気候変動や生物多様性、廃棄物や汚染といった地球規模の課題。グローバル化が進み、世界の国々の相互影響が急速に高まるいま、私たちが暮らす社会で今後、どのように解決策を見出せるだろうか?

限りある資源をできるだけ長く循環させながら利用することで、廃棄物の発生を最小限化し持続可能な社会を実現させる経済システム「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。2015年にEUの政策として発表したことで広まったこの概念は、これまでの「大量生産、大量消費、大量廃棄」という一方通行の経済モデルから脱却し、リサイクルやアップサイクルを推進しながら資源利用の仕組みを実現し、資源廃棄ゼロを目指すというもの。

DIRECTIONではこれまで、世界で取り組まれている持続可能なものづくりを紹介してきたが、今回は昨年12月上旬に行われた「CREATIVITY FUTURE FORUM 2021」の取材を通じ、クリエイティブにサーキュラーエコノミーを実現するアイデアを探った。

未来創造の技術としてのクリエイティビティを研究・開発し、社会実験していく研究機関「UNIVERSITY of CREATIVITY(ユニバーシティ・オブ・クリエイティビティ、以下UoC)」(株式会社博報堂が設立)が、創造性で社会を変えることをテーマにしたフォーラム『CREATIVITY FUTURE FORUM 2021』を開催した。

『CREATIVITY FUTURE FORUM 2021』は、UoCが掲げる「We are ALL born Creative. すべてのニンゲンは生まれながらにして創造的である」という思想のもと、年齢や職業、国籍を問わず、文理芸、産官学の垣根を超えて、幅広く未来創造の起点を探っていくフォーラムだ。世代、業界、専門を超えたさまざまな創造性をもつ約100人のクリエイターが参加し、クリエイティビティとビジネス、テクノロジー、サステナビリティ、Z世代といった、いま注目したいトピックスに基づいて行われたセッションは、4日間で40回。全セッションの参加費は無料で、現在オンラインにて配信アーカイブの視聴が可能だ。

サステナビリティの回では、創造性でサーキュラーエコノミーを推進する「Circular Creativity Lab.」が「クリエイティビティで廃材をハックしよう」をテーマに、5つの企業や団体のさまざまな廃材・未利用材を活用したデザイン・仕組み・ビジネスのアイデアを事前に募集。本セッションでは、優れたアイデアの発表と、赤坂の街での実装に向けたディスカッションが行われた。さまざまなジャンルの企業や人が参加したこのセッションでは、実際にどのような廃材が集まり、どんなアイデアが生まれたのかをレポートする。

廃材×アイデア① 車両部品をトレーニングマシンに

東急電鉄株式会社・車両部から提供された素材は、私たちにも身近な電車の車両部品。鉄道車両は、地方鉄道や海外でのリユースも行っているが、その中でリユースできない車両部品(吊革やベンチなど)を有効活用できるアイデアを募集した。

さまざまなアイデアが集まったなか、最優秀案に選ばれたのは「WEEKEND3」(山本しおりさん/岩渕修学さん/榎木勇人さん)による、電車廃材を活用したオフィストレーニングマシン「TRAIN」。部品そのものの特徴を活かし、つり革の懸垂機、フラットベンチ、ダンベル/スタンド器具をオフィスの共用部に設置し、ビジネスパーソンが隙間時間にリフレッシュするという実装シーンを提案したユニークなアイデアだ。電車の部品を大きな加工なく素材そのままを活用している点や、赤坂らしいオフィスや街レベルでの発展性、期待も込めて評価された。先日赤坂で実施したSDGsイベントでは、本アイデアやつり革を使った子どもの遊具のプロトタイプのほか、実装検討案に残った2案―つり革を活用したランプや網棚を使ったゴミ箱ケージ「カーカーガード」のプロトタイプも展示し、可能性を検証した。

廃材×アイデア② 再生コルクを点字コルクに!

