「ここにはクラフトビールマニアも来るし、初めてクラフトビールを飲みに来る人もいる。色んな味が楽しめるから、普段ビールが苦手な人でもクラフトビールを好きになる人は多いよ」。そう嬉しそうに話すのは、ミッケラー トウキョウのオーナー、ハミルトンさん。

今から10年前にデンマーク、コペンハーゲンでミッケルさんが創業したミッケラーは、今ではサンフランシスコやアジア圏は台北、ソウル、バンコク、シンガポールなど、世界40カ国にお店を展開している。

ミッケラー トウキョウが現在お店を構えるのは、渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)。かつては、渋谷の中心地でもあり歓楽街としても知られるディープなエリアだ。以前は渋谷の別のエリアで約1年間営業していたが、一旦お店を閉め、その後日本各地でのポップアップバーなどの活動を経て、2017年4月にこの場所で再スタートした。

「百軒店にはよくあるチェーン店がほとんどなくて、昔ながらの商店街や歴史が残っているんだ。渋谷の中で唯一、ローカルらしさが残っている魅力のある場所。例えばブルックリンやポートランドのスタイルが流行っているけど、そういった場所では昔、初めて新しい店やカルチャーを作るときには、最初に本当にやばいところに店を作ったんだ」。ハミルトンさんは、この場所の昔の文化といまの文化が混じり合うところが気に入っているそうだ。

お店を探していた時に、渋谷では珍しく1階の空き物件だったこの場所と出会い、ここだ!と惚れこんだのだという。ラブホテルと神社の目の前、珍しいチャンスだと思いこの場所に決めた。70年代に建てられた建物は、マイアミが大好きだったという、もともとのオーナーのセンス。さりげなく特徴的な外装のクリームイエローカラーはもとの色を採用した。目の前には千代田稲荷神社があり、夜になると赤い提灯の光がムードを作っている。

「以前のお店ではヒップスターのようなお客さんが多かったけど、ここに移ってお客さんのバリエーションが増えた。海外からの旅行客やサラリーマン、ご近所さんや女性連れなど様々。世界的に有名なミッケラーだけど、東京にあることを知らずにたまたま近くを通った観光客が、ここにミッケラーあるの?と来店したりするんだ」。老若男女、世界各国の幅広い人々に親しまれているミッケラーには、常連客も多い。

ミッケラー トウキョウではデンマークのミッケラーから約15種類、そのほか茅ヶ崎やサンディエゴ、スペイン産など日本を含め世界中のクラフトビールをセレクトしていて各地の色んな味を楽しむことができる。ハミルトンさんのお勧めは、日本でまだあまり流行ってはいないが、海外では話題で人気のある酸味のあるビール。ここ最近のおすすめは、定番で置いている酸味とコクが絶妙にマッチした樽成熟サワーエールシリーズのMikkeller Spontanや、ブルーベリーのフルーティな甘酸っぱさが特徴的なMikkeller Spontan Blueberry。どちらもランビックスタイルのビールだ。

カウンター越しに自分の好みや新作について尋ねると、気さくなスタッフさん達がその日のお勧めを教えてくれるのも魅力のひとつ。ティスティングもOKなので、マニアックなクラフトビール愛好者も楽しめるし、初心者も安心だ。ハミルトンさん達はいつも美味しいビールを探していて、日本のクラフトビールもチェックして産地を訪れたりしているとのこと。良い仕事だよね、と楽しそうに話す。

開放的なオープンキッチンでは、シェフのしほさんが料理する。
実はデンマーク料理店がほとんどない東京では、デンマークならではのライ麦パンも売っていない。ならば自分たちで作ろうということでライ麦パンも手作り。ほんのりと酸味があり、もっちりとしたミッケラーのライ麦パンは、スモーブローと呼ばれるオープンサンドにしてサーモンやニシンと一緒にいただく。ちいさなハンバーグのようなデンマーク風ミートボール『フリカデラ』は、肉の旨味が凝縮されたジューシーな味わい。そして甘い物好きに嬉しい、ブルーベリーやチョコレートのパイも、スタッフさんの手作りだ。

来月には新しいフードメニューブックを出すそうで、デンマーク人の大好きな、皮付きローストポークのサンドウィッチやニシンサンドウィッチ、ディルが入っているデンマーク風ポテトサラダなど、みんなでシェアしやすい料理を考案中とのこと。

居心地の良い空間について尋ねてみると、内装は建築家 関祐介さんとのコラボレーションだそうだ。
1階は開放的な大きな窓に縁側のようなベンチが設置されていて、横並びに座っておしゃべりできる。夏には窓をオープンにして、太陽を浴びながらビールを飲むのも気持ち良さそう。北欧らしさを感じられる洗練されたな内装デザインには、壁の所々に昔の大工さんが描いた数字をそのまま残してあったりと、テクスチャーを活かした遊び心のあるユニークな空間だ。店内の随所にミッケラーのキャラクターとしてもお馴染みの、ヘンリーとサリーのアートワークが飾られている。こちらはアメリカ人のアーティスト、キース ショアによるもの。「真面目すぎると面白くない。おしゃれな空間に、フレンドリーな絵や花があるとリラックス出来るよね」と、ハミルトンさん。デザインされているけれど自由でリラックスできるお店をつくりたかったと話す。

2階はモダンな空間の中にポップなアートと、スタッフのお花担当みはるさんが毎週変えているという花が飾られていて、むき出しのコンクリートの冷たさとのバランスが絶妙な、優しい雰囲気。ちなみに2階のトイレは、真っ赤に塗られた壁に、店内BGMとは別にハードロックが大音量でかかっていて、「これなら誰でもリラックスして用を足せるでしょ」とのこと、笑。
随所にリラックスさせてくれるさりげないポイントが、ついつい長居してしまう心地よい空間を作り出している。

ミッケラーでは毎月第1土曜日、スタッフやお客さんなど誰でも参加できるランニングを開催している。デンマークで3年半前に始まったというこの活動は、いまや世界中に広がっている。始めた頃より参加者は徐々に増えてきていて、前回は約60名が参加したそうだ。みんなで走り終わった後に飲むビールは、きっと格別だ。

今後の予定を伺うと、3月末頃に日本にまだ入ってきたことのない新しいクラフトビールをリリース予定。そして4月末はお店のオープン1周年ということで、こちらも日本初上陸のクラフトビールをリリースするほか、100杯無料サービス!だそうだ。そこにいる人たちの心意気が感じられるセンスの光るお店、そしてローカルに根付いて愛されるミッケラーの魅力は今後も目が離せない。


Mikkeller Tokyo (ミッケラー トウキョウ)

東京都渋谷区道玄坂2-19-11 中村ビル1F
TEL: 03-6427-0793