温暖化でコーヒーが飲めなくなる日も……30年で世界の栽培地の5~7割が不適に

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 世界のコーヒー豆の産地では、気温上昇による影響が深刻で、多くの農園が栽培に適さなくなっている。科学誌「ネイチャー・プランツ」に発表された研究によれば、代表的産地の一つ、エチオピアでは、不作や豆の品質劣化が問題となっており、栽培を断念し転作を迫られる農家も増えている。温暖化の影響は他の主要産地でも見られ、対策が取られなければ、世界のコーヒー生産量は今後激減すると見られている。

◆コーヒーの消費は増大も、気候変動が栽培を直撃
 国際コーヒー機関によれば、世界のコーヒー消費量はこの35年間で2倍となり、3年連続で消費が生産を上回っている。生産量の多かった年の備蓄により、近年は品不足や価格の高騰を回避できているが、輸出業者がもつ在庫は減少している。コーヒー栽培は気候に左右されやすく、予期せぬ数ヶ月の天候不良などが短期的な品不足につながることもあるという(BBC)。

 しかし、より深刻なのは、気候変動による長期的な生産減少だ。温暖化がいかにコーヒー栽培に深刻な影響を与えているのかを示したのが、イギリスのキュー植物園の研究者らが科学誌「ネイチャー・プランツ」に発表した、エチオピアにおける調査だ。コーヒー発祥の地とされるエチオピアでは高温少雨が続いており、近年干ばつが増え、コーヒー栽培地にも打撃を与えているという。

◆コーヒー発祥の地にも大異変。農園壊滅状態
 研究に参加した科学者の1人、アーロン・デイビス氏は、1910年以来代表的なコーヒー産地となっているハラール地域を2015年に訪れ、数百ヘクタール、悪くすれば数千ヘクタールのコーヒー農園が完全に壊滅状態にあることを確認している(米公共ラジオ網、NPR)。コンピューター・モデルと実地調査をもとにした研究者たちの試算では、今世紀末までにはエチオピアのコーヒー栽培地の40~60%が栽培に適さなくなるとされている(ガーディアン紙)。

 解決策として提示されるのが、高地への移動で、コーヒー農家が現在の栽培地より標高の高い場所へ移動し、灌漑やマルチング(株元の地表をシートなどで覆うこと)を導入することで栽培地を拡大することが可能だという。しかし、エチオピアのコーヒー農園のほとんどは小さな農家が所有しており、自前の移動手段もなく、灌漑などの設備にかける資金もないのが実情で、高地移動は口で言うほど簡単ではないとデイビス氏は指摘する(NPR)。また高地移動したとしても、今の温暖化のペースでは2040年までには山頂に達してしまい、頭打ちとなってしまうとも述べている(ガーディアン紙)。

 BBCによれば、エチオピアでは人口の16%がコーヒーで生計を立てており、収穫量の減少はコーヒー農家にとって死活問題となっている。NPRによれば、近年は転作が進んでおり、レクレーショナル・ドラッグ(医療用でない快楽を得るための麻薬)に使われるカートという植物への転作が人気だ。干ばつに強く、収益もコーヒーの4倍で魅力的だという。トウモロコシへの転作も行われているが、大きな木の木陰で育てるコーヒーと違い、耕作地の木をすべて伐採なければならないため、森林破壊、土壌侵食などの問題につながるとされている。

◆コーヒーが飲めなくなる前に、抜本的解決策を
 温暖化によるコーヒー栽培への影響は、世界の産地で指摘されている。2014年には「気候変動に関する政府間パネル」が、「調査が行われたすべての国で2050年までにコーヒー栽培に適した土地は減少し、ほとんどの場合、2~2.5度の気温上昇でかなりの土地が栽培に不向きとなる」と結論付けている(ガーディアン紙)。国際コーヒー機関は、2050年には、中央アメリカで48%、ブラジルで60%、東南アジアで70%のアラビカ種コーヒー豆の栽培地が、栽培に適さなくなると予測している(BBC)。

 デイビス氏は、コーヒーを飲む側も、生産者側にたって事態を考えるべきだと述べ、エチオピアのコーヒー生産者は、気候変動の最前線に立ち、まさに最初につけを払う存在だとする。そして長期的に持続可能な唯一の解決策は、気候変動の原因そのものと戦うことだと主張している。

Text by 山川 真智子