全14回にわたるトークも開催されるインタラクティブな展覧会『NOTO NEXT』が、「グッドデザイン丸の内」にて6月26日(水)まで開催中。

「みんなは今、能登よりもガザに詳しいんじゃないか」────。

2024年元旦に起こった能登半島震災後、瓦礫と雪がミスマッチだった2月の輪島で抱いたこの思いに、自分でぞっとした。この気持ちは、5月に再訪したときにも同じままだったどころか、むしろ強くなっていた。どんどん能登に関する報道が少なくなるなか、なぜ復興は遅々として進まないのか。そもそも元々少子高齢化が進んでいた地域で「復興」とは何を指すのか。そして、なぜ私たちはいつまでたっても「他人事」としてしか被災地を考えられないのか────。

当たり前だが、答えはすぐに出ない。だからこそ苦しい。しかし考えて動き続け、答えを創ることはできると気づかせてくれる場が、6月26日まで丸の内で開催される『NOTO NEXT』展だ。

2024年2月中旬の輪島。平安時代に起源をもつ朝市があった場所。地震に伴う大規模火災で、消失面積は約4万9千平方メートルにのぼる。

上の写真から3ヶ月後、2024年5月中旬の輪島朝市があった場所。地面に散らばっていた破片や私物などは片付けられていた。6月より建物の所有者の同意を得なくても、公費解体が可能に。

震災から5ヶ月がたった今も、電柱がいたるところで倒れている。1分間で約4mも海底が隆起したと言われる地震の影響で、道路が割れていたり、波打っている場所も多い。

本展に貴重なコレクションを提供し、トークにも参加している輪島塗の塗師屋、高洲堂さんも事務所が倒壊。中に保管されていた大切な輪島塗の作品を救出してくれたのは、広島のNPO団体だったという。

「自分ごと」にするために。全14回のトークでは必ず能登、もしくは石川県の方が参加

この展覧会がユニークな点は、全部でなんと14回も開催されるトークだろう。「現地の声をないがしろにしたくない」という制作チームの思いから、毎回必ず能登や石川県の方々が参加し、生の声を届けてくれる。

しかもそのテーマは、実に多種多様。本展はグッドデザイン賞を手がける日本デザイン振興会の主催のため、デザイン関連が多いかと思いきや、観光産業に伝統工芸、建築を含めた住環境、医療、アート、社会的ムーブメントに、震災地での報道や教育機関のあり方まで、多岐にわたるテーマが設けられている。しかもその道のプロたちだけでなく、国内外の学生も参加し、意見を交換しあっている姿はとびきり新鮮だ。これらのトーク内容はYouTubeや紙媒体でまとめられ、集約された意見は行政機関などに届けられるという。

すべてのトーク内容は、グラフィックレコーディングで記録され会場にパネル展示される。

「TALK #2 復興をデザインする」の回では、石川県副知事(当時)の西垣淳子さん、日本デザイン振興会常務理事の矢島進二さん、進行役のアンドレア・ポンピリオさんが参加。石川県が提唱する「創造的復興プラン」についても議論。

会場には輪島塗の塗師屋、高洲堂の貴重なコレクションや、珠洲焼の作品も展示。漆人として知られる伝説的作家の角偉三郎から、人間国宝の小森邦衞の逸品(写真)まで間近で見ることができる。

最後に、カルト的人気を誇る輪島塗職人、角偉三郎が残したという本展にぴったりの言葉をご紹介しよう。さまざまな葛藤があったという制作チームを励まし、会場にも掲げられたこの言葉を胸に、能登、ひいては日本の地方創生の未来について一緒に考えてみたい。

いろんな考えがあって、いろんな世界が生まれる。
だからこそ面白い。私も、また何か見えてくるだろう。
情熱の赴くままに、何かを印すだろう。
この熱い気持ちが好きだ。
──── 角 偉三郎

今週末にも多彩なトークが多数開催! 未来へのヒントをともに考えたい。

6月22日(土)
11:30-12:30

【TALK #10 復興の環境デザイン】
震災から約半年。災害関連死を防ぐ医療と住環境の最前線

能登では今、「災害関連死」に対する危機感が高まっている。震災直後から被災地で活動してきた輪島の医師とともに、現状と課題を紐解く。
スピーカー:
小浦友行さん(輪島市在住医師「ごちゃまるクリニック」代表)
齋藤精一さん(株式会社アブストラクトエンジン代表取締役、Tokyo Creative Salon 2024統括クリエイティブディレクター、2024年度グッドデザイン賞審査委員長)

14:30-15:30
【TALK #11 震災後の能登を’伝える’】
今なにをなぜ、発信するのか。能登と工芸を見つめる2人の視点

震災において「伝える」という編集者の役割と可能性とは? 13年能登を様々な切り口で見続けてきた編集長が先月発刊した最新号をもとに、今後を考える。
スピーカー:
経塚幸夫さん(季刊「能登」編集長)
橋本麻里さん(江ノ浦測候所甘橘山美術館開設準備室長。金沢工業大学客員教授)
司会|鈴木啓太さん(デザイナー/本展発起人&ディレクター/PRODUCT DESIGN CENTER代表)

17:00-18:00
【TALK #12 社会問題とデザイン】
ローカルパワーの活かし方。奥能登を前進させるムーブメント

グッドデザイン賞でも審査委員の心を打った「ごちゃまぜ」の精神は震災後の能登でどう発揮されているのか、現地でのムーブメントを紹介。地域の繋がりや子供たちへの支援など、未来への展望をご共有頂く。
スピーカー:
寺田誠さん(社会福祉法人「佛子園」が手がける「輪島カブーレ」施設長)
矢島進二さん(日本デザイン振興会常務理事)
司会|鈴木啓太さん(デザイナー/本展発起人&ディレクター/PRODUCT DESIGN CENTER代表)

18:30-19:30
【TALK #13 石川県発・次のクラフト】
何を守り何を変える? 現地だからこそ創れる職人とデザイナーのコラボ

デジタルや食など、様々な視点から描くクラフトのBuild Back Better(よりよい復興)とは? 金沢から世界へ発信する未来にフォーカス。
上町達也さん(secca inc.代表、デザイナー)
林信之さん(フリーランス ITジャーナリスト兼コンサルタント)
司会|鈴木啓太(デザイナー/本展ディレクター/PRODUCT DESIGN CENTER代表)

6月23日(日)
14:30-15:30
【TALK #14 アートと復興】
思い出も苦悩も記憶する。人を繋げる芸術の可能性

石川県を代表する写真家が、レンズを通して見つめる能登の姿とは? 人々の記憶を記録し残す、復興におけるアートの役割を模索する。
スピーカー:
織作峰子さん(写真家・石川県出身/大阪芸術大学写真学科教授)
鈴木啓太さん(デザイナー/本展発起人&ディレクター/PRODUCT DESIGN CENTER代表)


NOTO NEXT -みんなのアイデア-

会期:2024年6月6日(木)~26日(水) 11:00~19:00
会場:GOOD DESIGN Marunouchi (東京都千代田区丸の内3-4-1新国際ビル1F)
入場料:無料
公式HP: https://www.notonext.jp/

主催:公益財団法人日本デザイン振興会
共催:株式会社プロダクトデザインセンター
本展発起人・ディレクター:鈴木啓太(株式会社プロダクトデザインセンター)
協力:株式会社博展、高洲堂、株式会社グラグリッド