シンガポールを拠点に活動するStacy Tanさんによるテキスタイルブランド『YABAI YABAI』。ブランド名を聞いて日本語の「やばい、やばい?」と一瞬思うけれど、彼女の表現する世界観にぴったりな言葉だと納得する。

彼女が描いたポップでカラフルなモチーフのテキスタイルは、彼女自身の手によってシャツやバッグ、魚の形をしたポーチなど日常を彩るプロダクトに。その明るくハッピーで時にやんちゃな世界観は、身に着けたり眺めたりするたびにポジティブなパワーを貰う。

シンガポール現地のアーティストや、日本の波佐見焼きのメーカーとのコラボレーションなど、テキスタイルの枠を超えた活動も目覚ましい。Stacyさんは不思議なブランド名を含め、軽やかに『YABAI YABAI』の活動を楽しんでいる。

私はシンガポールのMountbatten地区にある彼女のスタジオを訪ね、彼女の活動について、シンガポールの現在のアートシーンやデザインの環境について話を伺った。

Stacyさんの経歴について教えてもらえますか?

シンガポールで生まれ育って、16歳からデザインの専門学校でグラフィックと写真を学び、その後は現地の広告会社や出版会社で4年間働きました。その後、テキスタイルの素材のことを学びたくて東京に来ました。1年間日本語学校に通い、それから文化服装学院のファッションテキスタイル科に通いました。卒業してからは日本のテキスタイルメーカーで2年間働き、その後独立して2019年に『YABAI YABAI』を始めました。

『YABAI YABAI』をスタートしたきっかけは?

もともと『YABAI YABAI』という名前は文化服装学院に通っている頃から、自分の作品の名前として付けていました。シンガポールのテキスタイルは、ほとんどが輸入品なんです。テキスタイルの仕事はファッションブランドのような仕事しか無いので、自分のテキスタイルブランドをやりたかった。それが『YABAI YABAI』を始めた大きな理由です。

生地に興味を持ったのはなぜだったんでしょうか?

物作りにずっと興味があったのですが、広告会社で働いていた頃は紙の制作しかしていなくて、もう少し立体的なものを作りたいと思っていました。ですが、プロダクトデザインなどちゃんとした立体物は自分には向いていないと思って、トートバッグを作ったりするほうが向いてるなと思い生地を選びました。今は専門的な知識が無くても外注で物を作れる時代ですが、もっと素材について勉強したら、意味がある機能的に良い物を作れるかなと思いテキスタイル科に入りました。

元々生地は好きでしたか?

そうですね。昔からの仲良い友達から「あなたが生地を選んだのはすごくぴったりだ」と言われます。買い物に一緒に行く度に、私がいつも生地を触っていたからです。(笑) 変な癖で。モチーフとしてはミナペルホネンやSOU SOU、marimekkoは好きでした。モチーフがあれば何でも作れるなと思って、それがすごく面白く感じて、私もやってみたいと思いました。

Stacyさんのテキスタイルに日本のモチーフが多くあるのは、日本にいたからでしょうか?

私の描くモチーフは、自分のストーリーや思い入れが多く入っていて、シンガポールのみんなが知っているモチーフもあります。例えば今回のコレクションのネギのストーリーは、日本に留学していた頃、簡単に料理できる素材だからネギをよく使っていました。ネギのおかげでいろんな料理が作れるようになった経験から、ネギに感謝するモチーフが生まれました。

誰もが簡単に理解できるようなモチーフが好きなので、日常的な物を選ぶことが多いかもしれません。だから日本にいた頃の面白いストーリーも柄として作りたいと思っていました。以前のコレクションでは、日本のコンビニエンスストアの柄を作りました。ちょうどコロナが流行している最中だったのですが、そのときシンガポールの友人たちはみんな日本に旅行したいとよく話していて、私も日本のコンビニが恋しいなぁと思って。

シンガポールの子達はみんな日本のコンビニが好きですよね?みんなファミチキが好きだって聞きました(笑)

シンガポールのコンビニにはチキンが無いんです(笑)当時はみんな日本に旅行したくてコンビニの柄が大人気でした。みんなが「わかる〜、日本のコンビニ行きたい〜。」みたいな気持ちがあってすごく盛り上がりました。

日本に旅行するのが好きな人は多いのでしょうか?

はい、大好きです、みんな。しかもすごく詳しいです。

インスピレーションは何から得ていますか?

