2月20日から22日まで、南アフリカ・ケープタウンでアフリカ最大級の現代アートフェア『インヴェステック・ケープタウン・アート・フェア』が開催。同フェアは今年で13回目を迎える。会期中はアフリカ各地および世界各国からギャラリーと来場者が集まり、同時期に開催されるファニチャー・ウィークと相まって、街全体がクリエイティブな熱気に包まれた。

現代アフリカアート関係者が集うグローバルなフェア
今年のフェアには世界34の都市から126の出展者が参加し、その約3分の1が初出展。約500人のアーティストの作品が紹介された。英国やイタリアなど欧州の現代アフリカアートを扱うギャラリーに加え、ジンバブエ、ナイジェリア、エチオピア、ケニアなどアフリカ諸国に拠点を持つギャラリーも強い存在感を示した。
ギャラリーブースに加え、若手アフリカ人キュレーターのタンダザニ・ドゥラカマ(Tandazani Dhlakama)とビアタ・アメリカ(Beata America)が手がけた特別展示も注目を集めた。彼女たちがリードするツアーやトークプログラムも開催され、その活躍が際立った。両名はアフリカを代表する現代美術館であるツァイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz Museum of Contemporary Art Africa:Zeitz MOCAA)で経験を積んだ実力派キュレーターである。
以下、展覧会で存在感を発揮していた10名の作家と所属ギャラリーを紹介する。
マンヤク・マシロ(ギャラリー:サザン・ギルド)
Manyaku Mashilo – Southern Guild
マシロは南アフリカ北部リンポポ州出身のビジュアルアーティスト。フェア内の個展ブースでは、高さ1.4メートル、横幅3.9メートルの大型作品を中心に複数のアクリル絵画を発表した。精神的アイデンティティ、記憶、祖先、コミュニティをテーマに、アースカラーを用いたアフロフューチャリスティックな作品が観る者を惹きつけた。
- Manyaku Mashilo
- Manyaku Mashilo
- Manyaku Mashilo
マンガリソ・ンズザ(ギャラリー:サザン・ギルド)
Mmangaliso Nzuza – Southern Guild
ンズザは南アフリカ・クワズルナタール州出身で、ケープタウンを拠点に活動する1998年生まれの画家。スコットランドで政治学を学んだ後、帰国して独学でアートの道へ進んだ。20世紀初頭のキュビズムを想起させる作風による存在感ある作品が特徴だ。

Mmangaliso Nzuza
サザンギルドは、2008年にケープタウンで設立されたギャラリー。南アフリカを代表するザネレ・ムホリ(Zanele Muholi)、ポーキー・ヘファー(Porky Hefer)から、ンズザのような若手まで幅広く扱う。絵画に加えて大型の彫刻作品も展開。今年のフェアでは、マシロの個展、メインブースに加え、ベニン出身の作家ドミニク・ジンペ(Dominique Zinkpè)の個展も開催し、フェア会場内でのプレゼンスを発揮。市内のギャラリーでは、大型の陶器・ブロンズ彫刻作品を展開するジジポ・ポスワ(Zizipho Poswa)の個展も開催された。
リチャード・ムダリキ(ギャラリー:アートハラレ)
Richard Mudariki – artHarare
ジンバブエ出身でケープタウンを拠点に活動するムダリキは、パロディや風刺を取り入れた絵画で知られる。今回のフェアでは、昨年ルーヴル美術館で発生した宝飾品盗難事件をモチーフにした作品を展示。2006年にジンバブエで起きたスウェーデン人訪問者によるアフリカ工芸品盗難事件を想起させる意図もあるという。
- Richard Mudariki
- Richard Mudariki
- Richard Mudariki
ジンバブエ系のアーティストに特化したギャラリー、アートハラレも展開するムダリキ。アートフェアでは、アフリカ大陸出身のアーティストの多くが直面するビザ問題に焦点を当てたプロジェクト「アート・ワールド・パスポート」も紹介。多くのアフリカ諸国のパスポート保持者は渡航時にビザ取得を求められ、却下されることも少なくない。「作品には移動の自由があるのに、作家である自分にはない」という矛盾への問題提起として、パスポートという形のアート作品を販売している。これまでに、ニューヨーク開催の「フリーズ」やアート・バーゼルでの発行実績がある。
カットレゴ・トゥラベラ(ギャラリー:クマロ・ターピン)
Katlego Tlabela – Kumalo | Turpin
トゥラベラは南アフリカ・プレトリア出身。ケープタウン大学で美術を学んだ。絵画、写真、コラージュといった様々な手法を取り入れ、インテリア空間や居場所をテーマ作品を展開する。フェアでは、黒人コレクターの住まいをテーマにしたコラージュ作品を発表。その中には過去の自身の作品も描かれている。一見、「理想的な空間」を描いているようにも見える作品だが、黒人コレクターが黒人によるアートを収集するという動きが普及しつつあるという現実を反映させたものだ。

