新型コロナウイルスの影響によって、これまでの私たちの暮らしや価値観は大きく変わった。当たり前だと思っていたことに、疑問を抱くようになったり、考えたりすることも増えたように思う。例えば、これから暮らす場所について、仕事や生活の仕方について。そして、本当に必要なモノについて。

この消費社会の流れの中で、見落とされてきたたくさんの“モノ”たち。価値がない、必要がないとされてきたモノたちに、今、目を向けてみる機会が与えられたのかもしれない。

そんなことを考えるきっかけをくれたのは、この夏南青山にあるセレクトショップ「Information(インフォメーション)」にて開催された、「YIIPUN UMADA(イープン・ウマダ) / 1 MILLION STEPS」だった。

“生粋のモノ好き”が営む
「YIIPUN UMADA」

「YIIPUN UMADA」は、さまざまな国や地域を旅して集めた雑貨や古道具を扱う鳥取県倉吉市のお店。1年半前にオープンした。営むのは馬田明さんと山根直子さん。2人は、骨董的価値を持つものだけでなく、普通は見過ごしてしまいそうな儚いものの中から美しさや魅力を見出し、独自の目線で編集を施し店を作っている。

一方、開催場所となったのは、根津美術館にほど近い南青山に2019年11月にオープンしたセレクトショップ「Information」。ヨーロッパや北欧のアパレルブランドを取り扱うほか、国内外の作家の器やカトラリー、ヴィンテージやアートブックなどを販売している。

営むのは島根県出身の山城真之さん。ショップの名前「Information」は、商品やその作り手とお客さんとの間に立つ「案内役」になりたいという思いから。故郷の山陰地方と東京を結びつける役割もしていきたいと考えているそうだ。

山城さんが「YIIPUN UMADA」と出会ったのは、昨年実家のある島根へ帰省したとき。
「鳥取に面白い店ができたと噂を聞いて訪ねたんです。『YIIPUN UMADA』には、古道具もあればどこの国、地域のものかよく分からない現行品もあって、見ていてワクワクしました。そこにテーマはなく、2人が見つけ、選んだものたちが、お店を作っているという感じなんです。馬田さんと山根さんは生粋の“モノ好き”なんだと思います」

変化する空間、変化する展示

「Information」のドアを開けると、壁に、棚に、テーブルの上に、大きさも形も色も違う、一体これは何だろう? というモノがたくさん並べられていた。
空き缶のような、モノ。ガラス瓶のような、モノ。流木のような、モノ。何かのケース、何かの枠、何かの部品……。はっきり言ってしまえばゴミとも捉えられそうなものたちがオブジェのように美しく見える。これらはすべて、砂浜に打ち上げられた「漂着物」だった。

「YIIPUN UMADA」の2人が、漂着物の収集を始めたのは5年ほど前からだという。「僕らは、とくに漂着物にこだわっているというわけでも、ものすごく興味があるというわけでもないんです。たとえば休みの日の朝、海に行って、缶ビール片手にバックパックを背負って、ひたすら砂浜を歩く。時には釣りのおじさんとしゃべったり、考え事したりしながら……。それはリラックスタイムというか、気晴らしなのかもしれません。鼻息を荒くして、漂着物を探し回っているというわけじゃないんです。ただ、この展示の名前『1 MILLION STEPS –100万歩』のとおり、無数に落ちているゴミの中から、キラリと光る、面白いものを見つけるには、それだけ歩く必要がありました」と馬田さん。

今回展示販売したのはそうして収集してきた約200個。
これだけの数が一つの空間に並べられていても不思議とうるさく感じない。それは、モノと空間の調和のせいだとわかった。

白を基調とした店内の壁は、一面だけがブルーに塗られている。その空間に合わせるように、漂着物は色ごとに分けて集められ、綺麗に陳列されていた。そこにあかるい日差しが差し込み、窓の外の木々が揺れるたび、木漏れ日が注ぐ。ジョルジョ・モランディの絵画を思い出した。

漂着物が一つ売れていくたび、そこには空間が生まれる。そうするとまたモノの見え方が変わる。「Information」の山城さんは、そんな店内の様子を見ながら「変化する空間、変化する展示ということも面白いですよね」と、話してくれた。

言葉では説明できないモノに感動する

山城さんは、「YIIPUN UMADA」の2人は、漂着物で「目のトレーニング」をしているのではないか、と言う。その審美眼を磨いているのではないか、と。

「YIIPUN UMADA」の商品は、骨董市や古物商の競り市などで見つけて買い付けることも多い。馬田さんは、「たとえば一つのガラスコップがあったとして、年代や作家名、流行といったわかりやすい魅力を携えたものは、みんなが欲しがるから仕入れ値が高くなる。それに、そういうものをお客さんたちはもう見飽きているような気もしているんですよ。だから僕は他の人にはわからない価値を見抜きたい。そういう意味で言えば、無数の漂着物野中から自分がいいと思う一個を見つけるという行為は、自分の感受性を試すということになっているのかもしれません」

馬田さんは、漂着物を持ち帰るとそれを眺めながら、なぜ自分がこれを選んだのか、その理由を考えると言う。「フォルムが気になったのか素材感なのか……、でも、やっぱり“解読不能”なんですよね。ちょっとゆがんでいたり、潰れていたり、釘が刺さっていたり、作為はないけれど何かしらのアクシデントが、そのものを面白くしているところがあります。ただ、そこが漂着物の魅力なんだと言い切れるかというと、そんな単純なものじゃないんですよ」

“解読不能”な漂着物の魅力について、あえて言葉で説明しようとはしない。「言葉で説明できるものとできないものがあって、僕らは説明できないものを展示して販売したということなんだと思います。そして、それを買ってくださった人たちも、“解読不能”だけど、何かしら魅力を感じてくれたんですよね。これまでにたくさんいろんなものを見て、買って、感動してきた人ほど、最終的にそういうものにしか感動できなくなるんじゃないかなって思うんですよね」

これからの生活必需品とは

この展示販売会では、展示されている漂着物に触れることができ、さらに気に入ったものは買って持ち帰ることができる。こんなにたくさんの数を一度に並べたのは、200個の中から自分の感性に訴えるものを見つけ出してほしい、という思いもあったからだ。

馬田さんは、「この漂着物は、自分たちにとって価値のあるもの、美しいものというだけだったけれど、そこからまた誰かが価値を見出してくれるのは嬉しいことですよね。今の自分の感受性を受け止めてもらえたような気持ちになります」

あらゆるものが揃っている今、私たちが本当に求めている“モノ”とはなんだろう。
「どんな状況になっても、自分の感受性を揺さぶるものというのは、きっとみなさん欲すると思うんです。たとえば映画や音楽、アートがそうですよね。私たちは、そういうものを生活から排除して生きていくことはなかなか難しいのではないでしょうか。だから、ある意味では、それは生活必需品なんだと思っているんです」と、馬田さん。

「YIIPUN UMADA」の2人は、これからも砂浜を歩くだろう。200万歩300万歩と歩く中で、出会う漂着物とまた出会える日が楽しみだ。


All Photos by Mitsugu Uehara

Information

住所:東京都港区南青山4-24-10 BOX-8 2F
電話番号:03-6803-8304
営業時間:12:00~19:00
定休日:月曜日、火曜日
HP: Information
Instagram: Information

YIIPUN UMADA

住所:鳥取県倉吉市新町3丁目2310
営業時間:12:00~18:00
定休日:水曜日、木曜日
Instagram: YIIPUN UMADA