3月末に閉幕する万博開催で盛り上がるドバイ。万博の煌びやかなパビリオン、そして斬新な建築デザインの高層ビルや人工島の高級リゾートが立ち並ぶ地区の雰囲気とは全く異なる魅力があるのが、アル・ファヒディ歴史地区だ。この地域は伝統的なアラブ建築が立ち並び、昔の街並みを徒歩で散策できる。今回は、この趣ある地区で開催されたシッカ・アート&デザイン・フェスティバル(Sikka Art & Design Festival)を紹介する。

開催は今年で10回目

シッカ・アート&デザイン・フェスティバルは、ドバイ・アート・シーズンの一環として毎年3月にアル・ファヒディ歴史地区で開催されるビジュアル・アート、パフォーマンス・アート、映画作品のフェスティバルだ。今年の会期は3月15日から24日の10日間で、記念すべき10回目の開催となった。

フェスティバルは、ベテラン・アーティストにさらなる成長の機会を与えるとともに、これからのアーティストのためのプラットフォームとしての役割を持つ。地元のアーティスト、アラブ系のアーティスト以外に、域外のアーティストも参加する。今回は、約半数がアラブ首長国連邦(United Arab Emirates:UAE)のアーティスト、残りの約半分がアラブ系のアーティスト、そして残りが欧米などその他の地域出身のアーティストという構成であった。

空間内は、歴史的なアラブ建築を活用した屋内のギャラリー展示のほか、12の屋外インスタレーションと6つの壁画もあり、さまざまな空間で多様な作品が楽しめる作りになっている。また、10日間の期間中、60のステージ・パフォーマンスと10の映画上映も行われた。さらに、17の飲食ベンダーが展開し、落ち着いた雰囲気の旧市街が、まさにフェスティバル(お祭り)空間へと変貌した。

今年のフェスティバルのテーマは、アートと発展の祝賀(Celebrating Art, Celebrating Growth)。新たなビジュアル・アイデンティティは、そのテーマを象徴したようなシドルの木がモチーフで、会場となった旧市街の建物と建物の間の通りを覆うようにして、ピクセル化されたシドルの木のモチーフがはりめぐらされていた。さらに、会場内の什器やサインには、ポップなピンクや黄色が使われており、旧市街のベージュの壁とのコントラストがユニークな雰囲気を醸し出していた。

平日のオープン時間は日没後の6時から11時。アラブ建築やインスタレーションが、ライトアップされ、アート作品鑑賞だけでなく、オールド・ドバイならではといえる魅惑的な空間が楽しめるフェスティバルだ。

人々を呼び込むアート空間

筆者が訪問したフェスティバル初日は、展示作品を手がけたアーティストも多く参加した。大会場で開催されるような格式ばったアートフェアとは違い、参加者と作品、そしてアーティストの距離感が近いのも、このフェスティバルの特徴の一つだ。

参加アーティストの一人、Evgenia SilvinaはUAEを拠点に活躍するロシア出身のアーティスト。彼女は、大きな球体を鏡の屋外インスタレーションと、映像作家とコラボレーションした壁画を展開していた。鏡の球体は、個人および集団のマインドと意識を象徴するものだと彼女は説明する。

UAEを拠点に活躍するロシア出身のアーティスト Evgenia Silvina の作品

また、屋内展示が開催されていた建物の屋上にある小さな空間では、UAE出身の写真家Noura Al Neyadiによる、アート・インスタレーションが展開。彼女の作品は、地元女性が着用するMukhaweerと呼ばれるドレスの仕立て職人のストーリーを伝えるものだ。写真やドレスを用いて、彼女は仕立屋の空間の再現を試みた。作品展示の意図は、普段あまり知られることのない、仕立屋の職人の技、手刺繍で仕上げられるドレスの装飾といったようなものを伝えることだという。

UAE出身の写真家、Noura Al Neyadi

フェスティバル空間のいくつかの場所では、ワークショップも開催。子ども向けのワークショップなどもあり、全体的に開かれた印象を受けた。また、いくつかの部屋は、アトリエ空間となっており、アーティストがリアルタイムで作品制作を手がけていた。

子どもたち向けのワークショップ

ドバイ文化芸術庁が支援する本フェスティバル。アート・デザインイベントとしての芸術性や完成度は高い一方で、フェスティバルの入場料も無料で、空間全体が市民や観光客にとって開かれたものであった。

ドバイは、マスク着用などのルールはまだ存続しているものの、ポスト・パンデミックのフェーズへと移行している雰囲気がある。シッカ・アート&デザイン・フェスティバルは、屋上や中庭などのオープンスペースが特徴的なアラブ建築を活用した、屋外屋内のハイブリッド空間ならではの開放感があり、アート鑑賞がより自由なものであるということを、思い起こさせてくれるようなイベントだ。


Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383