かけがえのないものは、形を持たずに人の記憶に宿る。その人を象徴し、やがて誰かに継がれていく——。「Your symbol, your memento, your legacy. / あなたの象徴、形見となり、継承されるもの。」この言葉をブランドコンセプトに掲げる眼鏡ブランド〈Yin Year(インイヤー)〉は、眼鏡という“道具”を通して、人間の存在そのものに光を当てようとしている。

単なるプロダクトではなく、時を重ねて寄り添い、やがて誰かの記憶の中に“残る”——そんな眼鏡のあり方だ。その思想の延長線上に、新たなコンセプトムービーが誕生した。

舞台となったのは、台湾。今、アジアに根づく死生観と“継承”のかたちを探ろうと、昨年末に台湾で国外初となる展示を開催した。「落葉帰根(らくようきこん)」──どんなに背の高い樹の葉でも、いずれは地に落ち、根に帰る。この思想に象徴されるように、〈Yin Year〉が見つめたのは、“生”と“死”の間にある、曖昧だけれど、切実な感覚。

現代社会において、「死」はしばしば日常から隔離され、見えなくなる。それにより「生」までもが輪郭を失い、実感をもてずに過ぎていく。だからこそこのフィルムでは、「死」を想うことを通して、「生きる」ことの本質に向き合おうとしたのだという。

台湾に根を張って生きる人々へのインタビューを重ねるなかで、Yin Yearのメンバーたちはある瞬間、「継承」という言葉の輪郭がはっきりと立ち上がるのを感じたという。それは、時間では測ることのできない“記憶”の蓄積だった。眼鏡を単なる物質ではなく、目に見えない存在——記憶の媒体へと昇華させること。このフィルムが映し出しているのは、その“継承”の風景であり、記憶の中に今も息づく台湾の姿である。

Yin Yearはつねに“光”と“影”を、“生”と“死”と捉えてきた。光と影の境界にある存在。その間に立つ私たち「生者」が、何を見つめ、どう振る舞うか。生と死の連続性、そこに横たわる文化と身体性。この問いを、眼鏡という極めて個人的なプロダクトを通して、〈Yin Year〉は追いかけている。

誰かの死を見送る儀式が、実は残された生者のためにあるように——〈Yin Year〉の映像もまた、過去と静かに向き合い、次へと歩みを進めるための、静かな祈りのように感じられる。

誰かの死を弔うための儀式とは、突然の喪失を受け入れ、少しずつ手放していくための通過儀礼。まるでそれは、意味を求めない旅に出ることや、理由もなく手記を綴ったりするように。その行為に、明確な“意味”がなくとも、人はそれを必要とする。

〈Yin Year〉が映し出すのは、明確な意味を求めない時間の中に浮かび上がる、かすかな感情の輪郭。言葉にできない記憶にそっと触れるようにして、美しさを浮かび上がらせている。

ブランド名には、「Yin=影」「in year=年を重ねる」の意が込められている。影のように寄り添い、ともに年を重ねていく存在。ブランドはこれまでも、プロダクトとしての眼鏡を超えて、人間そのものを映す鏡としての眼鏡のあり方を探求してきた。

これは、表現のための映像ではなく、記憶のための映像だ。言葉では届かない感情に、静かに触れるために。あなたという存在の“象徴”として、眼鏡が生きていく。その静かな旅路を、〈Yin Year〉はこれからも歩んでいく。


Yin Year
“あなたの象徴、形見となり、継承されるもの”をコンセプトに活動するアイウェアブランド。/ 日本

yinyear.com

Conceptual Film 4「落葉帰根」
Director. Kento Nakahara
Cinematographer. Kenta Matsuda
Music. Masahiko Isobe
Production Assistant . Sakura Higa
Interpreter. Kiko Lee
Location. Taipei / Kaohsiung