ユネスコ無形文化遺産にも登録された「和食」、その基本となるのがお出汁。
肩肘張らずにかつお出汁が楽しめる、そんな場所が週に3回渋谷・宮益坂上にある。

「前世はカツオだったんじゃないかなって思ってます」。

情熱たっぷりの笑顔で話すカツオ舎代表・かつおちゃんとの出会いは、昨年富士の麓で行われた、とあるアウトドアイベントだった。その日はあいにくの雨模様だったが、ブースの中は立ち込める鰹出汁の良い匂い、トントントン……と軽快に響く包丁の音、寒さの中全身に染み渡るような優しいお出汁と、明るい彼女の魅力で常にお客さんは満員。そこにいた人たちは心も身体も暖まった。私もその一人だった。

All photos by Yamato Ohashi

彼女がかつお節に魅了されたのは25歳の夏。
昼は企業受付嬢として働き、夜はパーティやクラブに繰り出しては夜遊びばかりしていた。
学生時代も含め、女の子の華やかな世界を見て触れていた彼女は、もちろん「美しくなりたい」と思っていた。しかし普段親から言われていた「内側から美しくなりなさい」という言葉の意味が、具体的にどういう事なのかわからずにいた。それまで外見が綺麗な人にはたくさん出会ったが、内面から尊敬できると思う女性にはまだ出会えていなかった。

ある日、祖母と電話していた母親から「福岡のおばあちゃんちに帰ってみたら?」と言われて久しぶりに帰省しようと思い、祖母の住む福岡へ向かった。祖母の家へ帰ると、祖母が戸棚から削り器を取り出して、かつお節を削り始めた。『これは死んだ祖父が結婚の時にくれたものなんだよ』、と説明をしてくれながら、郷土料理のだご汁を作ってくれた。

「その美味しさももちろんだけど、祖母の鰹節を削る姿を見てかっこいいな、って惚れ惚れしたんです」。

「日本にどれくらい削る人がいるんだろう?」と思いながら九州を後にした。
そして私も鰹節を削りたい、祖母のようになりたい、と思いすぐに祖母に電話をして想いを伝え、削り器を受け継いだ。そしてその削り器を抱えて、あてもなく旅にでた。旅の途中、出会ったバスの運転手のおじいさんから「珍しいもの持ってるね」と声をかけられ、削り器の使い方を伝授してもらったことがきっかけとなり、山梨県上野原市西原に数ヶ月行き来することとなる。そこでかつお節を削ったり畑仕事を手伝いながら滞在させてもらい、交流を深めていった。そんな中「かつお節はどうやって作るの?」という質問に、彼女自身も作り方を知らなかったため、興味がより湧いてきた。旅の目的は、“削る人”から“作る人”へと変わっていった。

仕事の合間を縫い「一番古いかつお節」を調べ、ヒットしたのが静岡県西伊豆の田子(たご)。
当時、“ミニスカートに10cmヒールのクラブスタイル”で訪ねたという彼女の旅は、それから本格的に始まり、のちに北は気仙沼、南は宮古島まで全国を回遊した。各産地で人々と交流し、物語や歴史を学び肌で感じることができた彼女は、「いろんな地域のかつお節を一つにして、みんなで一緒に伝えたい」という熱い思いから、2015年11月24日(いい節の日)にかつお節伝道師としてかつお舎を立ち上げる。

渋谷でかつお食堂を始めたのは、昨年の11月。
先輩が働くバー[BAR&.miiiii]の場所を週3回借りて、朝ごはん屋さんをオープンした。

今回取材の際にいただいたのはかつお食堂ごはん。
静岡県小山町で作られたご飯の上に乗るのは昭和25年創業の鹿児島県指宿市(いぶすきし)の坂井商店さんの一本釣鰹本枯節「こころ節」。ふきと大きな油揚げが入った、一番出しのお味噌汁と、出汁がきいた艶々の卵焼き、自家製のぬか漬けが付いてくる。

削りたての綺麗なピンク色のかつお節が、熱々のご飯の上で楽しそうに踊り、口の中に優しい甘みと香りが広がる。ほっ、とするお味噌汁は、季節を感じられるお野菜と大きな油揚げも食べ応えがあり、少しだけきび砂糖が入ったふわふわの卵焼きはほんのりと甘い。

今回いただいた坂井商店さんの鰹節は、形も味も優しいかつお節を作ることをモットーに造られているそうで、火で燻すときも決してかつお節をいじめすぎなく優しく燻すという。カウンター越しのかつおちゃんから、造り手さんの想いやこだわりを聞きながら食べるのもまた、美味しさが増す。月ごとにかつお節が変わるので、次は違う美味しさを味わえるのも楽しみだ。

「出汁には基本的な引き方はあるものの、絶対の正解はないんです。人それぞれ好みも違いますしね。手軽さを大切にするのか、香りを大切にするのか、酸味を大切にするのか、濃さを大切にするのか……。選択肢はたくさんあります。そのときどきで引き方をかえても面白いですよね。ちなみに、かつお食堂のお味噌汁はその日の具材や天候にあわせてかえて楽しんでいます。たくさんの女性に色んなかつお節の魅力の知ってもらえたら嬉しいです」。

「今後もかつお節のおいしさをしっかりお届けしながら、気持ち悪いくらい(笑)かつお節にあふれた場所を作っていきたいです。みんなが日常でおいしいかつお節を楽しんでもらえるような場所を。また、世界のかつお節&かつお事情を体感しに世界へ回遊し、かつおとかつお節の魅力の幅をさらに広げてそれをまたみんなに伝えたいです」。

なんとこちらの可愛いピアスの中にもかつお節! 髪には“かつおブルー”のメッシュが。かつおちゃんのかつお愛は止まらない。

「さらに今年は、数年前より抱いていた『かつお祭り』を 300年にわたり江戸と東京の人々の食生活を支え続けた日本橋にて開催したいと動いています。カツオ、釣る人、かつお節を造る人、食べる人の一連の流れが見えるお祭りで、漁師さんやかつお節職人さんをお招きしてリアルを感じるイベントにしたいなと思っています。おいしさと楽しさで笑顔あふれる空間にしたいな」。

まずはGWに催されるイベントへ、かつおちゃんに是非会いに行ってみたい。


All photos by Yamato Ohashi


「今日だけ子供パーク」出店

「だしの王様かつお節ワールドへようこそ」 http://kyodake-kodomopark.jp/
かつお食堂と郁文館グローバル高等学校の生徒によるコラボブース。
かつお節削り体験や、紙芝居、かつお節ネックレス作りなど、楽しいかつお節ワールドをお届けします。(一部有料有り)

日時:2018年5月4日(金)、5日(土) 11:00〜16:00
場所:代々木公園けやき並木(東京都渋谷区神宮2丁目)


【Profile】

永松真依 | かつお舎・代表

かつお節との出会いは25歳の夏。夜はパーティーやクラブに繰り出す毎日。
見かねた母親にすすめられ祖母のいる福岡へ帰る。
そこで祖母がかつお節を削り作ってくれたお味噌汁。
おいしさはもちろん、削る姿が衝撃的だった。「美しい」!
かつお節を学ぶ旅をはじめた。南は宮古島から北は気仙沼まで、どこで誰がどのようにしてかつお節を造ってくれているのか。時にはお手伝いさせていただきながら。。
リアルに感じたことを軸に、楽しく、おいしく、みんながかつお節で笑顔になれるようにその魅力を伝えている。

かつお舎
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かつお食堂
〒150-0002
渋谷区渋谷1-6-4The Neat青山1F
[営業時間] 毎週水、木、金 8:00〜14:30
*無くなり次第終了です