Katlego Tlabela
昨年始動した、クマロ・ターピンは、これからもっと成長が期待されるグローバル・マジョリティ(グローバル・サウスをよりポジティブに伝える表現)のアーティストをサポートする。今年、ヨハネルブルグに拠点をオープンさせる予定だ。共同創業者のザネレ・クマロは南アフリカの新聞やファッション雑誌などの編集者として活躍してきた経歴を持ち、アフリカのファッション、デザイン、アートの世界をつなぐ重要人物の一人。
サイモン・オジェアガ(ギャラリー:オダ・アート)
Simon Ojeaga – O’da art
オジェアガはナイジェリア出身のビジュアル・アーティスト。細かいインク線を重ねて、繊細かつダイナミックな人間の像を描く。
オダ・アートはナイジェリアのラゴスに拠点を持つギャラリー。黒人のフィギュラティヴ・アート(具象芸術)作品を多く扱う。

Simon Ojeaga
アフィーズ・オナコヤ(ギャラリー:ザ・1897ギャラリー)
Afeez Onakoya – The 1897 Gallery
ナイジェリア出身でラゴスを拠点に活動するオナコヤは、チャーコールの陰影で表現した彫刻のような作品を得意とする。今回のフェアでは金箔を取り入れ、新たな作風に挑戦。
ラゴスを拠点とする、ザ・1897ギャラリーはアフリカ人とアフリカ系ディアスポラのアートに特化したキュレーションと、アート・アドバイザリーを行う。

Afeez Onakoya
チディリム・ンワウバニ(ギャラリー:ドイル・ワム)
Chidirim Nwaubani – Doyle Wham
ナイジェリア系イギリス人アーティストのンワウバニは、伝統文化と最新テクノロジーを融合させたアート作品を制作する。略奪されたアフリカ工芸品をデジタル技術で「取り戻す」プロジェクトで知られ、ヴェネツィア・ビエンナーレにも参加。
今回のフェアではナイジェリアのイグボ民族の伝統的な鐘をモチーフにしたコンテンポラリーな彫刻作品と、それを使ったデジタルインスタレーションを展開。参加者が彫刻に触れることで電気回路をつなぎ、その回路に接続されたスクリーンにデジタル彫刻が映し出される。未来思考の作品は、今回のフェアで「Tomorrow’s Today」賞に選ばれた。
ドイル・ワムは2022年に設立されたロンドンのギャラリー。アフリカ系作家の写真作品を主に扱う。

Chidirim Nwaubani
ジャン・デイヴィド・ノット(ギャラリー:アフィカリス)
Jean David Knot – Afikaris
カメルーン出身のジャン・デイヴィド・ノットは、アフリカの資源搾取問題を取り上げた作品で知られる。フェアでは昨年、京都のレジデンシープログラム参加中に制作した肖像画を発表。カカオ豆やコーヒー豆の運搬に使用されるジュート袋を再利用し、グローバルなコモディティ資源の流通や、それに関わる労働といったトピックを表現した。
アフィカリスは、パリに拠点を持つ現代アフリカアートに特化したギャラリー。パリでは個展を中心に定期的に新しい展覧会を開催する。欧州、アフリカのアートフェアの常連でもある。

Jean David Knot
ジョージア・センプラ(ギャラリー:ブリッジ)
Georgia Sempla – Bridge
センプラは南アメリカのガイアナ出身で、ロンドンを拠点に活動する。ガイアナの黒人コミュニティや家族ルーツに着想を得た作品を展開する。スピリチャルな要素や夢の世界を反映させた歪んだ表現が、観るものを引き込む。
ブリッジは、フランスの若手起業家の二人が2023年にパリで設立した比較的新しいギャラリー。若手作家やこれから成長する可能性があるアーティストの展開に注力する。

Georgia Sempla
カレアブ・アバテ(ギャラリー:アフリアート・ギャラリー)
Kaleab Abate – Afriart Gallery
アバテはエチオピア出身のビジュアル・アーティスト。シルクスクリーンプリント、コラージュの技術を用い、毛糸のフリンジを取り入れたダイナミックな作品が特徴的。アバテの近年の作品は、急速な変貌を遂げるエチオピアの首都アディスアベバの激動を反映している。断片化された人物像やシュルレアリスム的な形態は、加速する開発と文化的断絶によって形作られた都市景観の不協和音を映し出す。
アフリアート・ギャラリー(AAG)はウガンダ・カンパラに拠点を持つ。地元出身のダウディ・カルンギ(Daudi Karungi)が2002年に立ち上げた。カルンギは、カンパラ・アート・ビエンナーレとカンパラ・アート・トラストのディレクターも務め、ウガンダを拠点に現代アフリカアートのインフラ構築に取り組む。

