筆者が、タイムアンドスタイル(Time & Style)という家具ブランドと出会ったのは欧州でのこと。オランダやドイツの展示会会場に展示される家具やインテリア商品を目にする都度、その美しさに惹かれていった。創業者の吉田龍太郎氏に何度か直接話を伺う機会があり、彼からも日本の木材や森林環境に対する想いやこだわり、旭川の自社工場のことを教えていただいた。今回、筆者の日本帰国のタイミングとタイムアンドスタイルのファクトリー見学のイベントの日程が幸運にも重なり、旭川工場見学の旅が実現した。

1世紀以上の歴史を持つ旭川家具

タイムアンドスタイルの自社工場があるのは北海道の旭川空港から車で10分ほどの距離にある東川町という場所。旭川市を中心とした東川町、東神楽町、当麻町一帯は、いまでは日本5大家具産地の一つに数えられる「家具の聖地」となり、旭川家具という総称で知られている。

旭川家具という産業が発展するきっかけとなったのが、1989年に旭川に鉄道が開通したことと、翌年に陸軍第七師団が旭川に移転したこと。貨車や客車を作る工場ができ、人口が増加し、本州から大量の大工や家具、建具職人が旭川に移住したという歴史があるそうだ。

そして、第二次世界大戦中の一時中断を経て、1949年には旭川家具工業協同組合の前身となる、旭川家具事業協同組合が発足。1955年には、旭川周辺の木工会社が集まり木工販売会「旭川木工祭り(現:あさひかわデザインウィーク)」が開催された。

現在の旭川家具工業協同組合は、旭川市、東川町、東神楽町、当麻町の家具メーカー41社が加盟し、共同展示場事業、共同購買事業、共同受注事業、共同物流事業の4事業を柱に活動する組織だ。同組合の説明によると、旭川家具には4つの強みがあるという。それらは、1)良質な木材に恵まれた自然環境、2)職人と先端機械が織りなす高い技術力、3)国際的に評価されるデザイン、そして4)木工インフラが整う「産地」としての総合力だ。

1つ目の恵まれた環境については、家具づくりにおいて北海道産材の使用比率を高め、木材輸送のエネルギーを削減すること、植樹によって北海道の森を持続的に循環させるといった、いわゆるサステナビリティにおける強み。2つ目の職人の技については、優れた職人が集まっていることも特徴的で、技能労働者の技能を競う世界大会である技能オリンピック国際大会にて、数々のメダリストを輩出している。また、3つ目のデザインに関しては、1990年から3年に一度、「IFDA(国際家具デザインコンペティション旭川)」を開催。世界中から公募したデザインをもとにした製品化にも取り組んでいる。4つ目の木工インフラについては、41社の多様なメーカーが集結するからこその強みだ。

旭川デザインウィークの文脈

  
旭川家具のデザインの強みをさらに裏付けるものが、旭川市が力を入れているデザインのストーリーだ。2015年には初めての「あさひかわデザインウィーク」が開催され、デザインという傘のもと旭川のものづくり産業や関連機関が集結する基盤ができた。そして旭川市は、2019年10月にはユネスコ創造都市ネットワークのデザイン分野で認定を受け、「デザイン創造都市」となった。

今年の6月17日から25日は「あさひかわデザインウィーク2023」が開催。デザインウィーク期間中の一つのイベントとして、旭川家具工業協同組合が主催したのが「Meet up Furniture Asahikawa 2023(以下、MFA)」という木製家具に特化した産地展だ。MFAは、デザインウィーク期間中の5日間開催。メイン会場は、旭川市内にある旭川デザインセンター。会場では30以上の出展者がブースを構えていたほか、旭川家具の変遷や実績を学ぶことができるスペースもあり、ちょっとしたミュージアム体験を味わうことができた。

また、メイン会場以外では、約20社がオープンファクトリーを実施。タイムアンドスタイル以外にも、1968年創業、旭川家具を代表するメーカーの一つであるカンディハウス(CondeHouse)から、2022年創業の木工クラフトメーカー、モッコウ(MOKKOU)など、多様なメーカーが参加した。筆者は旭川自体が東京からの日帰り訪問であったため、多くのファクトリーを回ることは時間が許さなかったが、今回の旭川訪問の主目的であったタイムアンドスタイルのオープンファクトリーイベントについて、以下紹介する。

タイムアンドスタイルの“オープン”ファクトリー

タイムアンドスタイルは、プレステージジャパンが運営する家具とインテリアの総合ブランド。プレステージジャパンは、代表取締役の吉田龍太郎が、1990年、ドイツのベルリンで創業した。彼は独日協会の文化研修事業に参加するため1985年に渡独していた。その後、本社を日本に移し、当時の家具ショップにはなかった、家具が生む魅力的な空間を提案するインテリアショップの展開を始めた。また、1999年の世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市」出展を皮切りに、海外展開も積極的に進めてきた。現在は、日本6か所、およびアムステルダムとミラノの2拠点にショールームを展開している。

