Shohei Takasaki と Eri Takane が語り合う
アートを通じて伝えたいこととは

全く無意味で価値がないと思えるものが、ある人にとっては何にも代えがたいものであるということがある。あるいは、あるきっかけによって大変な意味を持つものに変わるということが。

新型コロナウイルス、医療崩壊や経済危機、アメリカで起きた黒人差別への反対運動……。世界中で混乱や不安が増大している中で、私たちに突如投げかけられたクエスチョン。

当たり前が当たり前じゃなくなるとき、私たちの価値観は大きく揺らぎ始める。

「太陽、ヘビ、乳首」……?
唐突で、まったく関連性がないように思えるこの3つが、指し示しているものなんて、あるんだろうか? しまいにはばかばかしくなってきて、笑いたくなってしまう。でも、それでいいのかもしれない。

自由に見ること、考えること、そして笑うこと。Shohei Takasakiの作品は、私たちにとてもシンプルなことを思い出させてくれる。シンプルで、とても大切なこと。
彼の作品を眺めていると、混沌とした脳みその中に、あかるい光が差し込んでくる。

先日、東京・渋谷、渋谷パルコ2Fの「OIL by 美術手帖」で、Shohei Takasaki の個展「sun, snake, nipples」が開催された。2013年より米・ポートランドに拠点をかまえ、国内外で精力的に作品を発表してきたファインアーティストのShohei Takasaki。2019年に帰国し、東京では1年半ぶりの個展だ。

キュレーションは、彼の親しい友人でもある高根枝里。セゾンアートギャラリー(セゾン現代美術館運営)ディレクターを経て、アートマネジメントやキュレーション、個人・企業コレクターに向けたアートコンサルティングを世界中で行っている。

7年前のニューヨークで出会って以来親交を深め、互いにリスペクトしあう仲だという2人が、今回の個展開催に至った経緯と、いま考えるアートの必要性について、“いつも通り” 語り合ってもらった。

二人はアメリカでどのように出会ったのですか?

Shohei Takasaki(以下表記Shohei):Eriとの出会いは、けっこうビビットに覚えてるよ。その夜は、ブルックリンで友だちに紹介したい人がいるって、連れて行かれたバーで彼女がバースデーパーティーをやっていたんだよね。

Eri Takane(以下表記Eri):そうだったね。「KINFOLK 90」で友人にShoheiさんを紹介されて。そのときはあんまりおしゃべりはしなかったんだけど、後日、ポートランドへスタジオビジットさせてもらってから、頻繁に連絡を取り合うようになって。今や兄のような存在です。

今回の個展「sun, snake, nipples」を開催するに至った経緯について教えてください。

Eri:前々からShoheiさんとは一緒に展示をしたいと思っていました。そんな中で美術手帖さんにお声がけいただいたことが、今回の展示のきっかけです。

私は仕事するときに、その人に魅力を感じるかどうかが重要で、作品だけでは難しい。その点、Shoheiさんとならきっと面白いものが作れるという確信がありました。

Shohei:僕も彼女の視点や感覚には信頼を置いていました。パブリックに作品を発表するとき、プレゼンテーションの仕方について模索していると、時々自分の作品を客観的に見られなくなる時があって、そんなときによく、Eriの意見を聞くんですよ。

Eri:Shoheiさんは、いつもたくさんアイデアを持っているから、私はそれに対して否定も賛成もアドバイスもしない。ただ対話を繰り返すんですよね。

今回の個展を作り上げる過程にどんな対話があったのでしょうか?

Shohei:今回の作品は、(新型コロナウィルス感染症による)自粛期間中に制作したということが、これまでのショーを作るのとは全く違う経験でしたね。コロナについてはもちろん、日米の政治のこと、社会情勢のこと……、作品自体に直結するわけではないけれど、お互いが今気になっていることをいろいろと話しました。でも、そういう時間がすごく大切なんです。

Eri:緊急事態宣言が解除されてからやっと彼のスタジオに会いに行ったとき、Shoheiさんが開口一番言ったことが『Eri、stayhomeでずっと息子のセンと過ごしているんだけど、彼の乳首を見ていると、なんて disfanctional なんだろうと思うんだよね』だった(笑)何言ってんだろうって思いながらも、超芸術トマソン(※)のことを考えたりもして。

一見無意味で全く機能性のないものだけど、実はある人にとってはすごく大切なものだということがありますよね。それってコロナにも言えるのかもしれない、そう思ったんです。

※雑誌「写真時代」における赤瀬川原平の連載を機に広く知られるところとなった概念。建築物に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物。存在がまるで芸術のようでありながら、その役にたたなさ・非実用において芸術よりももっと芸術らしい物を「超芸術」と呼ぶ。

Shohei:息子の乳首の話はぽろっとしたことで、僕としてはそこから始まってそこで終わってたりするんですけど。このエピソードと出来上がった作品から、Eri的に解釈してくれたっていうことなんですよね。

僕は、きっかけを提案するのがアートだと思うんです。だから、見る人それぞれのストーリーを作ってくれればいい。今、この状況になければまた全然違うストーリーが生まれたかもしれないよね。

Eri:物事を多角的に捉えると、どれもが間違いではないということに気づかされます。答えはない。だからこそ自分で考えて行動する必要があると思うんです。Shoheiさんのアートはいつだって私たちに考えるきっかけをくれます。

今回の展示からどんなメッセージを受け取ってほしいですか?

