アーティスト・⼤⽵彩⼦の個展「WARP TRIP」が、東京都港区のAkio Nagasawa Gallery Aoyamaにて開催中だ。(会期は2022年4月23日まで)。
大竹彩子は、2016年にロンドン芸術⼤学を卒業後、東京を拠点に絵画やコラージュ、写真、壁画制作などさまざまな技法を駆使しながら独⾃の表現を続け、精⼒的に活動を⾏なっている。本展では、これまでアクリル画を制作していた⼤⽵にとって初めての油彩画となるキャンバス作品をはじめ、初のシルクスクリーン作品や新作写真作品を発表。また、本展開催にあわせて新刊作品集も刊⾏される。
技法の枠に捉われず色彩豊かに表現される大竹の作品は、彼女のユニークな視点が垣間見れるポップでシュールな世界観が魅力だ。展示が始まったばかりのある晴れた日に、今回の展示について、またこれまでの創作活動やご自身について、話を聞くことができた。
本個展「WARP TRIP」では、油彩画のキャンバス作品、シルクスクリーン作品を初めて発表されていますね。彩子さんにとって、新たな技法での表現はどんな変化がありましたか?
今回の展示では、写真作品に加えて油彩画とシルクスクリーンの作品を初めて発表しています。油彩画はアクリル画と比べて粘度や匂い、乾くスピードも違うので慣れるまで時間が必要でしたが、そういったことも含めて面白い画材だと思いました。色の強さはあまり変わらなかったですが、油彩画特有の優しさは感じました。
シルクスクリーンのほうは、ロンドン留学時代にグラフィックデザイン科での課題で刷ったことはありましたが、作品としてここまで大きいものを作ったことはなかったのでとても良い経験でした。どちらの技法も奥が深く、もっと挑戦してみたいと思っています。
新作の写真作品について教えてください。
卒業制作で作ったZINE(写真集)をきっかけに、見開きページの写真の併置に注目し、これまで2枚1組の写真作品を発表してきました。今回の展示は、左右で海外と日本の写真を組み合わせています。
時差のある海外と日本、そしてパンデミックで移動が簡単にできない状況で、物理的にも精神的にもすごく遠く感じましたが、作品をつくる中で、2つの異なる場所・異なる時間が反応し合い溶け合う瞬間に、今までとまた違った希望を感じることができた気がします。馴染みのある場所もあるかもしれないので、タイトルと一緒に観ていただくと面白いかもしれないです。
展示作品全体に共通している鮮やかな色彩が印象的です。写真の作品は、海外と日本という全く別の場所なのに色や形にどこか共通点があるように感じました。
組み合わせ次第で印象がすごく変わるので、展示空間を頭に浮かべて色のバランスを考えます。いつも展覧会に向けてZINEを1冊まとめてきていますが、色や形の組み合わせだけではなく、物語が思い浮かぶような併置を大切にしながら制作しています。
彩子さんご自身について教えてください。どんな子供時代を過ごしましたか?
幼少期から高校までは、愛媛県宇和島市で過ごしました。周りには山や海など自然がたくさんある場所なのですが、思い返すと、子供の頃からインドア派だったと思います。家でゲームをしたり、本を読んだり、映画を観たりという記憶のほうが、自然のなかで遊ぶことより多かったと思います。当時は全然意識していなかったですが、その頃から好きだった映像や文章は、いまの表現に繋がっているのかなと、ふと思ったりもします。
あとは、ピアノやスポーツなど、色々な事に挑戦させてもらいました。喘息を持っていたので身体を強くするためにやっていた水泳や剣道も、今の忍耐力に繋がるところがあるかもしれません。高校を卒業してから上京し、4年制の大学卒業後、1年間地元の宇和島で過ごして、ロンドンの大学(ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ)に行きました。
ロンドンに行ったきっかけは? アーティストとしての活動をどのように始めたのでしょうか。
日本の大学2年生のときに夏のショートコースでロンドンへ行き、ここに住みたい!という気持ちが強くなりました。もともと何かを作ったり描くことは好きでしたが、「作品をつくる」という意識はなく、ただただ好きなことをやっているだけという感じでした。ロンドンでの授業や課題で自分の作品を見せたり、人の作ったものをみて感じた感覚は、もっとつくりたい、見てほしいという気持ちを強めた気がします。アーティストになるなんて思っていなかったです。ロンドンに行ってからも、日本に帰った方がいいんじゃないかという葛藤と戦いながら、1年ずつ滞在を延ばしていって……5年目で帰ってきました。
彩子さんは、ドローイング、ペインディング、写真、コラージュなどさまざまな技法で表現を続けられていますが、作風のスタイルはどのように生まれたのでしょうか。ロンドン留学では、どんなことを学び、制作をしていましたか?