今回、筆者が現地訪問した自社工場「Time & Style Factory」は、2008年に設立された。その最大の特徴は、「丸太の仕入れから製材、乾燥、木取り、木組み、研磨、仕上げに至るすべての工程を一貫して自社内で行う、日本唯一の家具工場として活動」しているという点だ。今回のファクトリーツアーは、まさにその工程のすべてに関して、順を追って知ることができるように設計されていた。

ファクトリーは、3つの建物から構成されており、入口は最終段階の仕上げ工程が行われる場所だ。筆者はオープンファクトリー初日の一番早い時間枠で参加したが、朝の時間帯だけでも数10名の参加者が、受付で列をなす場面もあり、参加者の高い期待度が伝わってきた。数名のグループに分かれ、ツアーが開始すると、まずは、最終工程の棟から3つの棟を通り抜けて、ファクトリーの一番奥の空き地に案内された。

空き地に到着すると、まずは積まれた丸太の存在感、そしてその背後に広がる平地、そして遠くに見えるうっすら雪が積もった山脈といった、いくつかのレイヤーを持った素材の魅力に吸い込まれる。タイムアンドスタイルの美しく仕上げられた繊細さを持った木工家具が、「木」からできているということは頭で分かってはいたが、どっしりとごつごつとした、何も加工されていないraw(生)の状態の丸太からできているということを改めて体感した。自然乾燥のための、ただ置かれている丸太をしっかりと眺める。その体験だけでも、旭川に来た甲斐があったと感じてしまった。

ファクトリーツアー全体は、雑誌の企画を読み眺めるというような体験と似ていた。工場の各所にはインスパイアされるような英語のメッセージが書かれたパネルが展示されている。また、今回の見学のために、要所要所にはグラフィカルな「数字」が立てかけられていて、その数字の解説が交えられながら、工場見学が進む。例えば、43という数字は木材が育った緯度を意味する。丸太は、北海道の北緯 43度〜45度に位置する、「針広混合林(広葉樹と針葉樹が共生する森林)」から自社調達したものだ。以前は、ほぼ輸入材に頼っていたとのことだが、現在は約4割の木材が国産だという。丸太の平均樹齢は92年。樹齢は、スタッフが目視で数えて測定するという。

仕入れた丸太は水分を多く含んでいるため、乾燥のプロセスがまず必要になる。生木の状態が100%だとすると、家具にするためには7%ぐらいまでの含水率にする必要がある。数年間の自然乾燥で15%の含水率まで落とすことできるが、最後の部分では人工乾燥が必要になってくる。一般的にはコントロールされた80℃前後の環境で人工強制乾燥が行われるが、タイムアンドスタイルでは、2018年より40℃の低温バイオマス乾燥機による人工乾燥というやり方を採用しているそうだ。より時間はかかるが、人工乾燥という技術がなかった古代のやり方に近い手法にこだわる。ちなみに、乾燥機を自社で持っている家具メーカーは、他にはないとのことだ。

丸太を仕入れ、乾燥させ、製材してという作業を自社で行うメリットは、品質管理やトレーサビリティの利点だけでなく、デザインの観点でも存在する。例えば、規格に沿った製材された木材だと、厚みが薄すぎたり、厚過ぎたりして、材料が無駄になってしまったり、デザインの可能性が狭まるということがあるそうだ。自社で製材できれば、規格とは関係なく自由なデザインができる。

加工のこだわりとしては、機械と手加工をうまく組み合わせるという点だ。同社はNC機という加工機械を導入し、手作業では難しい細かい加工をコンピューター制御によって実現している。また機械の導入は、安全面でのメリットも大きいという。一方、手加工に関しても、前出の技能五輪国際大会の日本代表となった職人など、高い技術を持ったスタッフが働いている。若者や女性も活躍している。2021年時点のデータによると、北海道で働く社員は20代がもっとも多く32%。続いて次にお多いのが60代で21%となっている。

環境に配慮した特徴的な取り組みある。例えば、工場内において製造過程で排出された木屑は吸い上げられ、圧縮機で固形燃料に生まれ変わる。北海道の氷点下の気候で作業する際、そのブリケットが薪ストーブの燃料になるという。また、家具の仕上げに関しても自然環境に配慮し、ビーズワックスや天然鉄水染めといったものを提案している。さらに、森林を破壊しないために植樹活動も行う。これまでに旭川家具工業協同組合とともに累計5万8千本以上の木を植えた実績がある。

圧縮機で固形燃料に生まれ変わる木屑

タイムアンドスタイルの魅力を改めて感じることができた工場見学だが、すべてのプロセスに関して非常にオープンな姿勢を持っていることにも、発見や驚きがあった。工場見学の参加者は、同業者も多いという。同業者に対しても自社の素材やプロセスへのこだわりをオープンにできるというのは、自分たちのやり方に自信を持っているからに他ならない。同時に、オープンになることで他社とともに輸入材に頼ってきた業界の課題を解決していこうという想いも伝わってきた。タイムアンドスタイルも、旭川家具も、あさひかわデザインウィークも、すべてオープンなプラットフォームであるからこそ、新しい技術革新やプロダクトを生み出し続けているのかもしれない。旭川のオープンさは、他の日本にはない未来の可能性を秘めている。


Photo by Maki Nakata(一部提供)
Photos courtesy Time & Style

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383