ナタリー・カンタクシーノは東京在住の、写真家・モデル・ライター。スウェーデンのストックホルム出身で2015年から日本で活動している。

日本との出逢い、写真をはじめるまで
「もともと映画監督になりたかった」が、高校卒業と同時にあきらめた。フィルムスクールは学費も高く、当時は女性監督もほとんどいなかったからだ。だから、やりたいことを見つけるために旅に出た。そこで、最も強い衝撃と好奇心を感じたのが日本だったのだという。外国語に堪能な父の後押しもあり、日本語を勉強することを決意した。

ストックホルム大学の日本語学科に進み本格的に言語と文化を学んだ。そして、奨学金制度に合格して日本への留学を果たす。アルバイトで生計を立てていたが、友人にモデル事務所を紹介されたことがきっかけでモデルとして活動し、その後も日本に滞在することになった。

「モデルの仕事もたのしかったんだけど、結局他の人がつくった世界。自分のアウトプットをしてみたかった」

数年間はモデルとして活動するもいったん区切りをつけ、大阪の化粧品メーカーのブランディング担当として入社。名刺の持ち方、電話の出方など、日本の社会人としての常識を勉強した。「とくに難しかったのは言葉の伝え方。スウェーデンのようにダイレクトに言葉を投げてしまうと、日本語では攻撃的に受けとられることがある。”クッション言葉”を使いなさいと言われた。それまで知らなくって」。毎日の満員電車に揺られる生活も体験しながら、もっと自分の表現ができるものとして手に取ったのが、カメラだった。

会社員を辞め、アシスタント業などをしながら作品撮りを繰り返した。モデル時代からフォトグラファー達を観察していた経験が活きているという。「フィーリングでつくりあげていく人もいるけど、私はとことんこだわってディテールを作り込みたいタイプ」

Photo by Nathalie Cantacuzino

大好きな食と朝

彼女のインスタグラムのプロフィール欄をみると、朝食愛好家という肩書きもある。
小さい頃から食べることは好きだった。ただ当時は同じものばかり食べていたという。親が仕事で家を空けていたため、7歳のナタリーには自分で電子レンジで焼いたチーズトーストがごちそう。その後、大学時代には学業の傍らオーガーニックの食品バイヤーをしていたが、食に対する興味が爆発したのは日本に来てからだそうだ。

「一回ハマるとそれしか見えなくなるタイプで。ある時期はチョコレートオタクになったり。日本にはいろんな美味しいものがあるから」

なかでも彼女にとって大事なのが朝ごはん。好きが高じて友人のカフェで朝食ポップアップをするようになった。私生活でも冬はポリッジ、夏はオーバーナイトオーツが欠かせない。最近では、グルメライターとして記事の執筆も積極的に行っている。

「18歳くらいまではいつも夜中に映画をみていたから朝が苦手だった。でも大人になってから朝型になったかな。昼や夜より朝のほうが静かで平和を感じられるし。夜はその日に起こったこととか考えごとが多くなったりするけど、朝の雰囲気がすごく好き」

Photo by Nathalie Cantacuzino

いま、彼女がつくりたいもの

現在はメンタルヘルスをテーマにした写真集を制作している。内に悩みを持つ人と対話を重ねながら、ありのままの姿を記録に残していく写真群だ。

「日本にいて感じることのひとつが、メンタルヘルスに対するハードルの高さ。仕事の場だと特に、メンタルの問題=リスクととられがちで、人間としてみられていないんじゃないかって感じる時がある。スウェーデンでは会社内でも普通にそういう話をする。心の問題をシェアできれば信頼関係ができて、より長く一緒にいれるはずだから」

Photo by Nathalie Cantacuzino

彼女自身、両親を亡くしてからの喪失感といまだに向き合っており、身近に心の悩みを抱えている友人も多い。だからこそ、この作品を通して伝えたいことがあると話す。

「自分の感情に正直になって、そのままでいいんだよって。誰かがこの写真集をみて、自分だけじゃないんだと思ってくれれば」

被写体とは2-3回会ってコミュニケーションをとっていく。初回に全く口を開けなかった人が、少しずつ彼女にここを開いていってくれたり。その過程経て写真におさめていくプロセスが面白いのだという。

Photo by Nathalie Cantacuzino

「なんでも知ることが好き。コロナ自粛のとき、暗い話題はみたくないという人も多かったけど、私はネガティブな情報も知れているほうが落ち着く。情報をコントロールできていないことのほうが不安に繋がるから。母が亡くなった時も、姉は母の過去のことを知ろうとしなかった。「全然知りたくない」と言っていて。忘れたいというか、ネガティブな事に触れたくないという感じだったの。でも私は逆にそっちを知りたいと思った」

けっこう私はレシーバー気質というか。第3者の立場になる事が得意で、昔から共感力はあった。だから人の話を聞くのが好きだし、何も質問していなくてもいろいろ教えてもらえる事も多いかな。

現在はフリーランスとして、写真・モデル・ライターと幅広く活動している。彼女が当初から目指していた自分らしいアウトプットができているのだという。

「これはコロナになってなおさら感じることでもあるけど、とくに日本では、ガツガツ働いて忙しい=充実していると捉えられがちだよね。この機会に、自分らしさを改めて考えてみたら、駆け抜けるようにたくさん作品をつくるよりもゆっくりでもいいからひとつひとつに向き合うこと、納得できるものをつくっていくことが大事なんだと気付かされた」

「なんとなく、小さい頃から両親の影響でロマンチックな世界が好きかも知れない、ドレスやスーツを着てオペラやクラシックが流れてくるような、映画のようなおとぎ話のような世界」

今後は自宅兼アトリエで、制作にさらに力を入れながら個展や写真展などのアウトプットを目指している。
「仕事のために生きることをしないで、仕事とともに生きる。そういうのはたぶん、作品にも出ると思うから」


NATHALIE CANTACUZINO | ナタリー・カンタクシーノ

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Instagram: Nathalie Cantacuzino


TAKANOBU WATANABE

⼤学を卒業後『HEAPS Magazine』、コンデナスト・ジャパン『GQ JAPAN』を経て映像制作に転⾝。以後2年間、デンマークとフランスを拠点に活動。ジャーナリズムの経験を通した視点と繊細な感情描写が特徴で、ファッションやカルチャーの⽂脈を含めたビジュアル表現を得意としている。

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