ナイロビのクリエイター・コミュニティーは規模が比較的小さく、誰もがオープンなためアクセスしやすい。アーティスト、デザイナー、DJといった様々なジャンルのクリエイターを通じた新たな出会いも少なくない。今回の旅でもまた、そうした出会いがあった。ナイロビ在住で親しくしているケニア人アーティストを通じて、ケニア系日本人のクリエイター姉妹、イヴォンヌ・エンドウ(Yvonne Endo)とパティ・エンドウ(Patti Endo)に知り合った。アフリカの視点をウォッチしている東京在住のエディターからも、彼らについての記事を紹介してもらっていたこともあって、勝手に2人に対しての親近感を抱いていたが、実際に出会った彼女たちは想像以上に魅力的だった。

仲良し姉妹の共通ビジョン

姉のイヴォンヌと妹のパティの年齢差は4歳。しかし、二人は幼いころからとても近い関係だったという。はたから見ても「非常に仲良し」といったオーラが漂い、どちらが年上かどうかの判断も難しい。妹のパティのほうを、姉であると勘違いする人が多いようだ。二人とも内向的(イントロバート:introvert)なため、そこまで積極的にパーティーに出かけたりするようなタイプではないという。しかし、どちらかというとイヴォンヌのほうが社交の場に出かけることが多いため、人々は彼女のほうが若いと思うのではないかとパティは分析する。

現在二人はビジネス・パートナーとして、デザイン・ブランド「Endo²(エンドー・スクエアド)」を展開している。共通のビジョンと、絶対的な信頼関係がこのパートナーシップを可能にしているようだ。姉のイヴォンヌは、南アフリカの大学で経営とマーケティングを専攻。Endo²のブランド戦略やマーケティングを担当する傍、アカウント・マネージャーとして広告会社とも仕事をしている。一方、ヘア、フィットネス、旅、食に関するコンテンツを、自身のインスタグラムを通じて発信するコンテンツ・クリエイターとしても活躍する。

パティは、英国ブライトンの大学で美術を学び、アーティストとして活動している。彼女の作品は、ドバイのギャラリーなどが扱う。ナイロビでは、30名ほどのアーティストが参加する「クオナ・アーティスト・コレクティブ(Kuona Artists Collective)」に所属しているが、特定のギャラリーとは関係を結ばず、クライアントと直接やり取りしている。自分のアートに関心を持ち、真摯に評価してくれるようなクライアントとの直接の関係性を大切するというのがパティの姿勢だ。

パティの作品は、ヌードや顔のポートレイトをモチーフにした、ミニマルな線画が中心。画材はインク、ブラシ・ペン、ペイント・ペンを使用する。キャンバスではなく、クラフト・ペーパーや日本の和紙など、薄手の紙を使った作品が多い。過度に性的なものとして描かれがちで、偏った視線(gaze)の対象になりがちな(女性の)ヌードに、新しい光や見方を与えるような作風が特徴的である。彼女の作品における人間のからだは、「ありのままに、弱さをはらんだもの(rawest vulnerable selves)」として描かれており、人間のからだの型そのものの複雑さと美しさを表現するということを意識しているとパティは説明する。彼女が描く人物の顔やヌードは、どこか抽象的で多面的だ。その顔は一つの感情を表していることはなく、見る側によってさまざまな見方や感情が存在する。体の描写も一面的ではなく、さまざまな体型が表現されている。アート作品としてのヌードを通じて、より多くの人が自分の体をポジティブに受け入れるようになってほしいというのがパティの意図だ。一筆書きのようなアートは、シンプルでありながらも、力強さが感じられる。

「オーガニック」に成長する、デザイン・ブランド

Endo²のブランドがローンチしたのは2015年。パティが学業を終えて、英国から帰国したタイミングで姉妹のコラボレーションが開始した。当初はタンブラーやインスタグラムなどで、パティのアート作品と、自分たちをモデルとしてスタイリングしたファッションの写真などを展開。いわゆる「インフルエンサー」的なかたちで自分たちの存在とクリエイティブ・ディレクションをブランド化していった。当時は、そこまで長期的なブランド戦略があったわけではないが、ブランド名をブレインストーミングし、ロゴも自作した。名前やロゴは、当時から変わっていない。

徐々にフォロワー数を増やしていったEndo²。開始当初は、パティのアート作品のみを販売していたが、若いファンに対して、よりアプローチしやすい価格帯のものを提供するために、パティのアート作品をモチーフにしたデザイン商品の展開を開始した。最初に手がけたのはトートバッグ。その後、大判ポストカード・サイズのアート・プリントやTシャツなど、商品の幅を増やしていった。現在は、イヤリングや指輪といったアクセサリーも販売している。

ブランド事業展開は決して容易いものではないが、Endo²は中長期的な事業戦略を立て、トレンド調査などをして、積極的なプロモーション展開をすることで事業を成長させるというやり方ではなく、インスタグラムを通じたファンの拡大と口コミによって、「オーガニック」な事業成長を成し遂げてきた。インスタグラムは、決して過小評価できないとイヴォンヌは言う。イヴォンヌはブランドのマーケティングを担当するが、コンテンツ発信のクリエイティブ戦略については二人で相談する。

市場の流れやトレンドに左右されることなく、オーガニックな成長を重視する二人だが、持続的な事業展開を可能にするための戦略と計画は、当然、持ちあわせている。Endo²は、一貫性のあるビジュアルを展開することで、ブランド認知を広げている。以前、Endo²が展開する、一筆書きの顔の絵をモチーフにしたイヤリングが、ほかのブランドに真似されるという事件があった。Endo²ブランドの一貫性があったからこそ、人々がコピーに気づき、真似したブランドに対して非難の声をあげたとパティは振り返る。

また、二人は定期的に次のステップについて議論し、次の展開商品やコラボレーションに関しての短期目標を設定するという。Endo²がケニアで大きく話題になり、大成功となったコラボレーションの一つが、ケニアのバッグブランド「サンドストーム(Sandstorm)」との商品展開だ。サンドストームは、帆布や革を使ったケニア製のサファリ・バッグを展開する、20年の歴史があるブランドで、地元の人や旅行者に人気のあるブランド。しかし、その「コロニアル」なデザインは、ケニアの若者にとっては必ずしも魅力的だとは言えない。同ブランドは、近年、地元ブランドやデザイナーとのコラボレーションを開始していた。

こうしたブランドの展開状況を踏まえ、姉妹はサンドストームに直接アプローチした。直接のコネクションはなかったものの、インスタグラム上での繋がりがあったため、イヴォンヌはインスタグラムのDMでコラボレーションを提案した。それがメールでのやり取りとミーティングに繋がり、商品の共同開発が実現したそうだ。通常、サンドストームのコラボ商品の市場展開は限定3ヶ月だが、あまりに人気があったためEndo²とのコラボ商品は2年間継続した。商品はリリース当日から大人気の商品となったそうだ。現在、商品展開は終了しているが、ナイロビで、Endo²とサンドストームとのコラボ・バージョンのバッグを持っている人を見かけることも少なくない。

パンデミック以前は、毎年日本を訪問していたという姉妹。今後、日本のブランドとのコラボレーションも視野に入れているそうだ。Endo²のさらなる世界展開に期待が高まる。


Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383