南アフリカにあるツァイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz Museum of Contemporary Art Africa, Zeitz MOCCA)は、南アフリカがCovid-19の影響を受け、ロックダウンに入った3月から閉館していたが、10月22日に営業再開した。オープンを機に特別企画として始まった、ケープタウン市民から集めた2000以上の作品を展示する「Home is where the art is(ホームとはアートがあるところ)」を紹介したい。

アートをより開かれた場に

Zeitz MOCCAは、2017年9月に新しくオープンした美術館で、アフリカの現代アートに特化したものとしては世界最大規模の美術館だ。もともと穀物貯蔵庫であったコンクリートの建物を改築して作られた美術館は、その建築自体も注目されている。Zeitzの名前は美術館創設の主要人物の一人である元プーマCEO、現在ハーレー・ダビッドソンCEOを務めるヨッヘン・ツァイツ(Jochen Zeitz)に由来し、美術館には彼のプライベートコレクションが収蔵されている。

開館当初は、Zeitz MOCCAが個人のコレクションから、アフリカ全体の現代アートシーンを代表する美術館として、どのように作品をキュレーションしていくかという点が、期待や課題として注目されていた。美術館やギャラリーに象徴されるアート業界が、特権的・排他的な要素も持つことから、一部の富裕層や外国人訪問者だけでなく、いかに多くのアフリカの人々に対して開かれた民主的な場を作るかという点は、経済社会文化のインフラが整備しきれていないアフリカの文脈だからこその課題でもある。

こうした背景があるからこそ、敷居を下げて市民の参加を促した本企画の実施は、画期的かつ重要な判断だったと理解できる。Zeitz MOCCAのエグゼクティブ・ディレクター兼キュレーター長を務めるコヨ・クオは「主要な美術館では過去に類を見ないような企画である本展示は、まだ新しい美術館を応援してくれているケープタウン市民に対する、お礼を表したものです」と企画コンセプトを説明した。同時に、企画にはCovid-19とロックダウンという苦境のなかで、パワー、団結、個々のスピリットを称えるという意図もあったようだ。

ケープタウン市民のクリエイティビティ溢れる展示

作品の収集にあたっては、オンラインでのエントリーと実際の作品回収という2段階で行われた。9月21日から10月5日までのオンライン・エントリーし、その後の6日間でZeitz MOCCAおよびケープタウン市内のパートナー施設にて、作品が回収された。プロのアーティストはもちろんのこと、アマチュアアーティスト、コレクター、ロックダウン期間中に何かを創作した人など、その経験やジャンルなどは問わず、誰でも無料で応募でき、かつ作品審査もなしというシステム。応募部門は、子どもが書いた絵などを応募できる部門、アマチュアで作品を作った人向けの部門、プロ作家の部門、アフリカ大陸全土からのクリエイター向け部門、ギフトや家族で受け継がれるなどして所蔵する作品の部門という5つが設けられた。

実際の展示では、複数の展示室の天井から床までが、作品で埋め尽くされ、圧倒的な印象を与えるものであった。作品は、応募部門とは異なる5つのテーマ、庭(The Garden)、Outside(外)、Inside(中)、時間(Time)、関係(Relations)によって、分類されていた。一方、個々の作品に対しては、番号が振られているだけで、アーティスト名やタイトルは表示されていない。気に入った作品があれば、番号を元にオンラインのリストでアーティスト名やタイトルを確認することができるというしかけだ。プロや著名なアーティストが特別扱いされることがなく、展示方法もあくまで民主的なスタイルだ。参加したアーティストは、企画展示期間中含め3ヶ月間、いつでも無料でZeitz MOCCAを訪れることができるという特典も設けられ、市民と美術館をより近づけたいという意図が伺えた。

媒体を問わずに応募された作品だが、その多くが絵画や写真などの2D作品。加えて、テキスタイル、彫刻、陶芸などの3D作品と、いくつかの映像作品が展開されていた。特徴的なものとしては、ステイホームを余儀なくされた退屈な時間の流れ(もしくは停滞)を表現したような作品や、Covid-19の顔となった政治家や著名人らを題材にした作品などだ。全体的には、子どもが書いた作品も混じり、アマチュアアーティストや素人の作品が中心となって展開しているとは、一見わからないぐらい完成度の高い展示だ。鮮やかな色でペイントされた壁を背景に、様々なスタイルや色使いの作品が並ぶギャラリー内では、来場者の多くがスマホを片手に写真を撮影して楽しんでいるようであった。

本企画展示は来年1月10日まで開催される。アフリカの現代アートが世界にもっと浸透すると同時に、アフリカ各地でのローカルのアートシーンがより開かれたものになることを期待したい。


Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383