Kaleab Abate
現代アフリカのアートシーンをより深く理解するための取り組み
今回の訪問では、ツアイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz MOCAA)が主催するファンドレイジング・ガラディナー・イベントにも参加。世界の美術館関係者、アートコレクター、地域のアーティストや著名人といった美術館後援者のための社交イベントである。アートフェアのVIP向けプログラムと似たような位置付けだが、美術館の取り組みとしては新しい。
今年のガラでは、マリ出身のテキスタイルアーティスト、アブドゥライェ・コナテ(Abdoulaye Konaté)が卓越した芸術活動に対する名誉賞を、南アフリカ出身の弁護士、反アパルトヘイト活動家、作家、芸術家として多岐に渡って活躍してきたアルビー・サックス(Albie Sachs)がビジョナリー賞を受賞した。

Zeitz MOCAAでは、3日間にわたる「ガラ・コラテラル・プログラム」を開催。世界各地から集結する美術館後援者同士の交流と、彼らとケープタウン地域のアートコミュニティとの接続が目的だ。ケープタウンを拠点に活動するアーティスト、コレクターなどがホストとなり、理解を深めるためのイベントが企画された。Zeits MOCAAはアフリカとそのディアスポラコミュニティをスコープに活動する国際的な芸術機関でありつつ、ケープタウンという地域との連携といった視点も重視するという考えが背景となっている。
本プログラムのキュレーター、ハムゼ・アルファラネ(Hamzeh Alfarahneh)はヨルダン出身。サウジアラビアやアラブ首長国連邦ドバイで過ごした経験があり、中東と南アフリカの影響を受けて育ったという。現在はケープタウンを拠点に、キュレーションを通じてアフリカと中東の橋渡しを行う。グローバル・サウスではなく、「グローバル・マジョリティ」という表現を使い、北半球との対比ではなく主体性を持った形で、アフリカや中東、そしてこれらの地域と接続するディアスポラの視点を発信する。

Hamzeh-Alfarahneh
彼がコラテラル・プログラムの企画に携わるのは今年で3年目。これまで昨年、急逝したZeitz MOCAAの元エグゼクティブ・ディレクター兼チーフ・キュレーター、コヨ・クオ(Koyo Kouoh)とともに計画を進めてきた。クオへの追悼と敬意の念を込めて『By the Footsteps of the Beloved(訳:愛する人々の足跡を辿って)』を今年のテーマに選んだという。
プログラムには、東ケープ州出身のマンヤク・マシロ(Manyaku Mashilo)、イラン出身のミックスメディア・アーティスト、カムヤー・ビネシュタリフ(Kamyar Bineshtarigh)、ダーバン出身のビジュアル・アーティスト、アルカ・ダス(Alka Dass)、ジンバブエ出身の抽象画家ミシェック・マサンヴ(Misheck Masamvu)、テキスタイル作家のイサーン・アダムス(Igshaan Adams)、グラフィティ風ドローイングや彫刻作品を手がけるボイチェ(Boytchie)、本名フィリップ・リチャード・ジャネック・ニューマン(Phillip Richard Jannecke-Newman)など、ケープタウンを拠点に活動する多彩なアーティストが参加した。
一方、『インヴェステック・ケープタウン・アート・フェア』でも、アートやアーティストへの理解を深めるためのユニークな取り組み「アート・ピクニック」を体験した。ケープタウンを拠点に、地域に根差した社会的なプロジェクトを展開する建築事務所「The MAAK」の共同創業者マックス・メルヴィル(Max Melvill)と、クリエイティブ・コンサルタントのキャロル・カース(Carol Khaas)が企画。
アートフェアでは定番のキュレーターツアーを代替するフォーマットとして、ピクニック・スタイルのアート鑑賞を提案した。会場の真ん中に巨大でカラフルなピクニックブランケットを広げ、食べ物や飲み物を提供。その周りでギャラリストやアーティストが7点の作品を紹介するというスタイル。従来のスタイルであるホワイトキューブの画廊が持つ排他性をなくし、南アフリカの暮らしや文脈にあったアート空間や鑑賞スタイルを提案するという取り組みだ。
南アフリカのアートシーンは、新たな試みや分野横断的なコラボレーションに意欲的に取り組んでいる印象を受けた。美術館のような大規模な芸術機関から地域に根ざしたホスピタリティ施設までが創造的な動きを支え、街全体が交流と対話を生み出すプラットフォームとして機能している。その広がりは今後さらに加速していくだろう。
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Photo by Maki Nakata(一部提供写真)
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Maki Nakata
Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383














