今年で22回目を迎えた「ロンドン・デザイン・フェスティバル(LDF)」(2024年9月)を訪れた。ロンドンの文化の多様性や「デザインといえば、ロンドン」という同地の魅力を反映した、恒例のイベントだ。市内の小さいギャラリーやショップから、名のある美術館やデパートまでが舞台となり、世界中のデザイナーやアーティストたちが独自のアイデアやストーリーを吹き込んだ造形品・実用品を披露した。絵画や彫刻、家具やジュエリーに至るまで、非常に幅広いデザインやアートに出合えた。

美しい! 可愛い! 心が弾む!

LDFには、大型インスタレーションに焦点を当てた「ランドマーク・プロジェクト」がある。今年は5点だった(1点は事情により展示中止)。

「リキッド・ライト」は、スコッチ・ウイスキーの老舗ブランド、ジョニー・ウォーカーとアーティスト集団のマシュマロ・レーザー・フィーストとのコラボで、大小の吹きガラス(瓶)が宙に浮かんだ作品。個々のガラスのデザインはもちろん、重なり合った様子や周囲に置かれた白い布に映ったガラスの影も楽しめ、何もなかった空間が重層的な世界に生まれ変わった。本作は、ジョニー・ウォーカーが、ラグジュアリーブランドとしてデザイン革新やサステナビリティ促進に真剣に取り組んでいるということの象徴でもあるという。

Pavilions Of Wonder Barbie ©️EdReeve

「驚異のパビリオン」は、建築における遊び心や無限の可能性の大切さを表現した作品。バービー人形の世界と、南カリフォルニアの砂漠周辺にあるグレーター・パーム・スプリングスというリゾート一帯(1900年代半ば、アメリカで流行ったミッドセンチュリーモダン建築が多数ある。すっきりした線や幾何学的な形状、鮮やかな色彩が特徴)にインスパイアされた3連作のパビリオンだ。どのパビリオンもパステルカラーで愛らしさ満点だった。ロンドンを拠点に活動しているデンマーク人デザイナーのニーナ・トルストルップがデザインした。

船にも橋にも見える木製のインスタレーションは、生分解性のネットが張られ、約20種の植物が植えられている。下の方の赤いネットの部分には座ることができる。ドイツの工業デザイン事務所ディーズ・オフィス(ドイツの都市緑化の専門家OMC°Cと提携)が、都市開発(都市環境)、生態系の回復力、地域社会との関わりをフェスティバル訪問者に考えてもらおうとデザインし、アメリカ広葉樹輸出協会(AHEC)と共同で作った。

The Sun My Heart Bloomberg ©️EdReeve

「太陽、私の心」は、太陽光パネルをアーティスティックにデザインすることで注目を浴びているオランダのマーヤン・ファン・オーベルが手掛けた。本作は、自己発電ソーラーライト「サンナ」(窓際に吊るして日光のエネルギーを集め、夜に明かりをともす)を改造したライトを多数飾ったもの。訪問者たちに、人間と太陽との関係や太陽エネルギーの可能性(持続可能なエネルギー)について考えてもらうことをねらった。
 

日本関連の作品も精彩を放つ

これら4つのランドマーク・プロジェクトも含め、時間が許す限り各地を見て回ったが、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館内の計7つのプロジェクトも印象的だった。中でも、洗練されたセンスに惚れ惚れしたのは日本関連の「クラフト × テック」だ。

CRAFT x TECH ©️EdReeve

展示室は6つのエリアに分けられ、津軽塗(青森県)、川連漆器(秋田県)、南部鉄器(岩手県)、仙台箪笥(宮城県)、置賜紬(山形県)、会津本郷焼(福島県)の日本の東北6県の伝統工芸が飾られている。各工芸品の横に、世界で活躍するクリエイター6人がそれぞれの工芸品の手法を使って生み出した作品が置かれた。

