多くの子どもたちと同じように、マシュー・シフリンはレゴの組み立てが大好きだった。しかし彼は視覚障がいがあるため、作品を完成させるには家族や友人の助けが必要で、ときには家に来てもらうために「お茶をしよう」とわざわざ誘わなければならないこともあったという。

そんな状況が変わったのは、彼が13歳のとき。家族ぐるみの友人でベビーシッターでもあった女性が、点字で書かれた組み立て説明書が綴じられたバインダーを持ってきたのだ。それは中東の宮殿を作るためのもので、通常のレゴに付属するカラフルな図に頼らずとも、自分一人で組み立てることができるようになった。

「初めて、自分ひとりでレゴを組み立てることができました」とシフリンは語る。彼の自宅には、自由の女神像やNASAのアポロ・サターンVロケットなど、自ら完成させた作品が並んでいる。

「すべての工程を自分でコントロールできたのは、本当に素晴らしい体験でした。どのパーツをどこに置くのか理解できて、世界について学ぶこともできました」

Matthew Shifrin AP Photo/Charles Krupa

きっかけは“もっと多くの人へ”

その後、ベビーシッターが亡くなったことをきっかけに、彼はその思い出を形に残したいと考えた。2人でオンラインに公開していた説明書を改良し、より多くの視覚障がい者に届けることを決意したのだ。

3年前、シフリンは「Bricks for the Blind」を立ち上げた。現在28歳の彼は、30人の晴眼者のライターと視覚障がい者のテスターとともに活動している。ウェブサイトでは、視覚障がい者向けの組み立て説明書を無料でダウンロード可能。点字で印刷するほか、点字ディスプレイやスクリーンリーダー(テキストを音声に変換するソフト)を使って利用できる。

視覚障がい者向けレゴ組み立て支援団体「Bricks for the Blind」の創設者マシュー・シフリン AP Photo/Charles Krupa

この説明書により、視覚障がい者も自力で組み立てが可能になるが、パーツの仕分けには晴眼者の助けが必要な場合もある。その場合は、AIでパーツを識別するアプリを利用することも可能だ。

これまでに540種類以上のレゴセットに対応する説明書を作成しており、100ピースの車から4,000ピースの橋まで幅広く対応している。アメリカ国内だけでなく、オーストラリアなど世界各地で約3,000人が利用している。

またシフリンは2017年、デンマークのレゴ社にアクセシビリティ向上を提案。その結果、同社は音声や点字による説明書の開発に着手し、2019年に提供を開始した。

さらに2020年には「レゴ点字ブロック」も登場。英語・フランス語・スペイン語に対応し、ブロックの突起が文字や数字、記号に対応する仕組みとなっている。視覚障がいを持つキャラクターもセットに登場するようになった。

Matthew Shifrin AP Photo/Charles Krupa

家族のつながりを生むレゴ

俳優・作曲家・オペラ歌手でもあるシフリンのもとには、多くの喜びの声が寄せられている。

視覚障がいのある祖父母からは、「これまで子どもと一緒にレゴができなかったが、今は孫と楽しめる」という声が届いた。
「これまで子どもは私たちの助けを必要としませんでしたが、今では孫にレゴを教えられるんです」とシフリンは紹介する。

また、視覚障がいのある親からも「子どもは見えるので自分の助けを必要としなかったが、今は自分もレゴの楽しさを理解できる」といった声が寄せられている。

「できないこと」ではなく「できること」

2024年に視力を失ったダニエル・ミランは、視神経を圧迫する腫瘍の影響で失明後、この活動を知った。サンディエゴ在住の31歳で、支援技術の指導者を目指す大学院生だ。

最初は小さなセットから始め、記念日には妻と一緒にレゴのバラを完成させた。
「自分でできるということは、自由そのものです」と彼は語る。突然の失明により「もうできなくなること」ばかり考えていたという彼だが、このレゴを通じて考え方が変わった。「もうできないことではなく、できることに目を向けるようになりました」

子どもと一緒に楽しむ喜び

視覚障がいのあるナタリー・シャルボノーにとっても、この説明書は大きな変化をもたらしました。これまでは晴眼者の夫に頼る必要があったが、今では自分で組み立てられるようになったという。

5歳の息子と一緒に消防車などを作る時間も増えた。
「息子に質問されたとき、自分で確認したり一緒に進めたりできます。『お父さんを待って』と言わなくていいのは大きいです。一緒にできることが増えて、本当に力をもらっています」

教育現場からの評価

シフリンが幼少期に通っていたパーキンス盲学校の教育ディレクター、テリ・タージョン氏は、この取り組みを高く評価している。「視覚障がいのある子どもたちも、他の子どもたちと同じ楽しさを体験できます。それだけでなく、より広い世界をイメージし、手先の感覚や運動能力も育てることができます」

レゴが生む新しい体験

シフリンの自宅では、別の視覚障がい者であるミン・ハがゴーカートの組み立てに挑戦していた。
「脚、胴体、頭、ヘルメット。簡単だよ、君ならできる」とシフリンが声をかけると、彼女は笑顔で応じる。「よし、ヘルメットを頭に…次に脚をつけて……」

彼女は2年前、蓮の花を作ったことからこの世界に入ったという。
「多くの視覚障がい者は、レゴという子ども時代の文化的体験から取り残されてきました。でも、こうした複雑で美しい作品を組み立てるのは、とても満足感があり、心が落ち着く体験なんです」


By MICHAEL CASEY Associated Press