博物館は氷山のような存在であり、その大半は人目に触れないところにある。
多くの大規模な博物館では、展示されているのは収蔵品のごく一部であり、残りは保管庫に閉じ込められている。だが、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が開設した「V&Aイースト・ストアハウス」では、保管庫そのものを公開し、展示品の多くを間近で、場合によっては手に取って見ることができる。
施設の面積は1万6000平方メートル(17万平方フィート)で、バスケットボールコート30面以上に相当する規模。25万点以上の展示品、35万冊の書籍、1000点以上のアーカイブを収蔵している。3階建ての広大なコレクションホールを歩く体験は、IKEAの巨大倉庫を探検しているかのようであり、いたるところに貴重な品が並んでいる。
V&Aは英国を代表するデザイン・舞台芸術・応用美術の国立博物館であり、ストアハウスでは古代エジプトの靴、ローマ時代の陶器、古代インドの彫刻、日本の甲冑、モダン家具、ピアッジオ製スクーター、グラストンベリー・フェスティバルで使用されたカラフルなゴミ箱など、多種多様な品が棚に並ぶ。
「ここには5000年分の創造性が詰まっています」と語るのは、V&Aのコレクション管理・公開担当ディレクターのケイト・パーソンズだ。旧施設のある西ロンドンからこの新施設に展示品を移すのに、379台のトラックと1年以上の時間を要した。

ロンドンにあるV&Aストアハウスの全景2025年6月5日 AP Photo/Joanna Chan
展示品に近づき、触ることもできる
最大の特徴は「Order an Object(展示品を予約する)」というサービス。ヴィヴィアン・ウエストウッドのモヘアセーターから小さな日本の根付まで、あらゆる展示品を一対一で間近に見学できる。ほとんどの展示品は実際に触れることが可能であり、例外は毒性を持つビクトリア朝の壁紙などに限られている。
このサービスは「舞台裏に入り込むような、極めて個人的で密な体験」を提供する、とパーソンズは説明する。すでに最も人気のあるアイテムの一つとなっているのが、1954年製のピンク色のシルク・タフタ製バレンシアガのイブニングドレスだ。閲覧室には、エルトン・ジョンが1981年のワールドツアーで着用したボブ・マッキー製の軍服風チュニックや、2着の絹の着物も並んでいた。

1981年のワールドツアー中にエルトン・ジョンが着用した衣装を見せる、収蔵品管理・公開担当ディレクターのケイト・パーソンズ。このジャケットはボブ・マッキーによってデザインされた衣装。AP Photo / Joanna Chan
施設の5月末の開館以来、一般からの反響は非常に大きいという。来館者の目的は多様で、結婚式のインスピレーションを求める者、美術系学生、あるいは「1850年代のドレスの糸密度を測定するために機器を持ち込んだ研究者」などもいた。他人が見に来た展示品をきっかけに、見知らぬ来館者同士が会話を始めることも少なくない。
「本当に素晴らしい光景です」と彼女は語った。「こうしたまったく新しいコンセプトには、もちろん私たちも期待を抱いて、観客調査も行い、人々が来てくれると信じて準備を進めます。でも実際に扉をくぐってくれるまでは、どうなるかわからなかったのです」

1954年にクリストバル・バレンシアガがデザイン・製作したドレスを見せる、収蔵品管理・公開担当ディレクターのケイト・パーソンズ。AP Photo / Joanna Chan
再開発地域に誕生した文化拠点
V&A本館は、ロンドンの高級住宅街サウス・ケンジントンに位置し、このエリアは1850年代に創設された英国有数の観光スポットである。一方、ストアハウスはロンドン東部のオリンピック・パーク内にあり、ここは2012年の夏季五輪で使用された後、再開発が進められている地域だ。
この再開発の一環として、現在では芸術・ファッション系の大学、ダンス劇場、来年開館予定の別のV&A分館などが集う文化地区が形成されつつある。ストアハウスでは、近隣の経済的に困難な地域から多数の若者を採用している。
施設の設計は、ニューヨークのハイライン・パークで知られる建築事務所「ディラー・スコフィディオ+レンフロ」が担当。これまで展示が困難だった大型展示物も収蔵可能で、17世紀ムガル帝国時代の列柱、フランク・ロイド・ライトが1930年代に設計したモダンなオフィス、パブロ・ピカソが1924年のバレエのために手がけた高さ10メートル以上の舞台幕などが含まれている。

「ル・トラン・ブルー」。この劇場用の前幕はアレクサンドル・シェルヴァシゼ公によって描かれ、パブロ・ピカソの《浜辺を走る二人の女》に基づいている。AP Photo / Joanna Chan
また、スペインのトリホス宮殿の15世紀の金箔天井、取り壊されたロンドンの公営住宅「ロビン・フッド・ガーデンズ」のコンクリートの外壁の一部といった、すでに失われた建築物の断片も展示されている。
この施設は、静寂を求める「芸術の神殿」ではなく、実際に稼働する作業現場でもある。館内では会話が奨励され、フォークリフトの警告音も聞こえてくる。現在は、故デヴィッド・ボウイの衣装、楽器、手紙、歌詞、写真などのアーカイブを収蔵する「デヴィッド・ボウイ・センター」の整備も進められており、9月に開館予定だ。

V&Aストアハウスに展示されている宗教的遺物 AP Photo / Joanna Chan
ミュージアムの透明性を目指す
ストアハウスの目的のひとつは、博物館内部の作業を可視化することにある。害虫駆除から所蔵品の番号管理まで、保存作業の全容を展示するほか、スタッフの作業を見学できるギャラリーも設けられている。
こうした透明性の強化は、英国の博物館が収蔵品の出自をめぐってますます厳しい視線にさらされる中での対応でもある。かつての大英帝国時代に不透明な手段で取得された収蔵品の返還を求める声が高まっている。
上級キュレーターのジョージア・ハセルダイン氏は、V&Aが「どこから来たものなのか、どのようにV&Aのコレクションに加わったのかをオープンに語る『透明性』の方針を採っている」と説明した。「地域住民や世界中の研究者が、これらの品々に自由で平等にアクセスできるようにすることも重要です」
「一般的な博物館で展示されているのは、コレクション全体の1〜5%にすぎません。でも私たちはここで、『このコレクションはすべて、みんなのもの。これは国民の財産であり、誰でもアクセスできるべきもの』という姿勢を示しているのです。それが私たちの基本理念です」
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By JILL LAWLESS Associated Press
LONDON(AP)