3ピースのダーク・サイケデリック・ロックバンド、Barbican Estate。2019年に東京で結成し、現在はロンドンを拠点に世界へとその音を響かせている。メンバーはKazuki Toneri(ギター/シタール)、Miri(ベース/ボーカル/フルート)、Koh Hamada(ドラムス/パーカッション)。エクスペリメンタル、サイケデリック・ロック、ノイズといった要素を巧みに織り交ぜ、サイケデリックからシューゲイザーまでを横断する独自のサウンドを生み出している。

彼らの音楽には、60年代のサイケデリック・ロックやブルース・ロック、70年代後半のノー・ウェイブ、そして80年代以降のオルタナティブ・ロックといった、多様な音楽的遺伝子が流れている。それだけでなく、メンバーそれぞれが映画や建築などのアートからも影響を受け、特にドイツ表現主義やサイレント映画への傾倒が色濃く反映されている。

2024年6月には、約1年半ぶりとなる4曲入りEP 『Viscum』 をリリース。タイトルが示す「ヤドリギ」のごとく、生命力あふれる楽曲群がリスナーを魅了する。

そしてこの年末年始、Barbican Estateは日本に一時帰国。息を呑むような美しさと、爆発するような躍動感を兼ね備えた圧巻のライブを披露した彼らに、その熱気が残るうちに直接インタビューを行う機会を得た。

最近どんな音楽を聞いてますか?

Kazuki Toneri:初期クラウトロック、ミニマルテクノ、トリップホップ

Miri:この年末年始はヴェルナー・ヘルツォークの映画を見直していたこともあり、Popol Vuhのサウンドトラックばかり聞いていました。

Koh Hamada:最近は80年代、90年代のフュージョンをよく聴いてます。Mike sternやウェザーリポート、steely danとか最近聞いてます。

自分の作品で一番のお気に入りは?

Kazuki Toneri:昨年出したEP Viscum です。4曲入りのEPですが、ロンドンと東京で遠隔レコーディングした初めての作品のため、ある種ターニングポイントとなっています。

Miri:Viscum。2024年にイギリスでリリースした最新EPのタイトルソングです。Barbican Estateの中では短い楽曲ですが、この曲がバンドを様々な場所に連れて行ってくれた気がしています。

Koh Hamada:Eyes in the skyです。お気に入りでもあり、もう一回収録しなおしたいなと思っている作品でもあります。当時、つたない部分が多く今の自分が演奏したらどんなことが出来るのかとか思ったりしています。

影響を受けた/大好きなミュージシャン、アーティストはいますか?

Kazuki Toneri:Velvet Underground, Sonic Youth, Television, Can, Neu, Serge Gainsbourg, Swans, Pink Floyd, Massive Attack, Boredoms

Miri:The Doors、David Bowie 、Pink Floyd、The Velvet Underground、Led Zeppelin、Rolling Stones。SpotifyやApple Musicの年間再生ランキングは毎年彼らが不動の上位でつまらないのでシェアしません。

Koh Hamada:Jojo Mayer, Dennis Chambers, Steve Gadd, Mitch Mitchellです。
昔からフュージョンは自分のドラムの根底にあるんだと思っています。そこにMitch Mitchellの歌うようなドラムも叩けるようになりたいという想いもあって、今の自分の目指したいドラムにはその二つが共存している気がします。

今注目している、またはコラボしてみたいアーティストはいる?

Kazuki Toneri:PortisheadのGeoff Barrowにいつかプロデュースしてもらいたいです。

Miri:PortisheadのGeoff Barrowとコラボするのは夢です。

Koh Hamada:中村卓也さんです。The Lot Radio, Elevator Musicで知りました。

活動拠点をロンドンに移されて2年経ったとお聞きしました。ロンドンでの音楽活動を始めた時と現在とで、どんな変化がありましたか?

Kazuki Toneri:やはり僕たちの一番の変化はライブ慣れしたことです。2年で多くのライブをこなしたこと、また多くの現地のドラマーとセッションしたことで胆力がつきました。
日本にいるときは周りの影響もあって、ライブ中はアンプなどの機材のことで頭がいっぱいでしたが、今は様々なクラブで演奏することで、どんな機材や環境にも対応できる応用力が身につきました。

Miri:活動拠点を移した当初はジャパンノイズや日本のサイケデリックに元より興味がある人がギグに来てくれていた印象でしたが、最近は何度もギグに足を運んでくれるオーディエンスも増え、ロンドンのローカルの音楽シーンに溶け込んできているように感じます。私個人としては公私ともに着々と拘りがなくなってきました。

ロンドンの音楽シーンについて教えてください。好きなところと嫌いなところは?

