正直ケープタウンに到着するまで、南アフリカというと、黒人のおばちゃん達がカラフルな衣装を着て、頭に食べ物カゴを乗せて街を歩いているイメージだった。そんなイメージとは打って変わって、あまりヨーロッパと変わらない雰囲気。特に白人が多いことに驚いた。南アフリカはオランダとイギリスの植民地だった歴史があり、19世紀中頃に植民地政府が英語を公用語として強要したことがきっかけで、今では何種類かのアフリカーンス語に合わせて英語が公用語なので、旅行者にとってはとてもありがたい環境だ。

一年を通して寒い時期も暑すぎる時期もなく、日本が冬の寒い時期に、ケープタウンはハイシーズンの夏。最高気温はせいぜい27度といったところで、湿気もなくカラッとしているのでとても過ごしやすい。ちなみに日本が夏の間はケープタウンは梅雨の時期に当たる。北ヨーロッパでは、ほぼ太陽が顔を出さない冬の間、ヨーロッパからの旅行者や長期滞在する人々も多い。飛行機でヨーロッパから直行でおよそ12時間、日本からは中東を経由して24時間弱かかるので結構な距離だ。

とはいえケープタウンには欧米やアジアとはまた違った、ここでしか味わえない魅力がある。何といっても、まるで秘境と言っても過言ではない大自然と、スピリチュアルなエネルギーに溢れた中に街があるというシチュエーションだ。広大な大西洋に囲まれ、海も砂浜もとても綺麗なので海水浴はもちろんのことサーフィンスポットもたくさんある。さらには街からも見渡せるユニークな形をした山々は、毎日眺めているだけでもかなりの非日常感がある。

私が滞在したのは1月から2月にかけて。NYにいる友達にこの滞在に参加しないかと声をかけたところ、来ることになった。Airbnbで滞在先を探すにあたって、海に近いエリア、街の中心部、ヒップなエリア、、どこに滞在するか悩んだあげく、自分はやはり海より山派なので、山の麓にあるタワーマンションに宿泊することに。Google Mapで見る限り、街の中心部までは歩いて40分。しかしAirbnbの情報によると中心部までタクシーで5分、250円と書いてある。そんなにタクシーが安いのなら、距離はあまり気にしなくていいと思い、そこに宿泊することに。

予定より数日遅れてケープタウンに到着してしまったのだが、先に到着していた友達は、とんでもない事態に巻き込まれてしまった。夏のケープタウンは空気がとてもカラッとしているため、稀に山火事が起こるのだとか。まさにその稀なタイミングが自分が到着する前日にきてしまった!
この茶色部分、全て燃えた後。消防隊もどうすることもできず、燃え尽きるのを待つしかないそうだ。しかし木がわさわさ生えている訳ではないので、基本的にはほっとけば燃え尽きて終わるようだ。

そうは言っても自分が一人で滞在している時に、すぐ隣で山火事が起こったら、だいぶパニックに陥ってしまったかもしれない。ケープタウンに予定より遅れて到着してよかった、と胸を撫で下ろした。

Airbnb宅に到着してその眺めに感動!ケープタウンの街を一望でき、シグナルヒルも目の前に広がっている。まさに絶景の中に街があるといった感じで、なんとも羨ましい環境。

サンセットから夜にかけて。毎日この時間は家から離れられなかった。

とある日の朝、外が風でざわざわしている。窓ガラスがガタガタとまるでだれかが叩いているような。まだ寝ていたいのに、、と思いつつ窓の外を見てみると。。まさかのダブルレインボー。自然からの贈りものに感動して飛び起き、少しの間窓からの景色に釘付け。

長期旅行の間はなるべく自炊をして健康を維持したいもの。どこの国に行っても最初に探すのはオーガニックスーパーやファーマーズマーケット。これさえあればどこの国にいても生活が整う。ケープタウンでは週末、何箇所かでファーマーズマーケットが行われており、その中でもオランイェツィットシティファームには毎週足を運んだ。彼らは街中の一角に畑やスクールを構えており、そこでは自分で野菜や果物を摘み取って買って帰る “Pick your own” も行われている。ファーマーズマーケットはウォーターフロントという海側のエリアで毎週土曜日に行われており、ローカルファームの野菜や肉、チーズや加工食品、飲食店なども出店されていて、毎週行っても飽きないどころか、土曜日恒例のイベントとなった。