コルクをリサイクルするプロジェクト「TOKYO CORK PROJECT」を運営する株式会社 GOOD DEAL COMPANYからは、再生コルクが提供された。コルクは木を伐採せずに樹皮を剥いで生成されるため、サステナブルな素材として注目されるが、基本的に日本には育たない植物から作られるため、そのほとんどをスペインやポルトガルから輸入しているのだという。「TOKYO CORK PROJECT」では、輸入にかかるエネルギーをカットできればという思いから、東京を中心とした飲食店で回収BOXを設置しリサイクルをする取り組みを行っているのだそう。

再生コルクを使ったアイデアの最優秀案は、浅井順也さんによるアイデア「点字コルク」。素材を提供したGOOD DEAL COMPANYの北村真吾さんは、「街にある点字ブロックが再生素材のコルクでできることや、普段使われていないシーンで使われることに意味があると思います。強度や安全性について課題もありますが、まずはシチュエーションとして室内でも使っていけるといいのではと思い採用しました」と話した。

受賞した浅井さんは、「『点字ブロック』という無機質なものが、床や空間を作る上で使われたら素敵だなという思いと、また、全盲の方達は触覚でしか感じることができないので、このコルクという温かみがある素材で空間をどう演出していくかということは、室内で使っていく所の意義があると思います」と語った。

この他にも、再生コルクの実装検討案として、ヨーロッパでは建材や内装材としても使われているコルク素材に着目した、コルクの内装でできたワインバー「コルクワインバー さざれ」や、ワイン贈答用のパッケージなどのアイデアも受賞した。

廃材×アイデア③ サーフィン廃材を「おこぼ」に

サーフィンの国内のプロツアーを主催し、海の環境保全の活動にも取り組んでいる一般社団法人日本プロサーフィン連盟(JPSA)から提供された廃材は、リサイクルが難しいと言われる、サーフボード、ウェットスーツ、サーフボードの表面に塗るワックスだ。

最優秀案に選ばれたのは、サスデイラボ(早川貴章さん/梶本博司さん/古小路一歩さん/組地翔太さん/早川昌子さん)によるアイデア、赤坂芸者の雨の日用の「WET おこぼ」。廃棄ウェットスーツを何枚も重ね合わせ、ブロックにして履き物として削り出してつくる「おこぼ」という提案は、ウェットスーツから履き物を作るという発想が面白いと採用された。審査員からは、「素材が柔らかいため安定性を考慮して地面との接着面に頑丈なソールをつけたら実現できるかもしれない」とコメントがあり、現在サンダル含めプロトタイプの検討を開始している。

廃材④ 廃棄太陽光パネル、リサイクルコットン

産業廃棄物事業を行う株式会社浜田からは、廃棄太陽光パネルとリサイクルコットンの素材が提供された。

アイデア:廃棄太陽光パネルをアクティブマテリアルに

再生可能エネルギーとして注目され、世界でも急速に増加し続けている太陽光発電。使われる太陽光パネルの寿命は、20~30年ほどだと言われる。その廃棄量は2030年から増大し、2040年には2015年廃棄量のおよそ300倍になると見込まれている(!)。大量廃棄が予想される太陽光パネルのリサイクルとリユースは、今後の大きな社会課題の一つだ。電極やシリコンを何層も強固に接着してできているため、効率的にリサイクルする技術革新が期待されている。

最優秀案に選ばれたのは、デザイン事務所 POINTの長岡さんによる「アクティブマテリアル」。廃棄太陽光パネルをオフィス内でストックし、テーブルの天板やホワイトボードのパネルとしての使用や、イベント時などにドッキングさせ、小屋やパーテーションにするなど、マテリアルとしてさまざまな活用を提案した。太陽光パネルの、光が当たれば発電する特性や感電のおそれもあるため、廃棄太陽光パネルの状態によって保存方法や利用の安全性には課題もある。素材を提供した株式会社浜田の寺井さんは、「廃棄太陽光パネルはそのまま廃棄したり埋め立てられることが多いのですが、廃棄する前にもう一度ワンクッション置いた循環ができるということで選考しました」と語った。こちらも現在、長岡さんと共にプロトタイプ制作に向けた検討が進んでいる。

アイデア:リサイクルコットンをランニングウェアに

もう一つ、株式会社浜田から提供された素材はリサイクルコットン。株式会社浜田では、回収した古着でもう一度綿をつくり素材をリサイクルする取り組みを行っており、世の中のほとんどの古着は焼却されてしまっている現状に、何かクリエイティブなアイデアが出ないかということで素材を提供したそう。

最優秀案に選ばれたのは、WEEDEND3による、「CIRCLE リサイクルコットンを使用したランニングウェアシェア事業」。ウェアを借りて、赤坂の街のコースをランニングして返却することで、自身の行動が循環型社会の輪への参加にもなり、運動不足の解消にもなるというアイデアだ。