たとえば、川連漆器では、お盆の横に、サビーヌ・マルセリス作の漆を使った角が滑らかなテーブル(ベージュと赤)と波の模様のウォールアートが並べられ、置賜紬の着物の横には、落合陽一作の置賜紬の糸(ワイヤーを入れた特殊な糸を開発した)を使った柱のない茶室が展示された。写真では展示室は明るめだが実際は薄暗く、神秘的な雰囲気が各作品の優美さを強調していた。

credit Peter Kelleher @ Victoria and Albert Museum,London. 2024

「マテリアル・マターズ」展~エコな素材の世界に没入

今回のLDFで筆者が最も刺激を受けたのは、サステナブルな素材を使ったデザインのフェア「マテリアル・マターズ(材料も大切だ)」だ。今回が3回目の開催となった本フェアの始まりは、イギリスのポッドキャストだ。

installation view / Material Matters 2024

このポッドキャストは、デザインライター兼コメンテーターのグラント・ギブソンがアーティストやデザイナー、建築家などと対話し、特定の素材(エコロジカルな素材)や技術がその人たちの人生やキャリアをどのように変えたかを探っていくという内容。気候変動を考える動きが益々高まる中、リスナーが世界に広まるようになった。そこで、作品や製品の“マテリアル”に焦点を当てて実物を展示する機会を設けてみようということになり、LDFに加わったのだった。

マテリアル・マターズの会場は、デザインショップやカフェが入居したテムズ川沿いのお洒落なスポット、オクソタワーの大型イベントスペースだ。1棟5階に渡り50以上のプロダクツが展示された。筆者はこれまで沢山のエコ製品を見てきたが、展示品の材料である「アルミ、木、海藻、植物の根、オレンジの皮、紙、バイオプラスチック」といった素材の可能性に改めて感心した。特に印象に残ったものを紹介しよう。

Simone Brewster in collaboration with Amorim / Material Matters 2024

まず、棟の前で出迎えてくれた彫刻「場の精神」が色といい形といい、味わい深かった。シモーヌ・ブリュスターはコルク樫加工業者のコルティセイラ・アモリムのコルク複合材を使い、ポルトガルにあるコルク樫の森を表現した。コルクが美しい天然素材であることが伝わってくる。(本作は、昨年のLDFで委託されたもの)

また、彫刻の反対側には、まばゆい発色のベンチが置かれ、訪問者たちが座っていた。ベンチは完全にリサイクル可能な粉体塗装アルミニウムで作られている。

Studio TIP / Material Matters 2024

Studio TIP / Material Matters 2024

棟に入ると、木、ガラス、メタル、石などが標本のように飾られていた。過小評価されている廃棄物資源を地元で循環させ、社会や環境に利益をもたらすことを目指すスダジオ・ティップによる展示だった。飾られたマテリアルは、ロンドン中心部で解体された建築廃棄物2.5トン(建設業ジョンFハントからの寄付)の一部だ。それぞれのマテリアルにはQRコード(デジタルパスポート)が付いており、素材の背景についての情報を得られると共に、将来どう活用されたかもわかるようになっている。

「すべてが循環されるべき」とのコンセプトで、訪問者が展示品の中から再利用したい材料を無料で選び、予約し、収集できるオプション(半年以内に、再利用した結果をスタジオに報告する)が付いていた。

crafting plastics! studio / Material Matters 2024

2階で目を引いたのは、彫刻かと見まごう椅子。クラフィティング・プラスチックス!というデザイン事務所の展示だった。同事務所は、環境に配慮した持続可能な製品を日常生活に取り入れてほしいと、植物由来の資源から作られたバイオプラスチック(生分解性プラスチック)を使った製品(カップ、トレイ、花瓶、サイドテーブルなど)をデザインし販売している。

昨年もマテリアル・マターズに出展し、今回は、スタッキング可能なスツールの新シリーズ「コレクション14」を披露した。事務所独自のバイオプラスチック素材「NUATAN®」で、3Dプリントで制作した。高さが様々で、積み重ねることができるのは楽しい。シリーズには、太陽光活性バイオスキンを塗布したバージョンもあり、これは紫外線に反応して表面の色が変わる仕組みだ。目に見えない紫外線を可視化し、健康被害についての認識を高めるための機能だ。

Hydro / Material Matters 2024

Hydro / Material Matters 2024

3階では個性的なランプに出合った。アルミニウムの大手メーカーのハイドロ(本社はノルウェー)による「100Rプロジェクト」のアルミ製ランプだ。100Rプロジェクトは、アルミニウムのスクラップから作ったリサイクルアルミニウム「Hydro CIRCAL 100R」を材料としたランプや椅子や棚で、世界的に有名なデザイナー7人がデザインを担当した。

