東京を拠点に活動する映像作家、takachromeの意欲作「Atrophied」が7月28日に公開された。NOWNESSの中で、とくにアジアの素晴らしい芸術と文化を紹介するグローバルな映画プラットフォーム「NOWNESS ASIA」でのて先行公開を経て、日本での発表を迎えた。
本映像は、“心の動きを観察、追体験する” をテーマに、演者の身体性に物語を委ね、記録した映像作品。非現実と錯覚するような空間の中で、生命の動きをひたすらに見つめていく実験的な取り組みだ。
Atrophied (2022) from takachrome on Vimeo.
人の内側にある感覚を観察する追体験
映像には「Atrophied(萎縮した)」というタイトルが付けられている。 しかし、その名とは対照的に、映像の中の盲目の登場人物たちは、人と出会い、開眼するような体験を経て、躍動的に動き出す。
では作家が示す「Atrophied」という概念はなんなのか。それは、人との出会いの中で生まれた心の動きと捉えられるかもしれない。人は一人では縮こまることはない。新しい誰かと会った時に、人の心は震え、それが故に萎縮をも生む。ともすれば、出逢いなどなかった方が良いようにも思う。しかし、それを乗り越え、人と心を通わせた時にこそ、カタルシスは生まれるのだ。
本映像は作家自身の瞑想経験、ひたすらに感覚を研ぎ澄まし観察する行為の追体験として、演者の身体性に物語を委ね記録した実験的な映像作品である。
時代の入り混じる世界観
この映像では、作家自身があえて描かれがちな東京を描かないことで、東京に住む現代人の感情をストレートに表したいと考えたという。人間の奥底にある部分、オリジナリティとひたすらに駆け抜けるように時間が過ぎ去る現代の同居がテーマ。各シーンにはそれぞれの時代テーマを設定し、OPRCTの開放的でありながら都会の風景も感じられる景色にスパイスを加える形で、プロップ・舞台芸術はHYOTAが手掛けている。楽曲は新進気鋭のOtomikaが担当。アンビエントと木琴をベースに秩序と狂いの混ざり合いを表現、カメラワークの多くは静かに遠くから見つめることで、音楽の存在感を引き出している。
全編16mmフィルム。
コンテンポラリーダンサーKaho Kogureを起用
今回の作品には全編16mmフィルムを使用している。現代で大量に生まれ消費される映像作品へのアンチテーゼとして、ワンカットワンカットを丁寧に捉えることで現場での緊張感を生み、より長いスパンで深みを生む作品を作りたいと考えた。人の目には映らない美しさ、デジタルカメラでは捉えられない瞬間をフィルムで描写することで、目には見えないけど 存在している何かを感じることに挑戦している。また、国内外で活躍するコンテンポラリーダンサーKaho Kogure を起用し、感情のうつろいの表現を拡大解釈した。カメラマンとの即興要素を汲み入れながら、繊細さとダイナミックさの両面の表現を行った。
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takachrome
takachromeは東京を拠点にする映像監督。近年はコペンハーゲン、パリなどを行き来しながら主にファッションブランドの映像を手掛けている。ジャーナリズム・ドキュメンタリーの手法をベースとしており、対象物を観察し、美しさや儚さを丁寧に描くことを得意としている。長編映画の制作を目標に現在準備中。
Website:takanobuwatanabe
Instagram: takachrome