3月31日、2020年ドバイ万博が6ヶ月間の会期をもって閉幕した。3月中旬、ドバイ万博の来場者数は2000万人に達したとのことだ。この数字は、パンデミック以前(2019年)のロンドンへの年間観光客数(2100万人)に匹敵する数字だ。筆者が訪問した3月中旬、ドバイ万博会場は週末と平日夕方以降を中心に多くの訪問者で賑わいを見せていた。本記事では、ドバイならではともいえる迫力ある万博会場のハイライトをお伝えする。

万博会場の心臓、アル・ワスル・プラザ

メトロの駅から直結しているゲートを潜り抜けると、まず目に飛び込んでくるのが巨大なドームがあるアル・ワスル・プラザ(Al Wasl Plaza)だ。ワスルとは、アラビア語でつながりを意味する単語で、この広場は今回の万博のテーマである「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」を象徴的にあらわしている場所でもある。

ドームの設計は、米国シカゴに拠点を持つ建築事務所エイドリアンスミス+ゴードンギルアーキテクチャ(AS + GG)が手がけた。その高さは67.5メートル、幅は130メートル。ドーム内の体積はオリンピックのプール約300個分に相当する。ドームを覆う素材は、日中はドバイの強い日差しを遮る役割を果たし、日暮れ後は、世界最大級の360度プロジェクション・マッピングの演出が繰り広げられるスクリーンとなる。

アル・ワスル・プラザでは日中もイベントが開催されているが、見所はやはり夜のプロジェクション・マッピングの演出だ。日にいくつもの短いショーが展開されるので、あまりスケジュールを気にしなくても、さまざまなショーを気軽に楽しむことができる。スクリーンに投影された映像はドームの外側からも眺めることができるが、ショーの体験は断然ドームの内側からの鑑賞するに限る。視覚だけでなく、ダイナミックなサウンドもその体験の重要な要素の一つだ。ドーム内の音響は屋外とは思えないほどの迫力とクオリティだ。ドームの内側には寝そべって鑑賞できるようにデザインされた場所も設けられている。

Al Wasl Plaza

開催国、アラブ首長国連邦のパビリオン

連日賑わいを見せる万博会場。各国のパビリオンには、大小問わずそれぞれの魅力があるが、とくにその建築表現が圧倒的な大型パビリオンは数時間待ちの行列ができるほどの人気だ。万博のアプリでは、事前に予約することで並ばずに入場できる仕組みであるファスト・トラックのサービスも利用できるが、もっとも人気のパビリオンはすでにその枠もすべて埋まっている状況であった。

もっとも人気のあるパビリオンの一つが、開催国であるアラブ首長国連邦(UAE)のものだ。平日の朝、オープン時間の午前10時の時点ですでに約1時間待ちの列ができていた。週末などのピーク時は3時間待ちとのことだ。UAEパビリオンの建築は、スペインの建築家サンティアーゴ・カラトラバ(Santiago Calatrava)が率いる事務所が手がけたもので、開閉可能な28の翼を持つ、ダイナミックな建築。外側も内側も白が基調となっている建築は、圧倒的な存在感と、軽さ・開放感が両立されたものだ。

パビリオンの内部は、まず砂漠を再現したような空間に迎え入れられ、約50年前は何もない砂漠だったドバイの急成長の歴史を辿るようなコンテンツが展開。自国の歴史と発展を伝えるコンテンツは、万博パビリオンの王道だ。コンテンツで他国のパビリオンで差別化することは難しいからこそ、建築のダイナミックさが人々を魅了しているようだ。

アラブ首長国連邦(UAE)のパビリオンのコンテンツ

万博を通してみる国際情勢

192ヶ国を紹介するパビリオンが参加する万博。万博会場内、各国パビリオンの配置は、地域別ではなく、3つの万博テーマに沿って、ある程度ランダムな形で配置されている。だからこそ、あまり知らない国や小国のパビリオンとの出会いが可能となる。

また、パビリオン訪問は、旅の疑似体験や文化体験を得るだけでなく、国際情勢を考えるきっかけも与えてくれるものだ。たとえば、経済破綻状態にあるベネズエラは、残念ながらブースからもその資金不足が見て取れるものであった。一方、G7すべての国を含む55ヶ国が国家として承認していないが、UAEは承認しているパレスチナがパビリオンを展開していたことが興味深いものがあった。会場内にはイスラエルのパビリオンもあったが、この2つのパビリオンは会場内でかなり離れた場所に位置していた。

ロシアとウクライナの戦争が続く中、この2つのパビリオンの存在は、やはり無視することはできなかった。ロシアの大型パビリオンは、平日夕方や週末は行列ができて混雑していたが、とくにプロテスト運動などは起こっていなかった。わざわざ万博を訪れるようなアクティビストはいないのかもしれないが、少し意外な感覚もあった。しかし、ロシアの一般の人々の立場を考えると、ロシアを全面的にボイコットすることは、決して正しいことだとも言えない。その意味では、ロシアのパビリオンが賑わいも見せていたことは、ある意味好ましくも思えた。

ロシアのパビリオン

一方、ウクライナのパビリオン内は、エモーショナルな雰囲気が漂っていた。会場内は、来場者が残したポストイットのメッセージで埋め尽くされていた。筆者が訪問した当時もポストイットのメッセージを残す活動は続いていたが、会場内の多くの壁はすでに埋め尽くされている状態だ。各国の人々がウクライナを支援するメッセージや、平和のメッセージを書き残していた。そこには、ロシア人からのメッセージも含まれていた。

ウクライナのパビリオン内 会場には平和への願いやウクライナの人々を支援するメッセージで埋め尽くされていた

多様性のドバイ、次なる万博の見本に

地元住人はその人口の約1割程度で、残りはさまざまな国からの外国人が暮らすドバイ。街中では、東南アジア系、インド系などさまざまなアジア人、黒人、白人、アラブ系の人々など、非常に多様な人々が行き交う。今回の万博のスタッフやボランティアにも多様性が感じられた。年齢層の幅も広く、2、3世代の家族連れグループも少なくなかった。また、会場内は、年配の方や障害を持った人(UAEでは障害を持った人のことを、”people of determination(強い意志のある人)”と呼ぶ)に対する、モビリティなどの工夫も見られた。

さまざまな国や地域の歴史、文化、イノベーションを祝う機会でもある万博。ドバイで見た多様性が、次の大阪・関西万博でも引き継がれることに期待したい。


Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383