このリサイクルアルミニウムは1kgあたりCO2排出量が0.5kg未満ととても低い。ハイドロは持続可能な金属産業の模範になろうとしており、同社はこのプロジェクトを通じて、より多くのデザイナーやブランドがリサイクルアルミニウムを使うようになることを目指している。

Hyunju Roh / Material Matters 2024

こちらも照明器具。韓国生まれのシンジェ・キムが作ったシンプルなランプは、工業用ダクト管(空気を運ぶための管)を再利用したもの。ありふれた素材を使い、彫刻の可能性を表現している。照明と一緒に飾られた棚は、建設廃棄物の中にあった1900年代初期の排水管の留め金具を使っている。素材の歴史を保存しつつ、現代デザインに再利用する大切さを訴えている。

風変りだったのは、頭髪を編んだロープを使ったプロダクツだ。スタジオ・サンネ・ヴィッサーは、特に人間の髪を利用するデザインを考案している。同スタジオのウェッブサイトでは、100%人間の髪でできた犬用リードや、髪のロープをあしらったリサイクルの鏡(設置する高さは、木の留め具で調整)を販売している。鏡は2022年のLDFのために考案したもので話題を呼んだ。会場には、それらのほか、髪のロープで作った帽子や髪のロープをアクセントにした木の椅子など、数人のデザイナーとのコラボ品があった。ヘアカットや、髪を糸にする実演も行われていた。

Arper / Material Matters 2024

4階は、様々なデザインの椅子が展示されていた。バーチャルで訪れることができるので、フェアの臨場感を味わってみてほしい。 

最上階も、興味深いデザインばかりだった。研究者兼講師で、廃棄物を利用したアートワークを手掛けるアルケシュ・パーマーは、廃棄されたオレンジの皮から作った2つの素材を紹介していた。1つは革のような素材の「アピール・スキン」で、乾燥中のオレンジの皮を手作業で切断、縫製、成形して作る。ランプも壁飾りも美しかった。もう1つは紙のような質感の白い「アピール・ぺーパー」で、ランプシェードに利用されていた。

MushLume Lighting / Material Matters 2024

自然な色と質感が特徴の「マッシュルム・ライティング」は、100% 生分解性のランプシェード。10年前にニューヨーク・デザインウィークで発表して以来、ホテルやレストラン、一般家庭で使われており、昨年からはヨーロッパでも本格的に販売している。数々のデザイン賞に輝いている。

材料は、麻(麻産業から出た麻くずも利用)と研究室で栽培した菌糸(キノコ類のいわゆる根の部分)だ。麻くずをランプシェードの型に敷き詰め、麻に菌糸を成長させて固める。菌糸は極少量の水で、数日から数週間で根を張りめぐらす。エネルギーを加えて成長を促す必要はない。2023年は、約1200坪分(サッカーグラウンドおよそ1面分)の麻を使ったという。10年以上前に作ったランプシェードは今でも非常に良いコンディションだといい、耐久性も高い。

重厚感と発色が面白くて足を止めたのは、再生繊維「バイフォー」の展示だ。繊維廃棄物95%と結合材5%で出来た新しい布で、150回もリサイクルできる。手洗いが可能だ。ラップトップケースやノートのカバー、壁掛けやカーペットなど、オリジナル製品はウェッブサイトで販売している。綿の布を買うように、誰もが気軽にサステナブルな布を買うようになってほしいとの思いで開発に至った。材料の色を生かし、異なる厚さを提供できるため、デザイナーやクリエイターにこの布をぜひ試してみてほしいという。

デザインの面でも素材の面でも訪問者を飽きさせることがないロンドン・デザイン・フェスティバルは、一見の価値あり。多くの国で、モノづくりにおいて持続可能性を考えることが“定番”になる日は近いはず。筆者も「マテリアル・マターズで見たようなプロダクツに囲まれて暮らすようになるかも」と想像が膨らんだ。


London Design Festival(LDF)

2025年は9月13~21日に開催予定。

LDFの1イベントとして開催される Material Matters
 
訪問前の登録が必要。ビジネス目的の場合は無料、一般は入場料15ポンド。


All pictures at the Material Matters fair taken by Satomi Iwasawa
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岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/