パリコレとして知られるパリファッションウィークの2024年秋冬コレクション公式カレンダーに登場した唯一のアフリカブランドとして注目を集めたのが、南アフリカ発のファッションブランド、マコサ・アフリカ(Maxhosa Africa)だ。本記事では、パリコレに登場した全ルックの写真とともに、ブランドの魅力に迫る。
『私の確信(My Conviction)』でパリコレデビュー
マコサ・アフリカは、南アフリカ出身のラデュマ・ノゴロ(Laduma Ngxokolo)が2011年に立ち上げたブランド。多民族国家南アフリカにおける主要民族の一つであるバントゥー系のコサ民族(Xhosa)にルーツを持つノゴロは、コサの伝統的なビーズ装飾にインスパイアされたメンズのニットウェアを発表。その特徴的な幾何学模様のニットが彼のシグネチャーデザインとして広まり、以後、マコサ・アフリカは世界的に知られるアフリカを代表するブランドとしての地位を築き上げてきた。
厳しい審査過程を経て、わずか100程度のブランドしか参加することができない、パリファッションウィークのウィメンズコレクションの公式カレンダーに、マコサ・アフリカが登場したということは、同ブランドだけでなくアフリカファッション業界にとっても非常に重要なマイルストーンである。公式カレンダーの一部としてマコサ・アフリカがファッションショーを開催するということは、文字通り、ブランドがディオールやエルメス、シャネルと「肩を並べる」グローバルブランドとして成長したということを意味する。他のラグジュアリーブランドの歴史を考えると、アフリカのブランドであるということ以前に、創業から10年ほどで、マコサ・アフリカがこの地位を達成したということ自体が快挙であると言える。
今回、彼が発表したコレクションのタイトルは『私の確信(My Conviction)』だ。そこには、彼がブランドを創業した当時からの強い想いが込められている。「デザイン・プロフェッショナルとしての私の究極の目標は、アフリカ大陸の文化、偉大さ、美しさを紹介することを目的とした、ラグジュアリーの権威を築き上げ、同時にアフリカのファッション業界の成長にとって重要な役割を果たすということでした」。彼は、プレス発表でこのように語っている。
コサ族のビーズ装飾を活用するというシンプルな一つのアイディアから始まったブランドが、いまや300人を正社員として採用し、製造から販売までを一気通貫で手がける企業へと成長した。筆者は2018年に南アフリカの現地でノゴロを取材したことがある。その当時、すでにブランドは世界的に知られ初めており、自社工場を活用して更なるオペレーションの拡大を図っているというタイミングであった。その後、新型コロナウィルスのパンデミックの打撃も受けたことも予測される中、マコサ・アフリカが継続的にマイルストーンを達成している背景には、まさにノゴロの確信があるのだ。
3月3日、在フランス南アフリカ大使公邸で開催されたショーには700名あまりが参加し、大盛況だったようだ。WWDは「パリの公式カレンダーに掲載された初のプレゼンテーションで、(ノゴロは)世界のファッション界にアフリカ大陸を代表して旗を立てた」と伝えた上で、「ブランドはアフリカのディアスポラだけのものではない。アフリカ大陸だけでなく世界に向けたものだ」というノゴロの想いがしっかりと伝わるショーであったと評価した。
南アフリカの文化を継承する「コンテンポラリーブランド」
マコサ・アフリカのコアバリューは、文化の継承である。もともと、ノゴロがオリジナルのニットウェアを作ろうとしたのも、コサ民族のイニシエーション(成人儀礼)後に着用するための特別な装いをアップデートしたいと考えたことがきっかけとなっている。今回、パリコレで発表されたルックは、過去に発表されたコレクションを参照するようなスタイルも取り入れながら、コサ民族のビーズ装飾、ンデベレ民族の幾何学的な壁画に通じるようなアーティスティックなビジュアル表現、南アフリカに囲まれた内陸国であるレソト王国に伝わる、バソト・ブランケット(Bathoto blanket)を参照したルックなど、様々な文化記号が用いられた。全てのルックにおいて共通するのは、文化的なユニークさとコンテンポラリーアート的な新鮮さが融合しているという点である。これは、マコサ・アフリカが国内外のファンを惹きつける理由の一つだろう。
コレクションに見られる、対外的にもわかりやすいビジュアル表現だけでなく、マコサ・アフリカは南アフリカで国内のコミュニティ構築にも投資している。3月に開催されたパリコレと同月の下旬には、ファッションと音楽を融合させたフェスイベント、「MXS Kulture Festival 2024」がヨハネスブルグ郊外にて開催。9組のアーティストがパフォーマンスに参加し、当日はパリコレデビューしたばかりの最新秋冬コレクションもお披露目された。ピクニックスタイルのパーティには、参加者の多くはマコサ・アフリカの服で参加しており、ブランドの地元顧客が強力なコミュニティを形成している様子が伺えた。フェスの参加チケットは1800ランド(約1万5000円)。南アフリカにおけるイベントのチケット価格として決して安いとは言えないが、マコサ・アフリカのニットドレスが19,500ランド(約16万円)で販売されていることを考えると、ブランドの顧客からしてみればむしろこの価格設定は安いのかもしれない。
2018年にノゴロにインタビューをした時には、彼はブランドそのものに固執することはせず、伝統文化を現代の文脈にどのように伝えていくかということに関心を持っていると語っていた。自分の一部として身につけることができるファッションは、伝統文化をコンテンポラリーなものとしてアップデートするのには最適なツールの一つであると言える。ノゴロにとっては、MXS Kulture Festivalのようなイベントも、伝統文化を継承し、現代の文脈により沿った発信をするための、また一つのツールにすぎないのだろう。マコサ・アフリカとノゴロが実現するであろう、今後のさらなる飛躍に期待したい。
—
Photo by Maki Nakata(一部提供)
—
Maki Nakata
Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383