ケープタウンはUberが便利!ぼったくられる心配もないし、滞在中一度も問題ないどころか快適にUber生活を送れた。かなり安いので、中心部であればどこまで行っても1,000円以上かかることはなかった。ケープ半島は車で一周しても1~2時間くらいと聞いて、せっかくなのでレンタカーをして周遊してみることに。

ケープタウンでできた友人に、一番好きなサンセットポイントはどこか?と尋ねると、 “The Rock” を教えてくれた。市内からも車で20分くらいで行ける、高級住宅街の先にある崖っぷちだ。地元の人たちは岩に登ってこの絶景を楽しんでいるようだった。

そこからの景色はサンセットに限らず美しかった。

もちろんケープタウンのサンセットは街から見ても美しい。街中にいながらにして絶景が見渡せるというのがケープタウンならでは。

Boulders Beach (ボウルダーズ・ビーチ)というペンギンがたくさんいるビーチ。

Boulders Beach (ボウルダーズ・ビーチ)のあと休憩しようふらっと入った海沿いにあるレストラン。ガラス張りなのでまるで海の中にいるような気分。

ケープタウンの中心にあるシグナルヒルという山ではパラグライダーも体験できる。

こんな自然に恵まれたケープタウンでは、常に干ばつの危機にさらされており、現在100年に一度の危機的状況にさらされているそうだ。この状況は30年ほど前から予想されていたそうだが、経済成長ばかりを重要課題とし、水不足対策はなおざりにされて来た。毎年雨が降ればどうにかなるだろうと期待していたが、昨年は思いの外雨が降らず、ようやく危機的状況に本腰を入れ始めたそうだ。

今年の1月頃には水道使用量は1人87リットルと定められていたのが、2月からは50リットルとなり、また超過した場合は使用量に応じて使用料金を7倍に引き上げるという。4月の半ば頃には断水が予想されており、本当にそうなると市民は市内200箇所に設置される供給ポイントへ水を汲みに行かなければならなくなる。それも1人たったの25リットル。スーパーやオンラインショップなどではすでに水は常に売り切れ状態、水の代わりに代用されるウェットティッシュやドライシャンプーなども売り切れを起こしているそうだ。

そんな中ケープタウンで予約が取れないほどの人気レストラン “The Test Kitchen” を始め、他にもいくつかの人気店を営むシェフの Luke Dale Roberts氏が、4月から2ヶ月間オープンする予定のポップアップレストラン、その名 “The Drought Kitchen(干ばつキッチン)” では、節水対策が隅々まで行われており、飲食業界に向けて警告を鳴らしている。ゲストに出す水は1人1杯までとし、空調ユニットから採取される汚水を掃除用の水に再利用し、洗濯が必要なテーブルクロスやナプキンは紙のものに変え、食器洗い場の水道管は取り外し使用停止に、料理を提供するお皿は木の額縁と使い捨ての厚紙を使用し6品のコースを提供する。それはもはや貧相というよりはまるで絵画やアート作品のようだ。困難な状況でもまだ何かを作り出そうとするその姿勢は、ポジティブな印象を市民に与えつつ、危機的状況をどう乗り越えるかを提案していくことになりそうだ。

また水不足は南アフリカだけではなく世界中で問題視されており、先進国では急激なシステムの変化や人口の増加に伴い、安易に水が垂れ流しに使用され、また途上国ではそもそも安全で綺麗な水を手に入れることすら困難で、水汲み自体が日々の仕事となっている国だってある。問題が深刻になっていない状況の中で、それに備えるというのはとても難しいことだ。しかしケープタウンという大都市が干ばつにさらされている状況は、今後どのような事態が起こり解決されて行くのか、そこから私達が学ぶべきことがたくさんありそうだ。

こんな状況でも南アフリカ観光局はこれまで通り観光客を歓迎している。おそらく宿泊先のホテルなどで、水の使用についての注意を提示される。当分の間ケープタウンに旅行に行く際はこまめに状況を確認する必要がありそうだ。

(後編へ続く)


NATSUKO モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。

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