WEEDEND3の山本さんは、「近年SDGsが謳われている中、個人としての取り組み、一人一人の力は小さいと感じていましたが、今回実装性が高いということで何か環境のためになるのではと思い応募しました。『CIRCLE』という名前には、ランニングをして一周回ってきて同じところにまた返却する意味を人々のつながりと考え、グループ内での輪が大きくなり、環境の輪、みんなの繋がりの輪が大きくなっていくように想いを込めました」と語った。

廃材⑤ 廃棄されるカーテン・カーペットサンプル

株式会社東北新社・ナショナル物産株式会社からは、カーテンやカーペットを販売する事業からショールームでの展示を終えたマテリアルサンプルが提供された。展示を終えたものは倉庫に眠っていたり、お金をかけて焼却せざるを得ないといったことが起きており、たくさんあるマテリアルサンプルを素敵に活用できないかとテーマを立てた。

アイデア:廃棄される布サンプルを、バリアフリー図書「布絵本」に

最優秀案に選ばれたのは、株式会社マイティブック代表の松井紀美子さんのアイデア、「みんなで作るバリアフリー図書『布絵本』」だ。他の審査員たちからも好評だったこのアイデアは、視覚に障害を持つ方に「触れる絵本」として手触りで物語を展開できるような絵本をつくるというもの。

株式会社東北新社の武井さんは、「端材をくっつけて別のプロダクトを作るなどアイデアが多い中で、さまざまな素材の『手触り』というところにフォーカスしたのはすごく面白いと思いました。図書館や学校に寄付させていただいたり、学校や幼稚園でのワークショップなど色々と活用できたらと思っています。サーキュラーエコノミーということだけじゃなく、視覚に障害のあるみなさまのお役に立てる物が作れるというところが素晴らしいと思いました」とコメントした。

授賞式の後は、カタリストを交え、アイデアの感想や赤坂の街でどのように実装していくかのディスカッションが行われた。UoCのプロトタイピングチームがその場でプロトタイピングをしながら、さまざまな案をバーチャル空間に配置していく。ディスカッションが行われたUoCの広々としたスペースの一角は、「マンダラ」と呼ばれる、コルクが敷き詰められた緩やかな曲線を描く段差のある心地よい空間だった。ここでは肩書きや専門を超えて対話を行い、さまざまな創造を生み出していこうという想いが込められているそう。コルクの柔らかい質感は温かみがあり、気持ちをリラックスさせてくれた。

カタリストとして参加したIDEO Tokyo デザイン・ディレクターのジュール アメリアさんは、「サーキュラーデザインは、グローバルでは7,8年前、日本では3,4年前から発信してきましたが仲間がいないと感じていました。今回これだけ皆さんが考えてくださって、スピード感が素晴らしいと思いました。サーキュラーを根付かせるには、裁縫文化やリペア文化、みんなで手を使って根付かせていくこと。コミュニティの中で皆さんが参加されるのを見たいです」と語った。

廃棄太陽光パネルとリサイクルコットン素材を提供した株式会社浜田の寺井さんは、「ごみの学校」の運営代表も務める。参加者から、「リサイクル素材をアパレルに使ってもらうところに対しての弊害はどんなところ?」という質問に、こんな答えが返ってきた。「リサイクルコットンの場合、微妙に色むらがあるため同じ品質で同じ商品が作れないというところが一つのハードルですが、実際に手にとるとおそらくそこまでわからないし気にならない。ものづくり側のこだわりでNGとなってしまうリサイクル材というのはすごく多いんです。消費者の方達にも『これでいいよ』って許容してもらえる世界になると、リサイクル素材の活用の幅がもっと広がるし深まるのではと思っています」。

今回のセッションは、世代や業界、専門を超えた、さまざまな人々が集まって創造性を発揮した興味深いディスカッションだった。社会が抱える課題について、専門家とは違う視点を持つ人から、予想外の良いアイデアが生まれるかもしれない。人間が地球に及ぼす影響が甚大になってしまったいま、私たちに必要なのは、循環型経済への大転換に向けて本当の意味での多様性と想像力、そして人間の創造性を最大限に活かすことのできる環境づくりではないかと感じた。受賞したアイデアは、今後赤坂で開催されるSDGsイベントでプロトタイプを展示するほか、各素材に最適な場で実装していくことを目指している。実際にどのように展開され、人々に触れるのかが楽しみだ。


撮影:阿部裕介(YARD)

CREATIVITY FUTURE FORUM「Circular Creativity Lab.」セッションページ

取材協力:
UNIVERSITY of CREATIVITY(ユニバーシティ・オブ・クリエイティビティ)