ケープタウン郊外の街ステレンボッシュは、多くのワイナリーがあることで地元の人々や観光客に人気のある場所だ。そのワインランド地域の一角にある、あまり知られていない芸術スポットが、今回紹介するディラン・ルイス・スタジオと彫刻ガーデン(Dylan Lewis Studio and Sculpture Garden)だ。

雄大な山脈に囲まれた贅沢な庭

彫刻ガーデンは、ステレンボッシュと野生のレオパードが徘徊する山脈の境界に位置する。敷地面積は7ヘクタール。その空間に大小様々な60以上の彫刻作品が点在しており、訪問客は約4キロのルートを歩いて散策し、彫刻と景観をさまざまな角度から楽しむことができる。この散策ルートはルイス自身がガーデンを歩いてまわるルートだそうだ。

ルイスのスタジオもある彫刻ガーデンは私有地。一般の訪問客に公開されているが、事前予約制で、予約枠も限られている。そのため、他の訪問者に出会うことはほぼなく、貸切の状態でガーデンの景観と彫刻を楽しむことができる。

訪問予約の際、散策の所要時間は2時間ほどだと伝えられた。1時間程度で回ることも可能だが、時間に余裕を持って訪問を計画することが望ましい。敷地内でのピクニックはできないが、散策の前後、木々に囲まれたカフェスペースで休憩することができる。

南アフリカを代表する彫刻家の一人

1964年に南アフリカで生まれたルイスは、芸術一家の出身。父も彫刻家で、母と祖母は画家。2人の曽祖父はそれぞれ建築家とキャビネットメーカーだ。ルイスは、初期は画家として活動していたが、後に彫刻家に転身した。

彼の作品のインスピレーションは野生動物などの大自然である。とくにチーターなどの大型のネコ科動物の作品で知られている。ほかにも女性像やシャーマンのような男性像など人間をモチーフにしたものや、抽象的な作品もある。

作品は、抽象的なダイナミックな印象を与えつつ、同時に動物などのモチーフの詳細も捉えたものとなっている。彼の作品制作のプロセスは、粘土を使った造形づくりからスタートする。その後、シリコンゴムで型をつくり、次にロウで空洞の型をつくる。そこに銅を流し込む。彫刻ガーデンには、数メートルの高さがある大型の作品がいくつも展示されている。大型作品は圧倒的な魅力があるが、数10センチほどのサイズの小型彫刻も、見るものを惹きつける味わいがある。

ルイスは1993年に、現在のガーデンがある当時マルベリー農園であった場所に移住し、スタジオと銅の鋳造所を建設。1998年にはオランダのベルンハルト王配(HRH Prince Bernhard)が農園にスタジオを新設した。彼は過去20年、国内外で数々の展示を行い、活躍してきた。海外ではロンドン、パリ、シドニー、サンフランシスコなど各地での展覧会に出品。ロンドンでは何度も個展を開催してきた。ロンドンのクリスティー・オークション・ハウスが代表する、限られた現存アーティストの一人でもある。

西ケープタウン州ならではの魅力ある空間

ルイスは幼いころ、父とともにクルーガー国立公園を訪問して以来、野生動物と自然界に魅了されてきた。彼の彫刻ガーデンでは、生物多様性に溢れる西ケープタウンならではの大自然の景観とさまざまな植物に囲まれながら、動物をモチーフにした彫刻作品が楽しめる。ガーデン散策は、まるで野生動物を観察しているような体験だ。

彫刻ガーデンは自由にあちこち散策することも可能だが、緻密にデザインされたルートに沿って訪問するのがオススメだ。場所によっては道が狭くなっている場所もある。ルートに従って、さまざまな植物の間をくぐり抜けながら散策することで、自然とのつながりを感じつつ、アートを楽しむことができる。彫刻ガーデンは、ギャラリーとは違ったアートの楽しみ型ができる空間だ。

自然との感情的なつながりは、ルイスの作品および彫刻ガーデンに共通するテーマ。彼は過去のインタビューで、彼は手(作品)を通じて感情を表現すると説明している。彼の彫刻のダイナミックさと、自然との調和は、こうした彼の作品づくりの背景に由来しているのかもしれない。

ケープタウンから車で1時間ほどの場所にある、この彫刻ガーデン。ディラン・ルイス彫刻ガーデンは、ワイナリー訪問とは少し違ったかたちで、南アフリカの豊かな自然と文化に触れることができるオススメのスポットだ。


Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383