Eri:私は、Shoheiさんの作品を見ながら、“考えるアートが必要”ということにたどり着いたけれど、正直、答えはわかりません。でも、それでいいとも思っているんです。

Sohei:アートって、自分でコミットしないと楽しめないんだよね。例えば音楽みたいに、むこうから勝手にやってきて体が無意識に動くというものではない。アートはどこまでいっても基本的に一対一の体験で、観客にチャレンジしてくるものじゃないといけない。

Eri:今回もビューアーの方には具体的な答えは出さないようにしているんですよ。Shoheiさんが意図することは、タイトルやステートメントからなんとなく感じることはできるけど、そこに答えはない。だからどんなことを考えたのか、逆にみなさんに教えてほしいですよね。

Shohei:例えば、ある人は今回のショウの中のあるペインティングを指して「これは海の中のストーリーだ」って定義していましたね。ストーリーもちゃんとできあがっていた。アブストラクトな作品って、「観客それぞれの解釈を招待してること」と同じなんですよ。だからどんどんコミットしてほしい。見る人に気づかされること、自分の絵を再解釈するようなことって結構あるんですよ。でもクリティーク(批評)ってそういうことですよね。製作者ではない人が意味/価値を見つけていくということは大いにあると思います。

今回の展示期間には、お二人が作ったWebメディアもローンチされたんですよね?

Shohei:「Destroy Your Habits(自分の癖を壊せ)」っていうふざけたタイトルなんですけど、今回のパンデミックで、みんな何か新しいことを始めようとするきっかけがあったじゃないですか。僕も作家活動の他に何かできることを考えていて、いろんなアーティストにインタビューすることを思いついたんです。あえて東京でね。

Eri:Shoheiさんからそのアイデアをもらって、アーティストがアーティストにインタビューするってすごく面白いなと思ったんです。さらに国ごとに異なるコロナの状況なんかも垣間見えればいいなと思いました。今後はアーティストに限らず、ギャラリストとかキュレーターにもインタビューしたいなと思っています。

Shohei:いわゆるメディアが聞けないような突っ込んだ会話をしていきます。例えば、質問はくだらない切り口なんだけど、実は人生と密接につながっているような話をしてもらっていたり。

これからはアート・ショーの形も変わっていくと思うし、だけど表現の仕方はいくらでもあると思うから、これもひとつのプラットフォームとして続けていきたいですね。

今後二人がアートを通じて伝えたいこと想いを教えてください。

Eri:この仕事をしていると、2つの思いを同時に抱えることになります。アートはコレクターなど、作品を購入できる人だけのもので、資本主義の中で成り立っているんだという思いと、美術館とかパブリックな場所で誰もが観る機会を与えられるべきものだという思い。この葛藤の中でずっともがいている感じ。

それでも、パブリックにアートを発信していく理由は、子どもたちには小さい頃からアートに触れてほしいと思うから。そういう機会があったかどうかで将来は大きく変わると思っているんです。

Shohei:それは僕も同感。

Eri:だから将来的には、紹介するアート作品を、美術館へリーチアウトしたいという思いがあります。美術館のコレクションとして保管してもらえたら、子どもたちに残すことができるし、時代背景を象徴する1ピースとしても重要な役割を果たしてくれると思うんです。

Shohei:僕が常々考えていることは、アートから何かしらテイクアウトできるものがあって欲しいということ。例えば「ああ、見てよ。この青、この黄色がいいよね……」みたいな、その瞬間だけは嫌なことを忘れられるような、そんなことのためだけにアートがあるんじゃない。そんなのインスタント・ラーメンと一緒。むしろ逆で、何かしら考えさせられる、傷跡が残るような、何かしらのテイクアウトができるような体験がそこにあればベストですよね。

Eri:アートもきっと、ある人にとっては全く意味のないものなのかもしれない、だけどまたある人にとってはすごく価値のあるものなんですよね。

単純に、shoheiさんの「太陽」と「乳首」と「ヘビ」を見てると、笑っちゃう。それだけでいいのかもしれない。いろいろ考えたとしても、最終的にクスって笑っちゃう感じがいいですよね。

Shohei:そうそう、笑っちゃう、それがいいよね。ユーモアは今特に大事だよね〜〜

Photo by Yuka Uesawa


All Photos by Yuka Uesawa

展覧会概要(会期は終了)
sun, snake, nipples 
Artist Shohei Takasaki  Curated by Eri Takane 
会期 2020年7月31日(金)〜8月18日(火)
会場 OIL by 美術手帖
住所 〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ 2階

OIL by 美術手帖
Twitter @OILbyBT
Instagram @OILbyBT

Shohei Takasaki

1979年埼玉県生まれ。2009年に初個展「split head」(PRISM、東京)を開催。12年「FEW COLORS IN THE DARK」(Space Edge Shibuya、東京)、13年「BLIND」(CALM & PUNK Gallery、東京)ほか。13年からポートランドを拠点にかまえ、国内外で活躍。13年、メルボルンで個展「TAKE ME TO YOUR LEADER」(BACKWOODS Gallery)開催。14年、クウェートで日本人初個展「DOUBLE SURFACES」(Dar Al Funoon Gallery)、17年〜19年に東京やポートランドで個展開催。ほか、グループ展に多数参加。19年帰国。現在は東京を拠点に活動。
http://www.shoheitakasaki.net/

Eri Takane
セゾンアートギャラリー(セゾン現代美術館運営)ディレクターを経て、現在はアートマネジメント/キュレーション業、 個人・企業コレクターに向けたアートコンサルティングを全世界で行う。ハンター大学(NY)心理学学科卒業後、ニューヨーク大学大学院Visual Arts Administration学科(NY)を卒業。