にもなったペトラ遺跡へ

自宅を出てから24時間以上が過ぎ、ペトラに着いたのは現地時間の昼過ぎ。現代のペトラの町は世界クラスのラグジュアリーなホテルもあれば小規模な地元系のホテルまでが軒を連ねるヨルダンの一大観光地で、土産物屋などの商店も多く賑わっている。人が住むエリアはなだらかな丘に広がり、小さな家々が立ち並んでいる様子は生活感たっぷり。地方の小さな町だから日常の忙しさの中にものんびりとした雰囲気が漂う。その町のはずれにペトラ遺跡への入り口があった。
ペトラの文化の始まりは今から2000年以上も前。その後数百年の間は交易都市として栄えたものの、4世紀に襲った大地震を境に衰退し、記録から消えたという。20世紀に入ってようやく発掘が進み、これまでに岩を削りその中に空間を作った建造物が多く発掘されている。それにしても、その大きさと精緻で美しい装飾には圧倒させられる。1974年には世界遺産に登録された。

シークを抜けて現れるエル・カズネの姿が美しい

ゲートで入園料を支払い、細いシークと呼ばれる崖にはさまれた小道を2㎞ほど歩けば、その切り立った壁の隙間からエル・カズネが見えてくる。エル・カズネは1世紀初頭に作られたナバティア人の国王の墓で、高さは40mもある。そのあたりから先に拡がる約6平方キロがペトラ遺跡の中心部。まだ掘り出されぬまま眠っている遺跡も多く、今でも発掘作業が続いている。
エル・カズネの前の迫力に圧倒され何故かぼんやりしていると、そのあたりにいたガイドの一人が、崖を登って絶景ポイントに連れて行こうかと声をかけてきた。せっかくなので登ってみることにした。

実際に登ったルートは、上の画像の右奥から始まる。階段があるのは初めだけで、次第によじ登るといった険しさになる。ペトラとは崖という意味だけにどこも崖だらけで、遺跡を巡るコースによってはかなりの高低差がある。谷になっているメインのルートは平坦なので馬車も利用できるのだが、それ以外のルートは遊歩道として整っていない部分もあり、トレッキングといったレベルから崖のぼりといったハードなルートまで様々だ。

どうにかこの崖を登り詰めれば、25度を超える気温に乾燥した空気に汗が出て咽喉が渇いた。恐るおそる見下ろせば、エル・カズネと蟻のように小さな人たち。柵も何もないのに、不思議と恐怖感はなかった。小さなカフェがあったのでコーヒーを飲んだ。風が気持ちいい。一休みした後、更に尾根を巡るコースに進んで絶景を堪能した。ペトラを思うままに楽しむには、体力が必要なのだった。

その晩、エル・カズネ前の広場で開催されているペトラ・デ・ナイトというイベントに参加した。ろうそくの灯りだけが照らし出す遺跡の静寂の中で、悠久の時を感じさせる民族楽器の演奏と詩の朗詠が響く。一日目はここまで。またまた1時間かけてシークを歩いてホテルへ帰る。こうして長い一日が終わったのだった。

900段の階段を上がって山頂の修道院エド・ディルへ

翌日、再びエル・カズネまで圧迫感のあるシークを歩き、更にその先の緩やかな丘に挟まれた平坦なメインのルートを、点在する遺跡を見ながら進んだ。この日のクライマックスはペトラ最大の遺跡エド・ディルだ。エド・ディルがある山の頂上へは900段の階段を登る。息を上げながらたどり着いた先に急に広場が拓けて、振り返るように右を見ればそこにエド・ディルがそびえていた。広場の反対側のカフェには木のベンチがたくさん並び、エド・ディルの全景を眺めながら休むことができる。

のんびりと壮大な古代の建造物をぼんやりと見ながら、こんな古い時代から続くこの土地で人々はどんなものを食べてきたのかなとお腹が空いてくるのだった。

中東の超定番料理フムスのおいしい食べ方

日本でもアラブ料理店などで食べることができるフムス。作り方は簡単で、ひよこ豆(チックピー、ガルバンゾなどとも呼ばれる)とタヒニ(ゴマのペースト)、オリーブオイル、ニンニクをフードプロセッサで攪拌するだけ。これをピタパンなどのフラット・ブレッドにのせて食べるのが一般的だ。現地でシシケバブ(鶏や羊肉の串焼き)を食べた時にも、まずは前菜としてテーブルに登場。肉や野菜と一緒にパンにはさんで食べる。ゴマの香ばしい香りとクリーミーなひよこ豆の食感が、はさんだ食材をまとめ上げてくれる。

フムスはどこのホテルの朝食にも並んでいて、初めはピタにのせて食べていたのだが、ある日ウェイターの一人が全く違う食べ方を教えてくれた。ボールにフムスを取り、ひよこ豆を煮たもの(温かく、豆はつぶしていない)、トマト、パセリに似たハーブをのせたらオリーブオイルをひとまわし。初めての食べ方だった。そしてこれが絶品!
なぜか日本のおかゆに似ているように思えた。(もちろんカロリーは何倍も高いだろうけれど)。スプーンで口に運べば、腹の底から元気させてくれる気がする。それがお粥を思い起こさせるのだと気が付いた。

ペトラの町の夕方、写真右奥が遺跡地区だ。フムスを日本に帰ってから作って食べてみた。味覚の思い出が、旅先の記憶を蘇らせてくれた。

All photos by Atsushi Ishiguro


ヨルダン観光局
http://jp.visitjordan.com/Wheretogo/Petra.aspx


石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。

HP:http://ganimaly.com/