私はやっぱり、日常生活での少し面白いストーリーからインスピレーションを受けています。サラリーマンというキャラクターを以前作ったのですが、日本では相撲や芸者のモチーフなどがお土産として多いですよね。でも私が一番好きな日本のキャラクターはサラリーマンでした(笑)日本で日常的に一番見るのはサラリーマンだなと思って。モチーフをみて「わかるー!」「私も知ってる」とか、そういったリアクションをしてくれるのが好きです。

Stacyさんがこれからやっていきたいことはありますか?

自分のコレクションとしてはホームウェア、家で使える物をもっと作りたいと思っています。今まで作ったことのない物。例えばタオルとか、コップとか日常的に家で使える物。カーテンも!あとはテキスタイルとは真逆な業界のデザイナーとコラボレーションしたら面白いなと思っています。

もうひとつの私の夢は、テキスタイルや生地だけじゃなくて空間のデザインをすること。例えば、壁紙や家の階段などといったスペースのデザインをしてみたいです。テキスタイルの知識を使って、違う素材でできることを挑戦したいなと思っています。

最近、友達の紹介で壁画の仕事をしましたが、面白くてとても楽しかったです。みんなテキスタイルは生地だけだという概念があるけど、テキスタイルのモチーフを使って何でもデザインできるよっていうのを発信したいなと思っています。

とても楽しみです!Stacyさんのスタジオにショップスペースを作る予定だと以前聞きました。

はい。スタジオをシェアしている友人たちと、商品を販売できるショップスペースを作りたいと思っています。来年からは月に2回くらいのオープンスタジオのイベントも開催したくて。みんなが遊びに来れて、テキスタイルや私たちのスタジオの話をしたり、気軽にコーヒーを飲みながら楽しめるイベントをしたいと思っています。2024年2月頃のオープンを目指しています。

楽しそうですね!

誰でも来れますよ!

Stacyさんのスタジオがあるグッドマンアーツセンターについて聞かせてもらえますか? シンガポール政府が運営している施設ということですが。

アーティストヴィレッジみたいなところですね。ここはデザインできるアーティストもいるし、ダンスのアーティストや彫刻のアーティストもいて、幅広い分野のアーティストが入居しています。Weishや音楽のアーティストもいます。つい先日は若い人たちに向けた音楽フェスティバルも初めて行われて、観客もたくさん来ました。

居心地はどうですか?

仕事をしなくても、ここに来るのが好きかもしれない。スタジオに来るとゆっくり考える時間が作れるからここに来るのは好きです。

最初は一人でスタジオを借りたいと思っていたけれど、スタジオメイトがいると自分のアイデアを共感してもらえたり、「こっちのほうがいいんじゃない?」など提案してもらえることも多くあって、今ではそれがすごく必要になりました。思っていたアイデアよりも良いアイデアを作れるようなことも多かったので、ありがたいなと思っています。

入居しているアーティスト同士コラボレーションすることも多いですか?

今度、上階に入居しているダンサーのコスチュームを作ることになって!いま不思議なコスチュームを作っています。今後もう少しこういったコラボレーションは多くなると思います。

シンガポールのアートやデザインのシーンは今どのような感じか、教えてもらえますか?

コロナが終わった後にGen Zの若者のデザイナーが増え、アートマーケットでも20代のデザイナーがとても多いです。さらに若い18、19歳の子達も自分のブランドを作れるようになって。昔は有名なデザイナーでないとアートマーケットに参加できなかったけど、今は誰でも参加できるようになって面白いです。
自分たちでZineやブランドを作ったりして、DIYカルチャーがGen Zのおかげで盛り上がり、今のアートのシーンは面白くなりました。

音楽シーンも同じだと思っています。みんな以前よりも気軽にバンドを始めたりしている。シンガポールは誰でもアーティストになれる時代になったと思いました。

シンガポールのシーンを見ていると、みんな発信力も行動力もあって、物作りに関してもクオリティの高い物を作っている気がします。

そうかもしれないですね。みんなやる気がある。コロナの後に、みんな溜めてた「よし、やろう!」みたいなものが感じられます。毎週毎週アートイベントがあって。美術館や大きなモールでは今どこでも開催しています。

では、シーンは今すごく熱いということですね。最後にStacyさんにとって『YABAI YABAI』はどういった存在ですか?

自由な空間。自由にデザインする、物作りする。いろいろやってみても大丈夫なスペースです。


Photo by Misa Nakagaki

YABAI YABAI
Instagram: YABAI YABAI 〰️ Stacy Tan


中垣 美沙
フォトグラファー