Kazuki Toneri:好きなところ ミュージシャンと観客の距離が近い、レジェンドから新人まで様々なアーティストと交流できる。
嫌いなところ ものすごいコネ社会なので、ほぼ全てがそれによって決まってしまう。
そのため新人バンドが育ちにくい環境になっている。

Miri:アーティストもオーディエンスも基本的にかなり明るく、自分の演奏や音楽趣味に自信たっぷりです。たとえ暗い音楽をやっていたとしても、神経質な人やシャイな人の方が少ないので、ヴェニューにはご機嫌な空気が流れていることが多いです!
反対に調整力が著しく低く、レイジーなプロモーターに何度か出会いました。お金の管理などが杜撰でたくさんブチギレてきました。

普段仲の良いバンドはいる?

Kazuki Toneri:ロンドンのサイケ、ポストパンク、シューゲイザーバンドたちと仲良くさせてもらってます。

Miri:Tess Parksのメンバーたちとはたまにジャムセッションをして遊んでいます。イギリスを拠点に活躍されている日本人ミュージシャンのBo NingenやGrimm Grimm、Shoko Yoshidaさんは音楽的にも人間的にも心から尊敬している先輩です。

クリエイティビティの源は?

Kazuki Toneri:遺跡に行くこと

Miri:建築巡り

Koh Hamada:個人的にはアウトプットする練習を大事にしています。こういう風に演奏したいとかはたくさん見つかると思いますが、理想とする演奏をするための練習をしないと頭の中だけで終わっちゃうので

コレクションしているものはある?

Kazuki Toneri:アフリカのお面

Miri:DVD、70年代イギリスのドレス。

Koh Hamada:特にないです。

創作活動に欠かせないアイテムや機材は?

Kazuki Toneri:ファズとエコーペダル

Miri:コーラ

Koh Hamada:特にないです。

Barbican Estateのメンバーが音楽制作において、大切にしていることは?

Kazuki Toneri:音楽だけでなく、多くのアートや文化に触れること。

Miri:特定の時代や場所を感じさせない楽曲にすること。いくつになっても演奏したいと思える楽曲を作ること。

Koh Hamada:僕は手癖で出るものじゃないフレーズを出すことを意識しています。ドラムってシンプルなんで、いつも通りやると毎回同じようなビート叩いてる感じになってしまうので、そこは気を付けようと思っています。

これまでで一番思い出に残ってるライブ体験は?

Kazuki Toneri:2024年6月にロンドンで開催したツアー自主企画。ソールドアウトになる程大盛況でした。

Miri:ロイヤルアルバートホールで見たPink FloydのDavid Gilmour公演。家賃ほどのチケットの価格にも泣きましたが、ギターの一音で何度も涙が出ました。

Koh Hamada:Londonでカズキさんと二人で演奏したときですね。自分が初めてのLondonでのライブで、ノープランでセッションしたのが思い出に残ってます。

お気に入りのミュージックビデオはある?

Kazuki Toneri:ベタですが、Smashing PumpkinsのTonight Tonightです。元ネタのG・メリエスの「月世界旅行」が大好きなので。

Miri:U2の「Stay -Faraway, So Close!」。Wim Wenders監督贔屓なので。「ベルリン・天使の詩」続編「時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!」の楽曲です。

Koh Hamada:King Gizzard & The Lizard Wizardの「Iron Lung」です。多分生成AIで作ってると思うんですが、こういう事AIで出来るようになったんだと思って、ちょっと感動した記憶があります。

今、行きたいところは?

Kazuki Toneri:中国、ユーゴスラビア、エリトリア

Miri:マルセイユにあるル・コルビュジエ建築の集合住宅に泊まりに行きたいです。今年こそ南仏のバカンスを実現させます。

Koh Hamada:特にないです。しいて言うならいつか群馬に住みたいと思ってます。

好きな映画・ドラマはある?

