2019年12月、南アフリカのケープタウンにて「Oath(オース)」という名のフォトグラフィー・マガジンが誕生した。Oathは誓いを意味する言葉で、「A photography pledge(写真への誓約・コミットメント)」がこの雑誌のマントラである。Oathは現代アフリカの写真作品をキュレーションしたメディアで、南アフリカだけでなく、アフリカ各国の写真家の作品を紹介している。とくに若手や台頭しつつある才能に注目し、その作品を取り上げることで、彼らにとって新たな発展の機会につながるようなプラットフォームとしての役割を担うのがOathの意義だ。

雑誌ファンの写真家がプロデュース

Oathを立ち上げたのは、南アフリカ人写真家のステファニー・ブロムカンプ(Stephanie Blomkamp)だ。ヨハネスブルグ生まれの彼女は、カナダで育ち、その後、欧州に移住。バンクーバーとロンドンで写真家として経験を積んだのち、南アフリカに戻り、現在はケープタウン在住だ。彼女は、アクセンチュアのマーケティング部門での経験といったコマーシャル・フォトグラファーとしての経験を持つ一方で、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(Royal Academy of Arts)などでの展覧会などの経験を持つ、アーティストでもある。

モノクル・ラジオのインタビューで、ブロムカンプはOathを立ち上げた理由は、Oathのような雑誌が世の中に存在しなかったからだという。ロンドンのソーホーで暮らしていた時、雑誌好きの彼女はさまざまな書店であらゆる雑誌を見つけることを楽しんでいたという。その中でもとくに、写真に特化した雑誌をよく購入していたようだ。しかし、母国の南アフリカには、ロンドンで出会ったような雑誌は存在していなかった。そして、自ら写真家ということもあり、Oathのような雑誌を自分で作り上げようという構想に至った。彼女のコミットメントの背景には、アフリカに存在する多くの才能ある写真家の存在もあった。南アフリカだけでも多くの才能が存在し、さらに他のアフリカ各国でも若き、才能ある写真家がいる。しかし、彼らのような現代アフリカ写真家がグローバルに発信し、活躍する場は限られている。Oathは、その才能の発掘、紹介し、アフリカ内外にインスピレーションと新しい発見をもたらすようなプラットフォーム的な存在を目指している。

デジタル・プラットフォームではなく、紙の雑誌にこだわった理由は、彼女が持つ印刷メディアに対する価値観。ブロムカンプには、形あるものを作りたいという思いがあり、質感や雰囲気にもこだわりがあった。また、とくに若手の写真家にとって、紙の媒体に自分の作品が掲載されるという経験は、大いなる自信につながるものだと彼女は考えている。雑誌に掲載されることは、ギャラリーでの展示など、次なる機会につながる可能性も少なくない。

Oath創刊号の表紙を飾った写真家は、コートジボアール人のケイダー・ディアビィ(Kader Diaby)だ。ブロムカンプは、アムステルダムの写真フェスティバルUnseenにて、ディアビィに出会ったという。雑誌の創刊にあたり、彼女は迷いなく彼に表紙写真の撮影を依頼したそうだ。ディアビィは、ベルギー・ブリュッセルにあるギャラリー、Galerie Number 8に所属している。

ブロムカンプは、さまざまな才能を発掘のために多くの時間をリサーチに費やしているという。雑誌のなかのGo-Seesというセクションは、発掘した写真家を特集する場だ。雑誌の中のこのセクションこそが、雑誌Oathの核心部分であると彼女はいう。

雑誌の世界観を魅せるポップアップ・ギャラリー

今年4月にはOathの第2号がリリースされた。今号のテーマは愛情(Love)。母親の愛情や兄弟姉妹同士の愛情といった家族関係におけるものなど、さまざまな愛情の形が表現された作品が多く盛り込まれている。創刊号と比較したページ数が多く、その厚みは1.5倍ほどある。さらに、創刊号に比べて写真を全面に押し出した裁ち落としレイアウトのページが多く、フォトグラフィー・マガジンとしてのアイデンティティがより明確に感じられる仕上がりになっている。

他国での発売に先行して南アフリカ限定で発売開始となった雑誌のローンチに合わせて、ケープタウン市内ではポップアップ・ギャラリーがオープンした。会場となった建物は、ダークレッドの外壁が特徴的だ。ギャラリー内では、Oathに参加した写真家のさまざまな作品が展示された。拡大印刷された作品は、当然、雑誌で見るよりも大きなインパクトがあり、雑誌での体験とは違った形で作品の魅力が表現されていた。一方で、いくつかの部屋に分かれた展示では、それぞれの部屋で異なるテーマがあり、雑誌の世界観を踏襲した空間が作られていた。

ギャラリー全体の装飾も、雑誌がそのまま3D空間になったような雰囲気だ。ギャラリー空間に入ると、まず大きなOathのロゴに迎えられる。そしてその横には、第2号の表紙の世界観が再現された緑豊かなガーデン風の壁面が作られていた。さらに、窓辺にはOathつまり宣誓のシンボルである右手をあげたジェスチャーがモチーフとなった、いくつもの手のオブジェが吊り下げられている。宣誓のジェスチャーは、Oathのアイコニックなスタイルであり、創刊号、第2号の表紙写真は、どちらもモデルが右手をあげたポーズをとっている。2つは異なる写真家による個別のアート作品ではあるが、このポーズはOathの印象的なブランディングの一部となっている。

ポップアップ・ギャラリーでは、Oathのさらなるブランディングが展開。ギャラリーの一部分に設置されたショップ空間では、雑誌の他に、Tシャツ、トートバッグ、キャップ、ポストカードといったOathのロゴ入り商品が販売されていた。今後、Oathが雑誌を超えて、ライフスタイル・ブランドとしてさらに認知を拡大していく可能性が感じられる展開だ。Oathというプラットフォームの認知拡大は、アフリカの若手写真家が希望と自信を持ち、さらに可能性を広げるという効果をもたらすに違いない。

アフリカには55の国が存在し、国ごとにもさまざまな情景・ライフスタイルが存在するものの、アフリカ外におけるアフリカのイメージは、いまだに単一的・限定的なものが多い。アフリカを知らない多くの人が想起するビジュアル・イメージは、大自然やサファリに存在する動物たちであることも少なくない。また、メディアを通じては、ネガティブなニュースが紛争・貧困・飢餓を描写したような写真とともに伝えられることも多い。Oathの世界観は、こうしたものとは全く異なるものだ。それぞれの写真家による、それぞれの視点からの「アフリカ」を味わうことができる。Oathは、そのものがアート作品であると同時に、現代アフリカの写真作品を通じて、より多様な対話を生み出すきっかけを作る力強い媒体として、今後より大きなインパクトを生み出していくに違いない。


Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383