専攻したのはグラフィックデザイン科でした。その中で4つのコース(映像、広告、イラストレーション、グラフィックデザイン)に分かれていて、はじめはグラフィックデザインで学んでいましたが、手を動かして描きたいという気持ちが強くなり、途中でイラストレーションのほうに移りました。
卒業制作のメインの作品は、今の自分の作風にも繋がっていると思うのですが、自分のアンテナに反応し集めたイメージを小さな布に描いて、それらを切り開いたTシャツの裏面に一つひとつ縫い付けたコラージュ作品です。他に「掌の小説(川端康成)」を題材に挿絵を描いたり、撮り溜めていた写真を作品にしたり、いくつかの作品を壁にレイアウトして展示しました。
ロンドンの大学を卒業してすぐに、ロンドンの美容院でスペースを借りて卒業制作で展示した作品を初めて学校外の人たちに観てもらう機会をいただきました。そのときの展示タイトルは、“EXUVIA” (抜け殻)にしました。自分の制作意欲を刺激するイメージを蒐集したものを一度自分の中に吸収し、大事な部分を抽出し組み合わせながら外に生み出す、という感覚を表現しました。
その頃から人物の瞳は描いていませんでしたが、生身の人間ではなく、印刷物を見て描いていたので、平面で見えている外側をなぞっている感覚があったんだと思います。
とても可愛いです。素敵な作品ですね。手書きが良いと思ったのはなぜですか?
最初はPCを使うのが苦手だったということも一つの理由です。
鉛筆で描いたりもよくしていたんですけど、鉛筆の擦れ感だったりそのまま軌跡が残っていく感じのほうが、デジタルのクリーンな感じより好きだったんだと思います。今もそれはあります。どんどんデジタルツールが発展してきていますが、ツルツルした表面より、やはり実際に目でみて感じる原画の強さは信じています。
描き続けるモチーフや、続けていることはありますか?
“女性”は私にとって大切なモチーフの一つです。希望や願いを女性像に込めて描いています。本格的にキャンバス画を描き始めたのは日本に帰ってきてからなのですが、ロンドンでのデッサンの授業はとても印象に残っていて、その時から、女性特有の丸みを帯びた身体を描くことは面白いなと思っていました。また、父から以前、昔の貴重なアダルト雑誌を譲り受けました。すごく嬉しくて描きたい欲が増しました。写真を撮ることもずっと続けていますし、いろいろなことに対して好奇心を持ち続けていたいと思います。
彩子さんにとってアイディアやインスピレーションの源は、日常のどんなところから得ているのでしょうか? 作品へ繋がる視点や感覚について教えてください。
ZINEを15冊まとめてきてなんとなく自分の好きなものがわかってきたような気がします。自然よりは人工物だったり、新品のモノよりは時間が流れたモノに反応している気がします。故意に並べたものではなく、並んでしまった組み合わせに惹き込まれることが多いです。
もともとグラフィックに興味を持ったのは、小学生くらいの頃に知ったサイケデリックポスターやタイポグラフィーがきっかけです。サイケデリックな横に繋がる文字を真似して描いたりしていました。蒐集している印刷物やステッカーなどで壁を埋めたり、自分の空間をレイアウトすることは昔から好きです。
作品制作をしていない時の、好きな過ごし方は?
本を読んだり映画を観ることが好きです。最近あまりできていないので、読みたい本がどんどん溜まってきています。コロナ禍で人に会う機会が少なくなって、そろそろ対話するリハビリが必要だと思っています(笑)。人に会ったり、旅にも早くいきたいですね。
彩子さんが作品を通して伝えたいこと、これからの展望について教えてください。
コロナ禍に入ってから特に感じることなのですが、色の持つ力──自分でも写真を撮っていて思うのですが、色を見ると元気になりますし、作品を観る方々にも同じ気持ちを共有してもらえたら嬉しいです。
TVから聞こえてくるニュースだけじゃなくて、一人ひとり日常でしんどくなることってあると思うんです。息抜きがてら立ち寄って色を浴びて帰っていただけたらいいなって思います。
今はまだ簡単な状況ではないですが、スマホやPCではなくやっぱり生で作品を感じていただけるような機会を続けて行きたいなと思います。
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Photo courtesy:AKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMA
Portrait:Yusuke Abe(YARD)
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《作家ステートメント》
5秒前なのか5億年前なのか
いつかの私に静かに刻み込まれる記憶。
⼀時⽬を瞑り、時空のずれへと深く潜り込んでみる。
どこまでも⾃由だ。
夜明けに鳴く鳩の声で、⽗に⼿をふり⾒送る新宿のベランダへ。
瞼の裏を温かく染める太陽が、宇和島の縁側での昼寝へ。
印刷物のインクの匂いは、読み漁ったロンドンの図書館へ。
束の間の記憶の旅が体奥深くで彩られていく。
初めて油絵を描いたのは⼩学⽣の頃だった。
⽗と妹とゴッホのひまわりとマティスの⾦⿂。
テレピン油の分⼦が遠い平和な夏の記憶を刺激する。
どこまでも⾃由でありたい。
⼤⽵彩⼦
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大竹彩子「WARP TRIP」
会期 開催中〜2022年4月23日(土)まで
会場 AKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMA
住所 東京都港区南青山5-12-3 Noirビル2F
電話 03-6427-9611
開館時間 11:00~19:00(13:00〜14:00休廊)
休館日 日、月、火、水、祝
観覧料 無料
アクセス 地下鉄表参道駅B1出口徒歩5分
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⼤⽵彩⼦ | SAIKO OTAKE
1988年愛媛県⽣まれ
2016年ロンドン芸術⼤学セントラル・セント・マーチンズ卒業 主な個展に「EXUVIA」(2016年、ロンドン/シンガポール)、「KINMEGINME」 (2018年、東京)、「COSMOSDISCO」(2019年、東京)、「GALAGALA」(2020年、 東京)、「RETINAPALETTE」(2021年、東京)など多数。2022年清⾥フォトアートミュージアムヤング・ポートフォリオ展入選。
オフィシャルサイト:www.saikootake.com
Instagram:SAIKO OTAKE