Kazuki Toneri:ベルナルド・ベルトルッチの映画全般

Miri:大学で映画を学んでいましたが、その際はニュージャーマンシネマ、ヌーヴェル・ヴァーグを中心に研究していました。ここ数年は何故か4-50年代のハリウッド映画を積極的に見ています。

Koh Hamada:八甲田山とNOPEです。

日々のルーティンで大切にしていることは?

Kazuki Toneri:近所のハムステッドヒースというロンドンの公園で散歩しています。

Miri:ないです。ロンドンでミュージシャンとして生活を始めてルーティンがなくなってしまいました。強いて言えばなるべく映画館に行って映画を見る事です。英語の勉強もかねて月2~4回は行くようにしています。

Koh Hamada:良く寝る事です。人間は寝ている間に経験したことなどを処理しているらしくて、それってすなわちインスピレーションとかに大きく影響する事なので、ちゃんと寝れるようにすることを大切にしています。あと寝ることがすごく好きなので、暇さえあればまず寝てます。

音楽活動以外で好きなことや、ハマってるカルチャーは?

Kazuki Toneri:古代ギリシャ、ローマ遺跡巡りです。

Miri:昨年スペインのアルハンブラ宮殿を訪れてから、イスラームの建築や伝説に夢中です。ベルベル人のアクセサリーも集めていて、モロッコには隙があれば、何度でも行きたいと思っています。様々な国に旅できることが、ロンドン生活のなによりのモチベーションになっています。

Koh Hamada:クラブミュージックカルチャーはすごく好きです。特に現行のUKアンダーグラウンドミュージックであるUKBassが特に好きです。飛ぶために試行錯誤された独特なカルチャーが非常に魅力的です。

ミュージシャンとして今後の夢/チャレンジしたいことは?

Kazuki Toneri:UK内のレーベルと契約してロンドンでの拠点をより強固にしたい。

Miri:イギリスだけでなくヨーロッパを中心にたくさんのフェスティバルに出演したいです。中国人のサポートドラムの子と一緒に、中国でもギグがしたいです。

Koh Hamada:自分の好きなものをミキシングして、なにか形にはしてみたいなと思ってはいますが、諸々足りてないので、本当に出来たらいいなーくらいの感じです。あとは当分人々から忘れ去られないようなものを一つでもいいから、何かしらこの世に残すことです。

最近の活動はどう?Barbican Estateのファン、そしてこれからBarbican Estateの音楽に出逢う人に向けてメッセージをお願いします!

Kazuki Toneri:私ごとですが、イギリスのアーティストビザを取得できました。これからもロンドンを活動拠点にしながら、よりワールドワイドな活動をしていきたいです。2月28日(金)にはRough Tradeでのヘッドラインショウが決定したので今から楽しみです。また今年は主に制作に力を入れ、新作を出せるように頑張ります!

Miri:日本に比べるとまだまだたくさんのライブヴェニューがあり、誰もが自由で気にしないイギリスは私達にとってとても生きやすいです。イギリスにお越しの際はぜひBarbican Estateのギグを見に来てください!

Koh Hamada:曲を鋭意制作中なので、またリリースしたら是非聴いて欲しいです。


Photography:Yota Hoshi

Barbican Estate

2019年結成。Kazuki Toneri(Gt, Sitar)、Miri (Ba, Flute, Vo)、Koh Hamada(Dr, Percussion)の 3ピース・バンド。メンバーそれぞれが音楽や映画、その他様々なアートに精通しており、その音楽性はエクスペリメンタル、サイケデリック・ロック、ノイズ・ミュージックのみならず、古今東西あらゆる芸術からインスピレーションを受けている。
暗く陰鬱な音像の中にソリッドで建築的な要素と破壊を織り込んだ音楽性は度々「ダークサイケデリック」と形容される。

2021年に1stアルバムWay Down Eastを発売。東京のアンダーグラウンドシーンで話題になる。
2022年から英国 ロンドンに移住し、UKツアーやフェスティバルにも出演。既に50本近くのライブに出演し、ローカルのシーンで注目を集めている。

2024年6月に最新EP『Viscum』をリリース。イギリスの若手クリエイターたちと共に製作した楽曲とビデオが話題を呼んだ。
また同年1st album Way Down East をアメリカのレーベルEchodelickから再リリース。またEP Barbican City of TokyoがイギリスのレーベルFeral Child Recordingsからリリースされた。