いま世界の業界関係者がもっとも期待するファッションデザイナーの一人、テベ・マググ(Thebe Magugu)。2019年、彼は若手デザイナーの登竜門的な位置づけを誇るLVMHプライズで優勝し、今年2月にはパリのファッションウィークでもコレクションを発表。マググの出身国である南アフリカのメディアだけでなく、『Vogue』や『ニューヨークタイムズ』といった国際的なメディアからの注目も集めている。鍵を握るのが、南アフリカというマググのルーツに対する強い想いと、洗練された服のコレクションが放つ社会的なメッセージだ。

「テベ・マググ」ブランドの軌跡

マググは、ダイアモンドの採掘でよく知られる南アフリカはキンバリー出身のデザイナー。ヨハネスブルグのファッション・スクールLISOFにて、ファッション分野におけるデザイン、写真、メディアを学び、2014年に卒業。数年間の経験を積んだ後、2016年に自分の名を冠したブランド「テベ・マググ」を設立した。南アフリカを拠点に置き、すべて現地製造のウィメンズウェアとアクセサリー商品を展開するハイエンド・ブランドである。

LISOF時代の教授で今でもマググをサポートするアフリカン・ファッションの研究者エリカ・デ・グリーフ(Erica De Greef)によると、マググは大学1年生の時点で既に飛び抜けた優秀さを示していたようだ。LISOFサイト上のマググ紹介ページ において、「彼は、アフリカ大陸におけるファッション、社会、歴史に関するクリティカルな視点という、より大きな枠組みと、作品に対する非常に個人的なアプローチとを、統合させる能力を持っていました」とデ・グリーフはコメントしている。

「テベ・マググ」の歴代コレクションには、全て大学の教科に準じたネーミングが付けられており、関連した調査・研究を踏まえた作品になっている。これには、マググ自身が教育を非常に重んじているという背景がある。SS17のデビューコレクションは「Geology(地質学)」。都会生活における不安を払いのけ、南アフリカの大自然に立ち戻るといったような物語がインスピレーションとなっている。対して、次のシーズンのタイトルは「Home Economics(家政学)」。女性が「よい家庭を築くこと」を期待されているというジェンダーの歪んだ考えや社会構造をテーマにした。いずれも、服のディティールやテキスタイル・デザインに、コレクションの物語を見出すことができる。

最新コレクションに込めた故郷への想い

「テベ・マググ」のAW20コレクションは、「Anthro 1(人類学 1)」。彼の出身地である南アフリカ・キンバリーにあるタウンシップ、イポペンが主題であり、コレクション撮影の舞台でもある。ツワナ語でイポペンは「自分を美しくすること」「固い絆で結ばれたコミュニティ」という2つの意味を持つ。

今回、ルックブックの撮影にあたり、南アフリカ人の写真家クリスティン・リー・ムールマン(Kristin-Lee Moolman)と、シエラレオネ人スタイリストで、i-Dのファッション総編集者としても活躍するイブラハム・カマラ(Ibrahim Kamara)と協業。過去のコレクションからの作品も取り入れた新たなスタイリングを披露した。パリのお披露目では、通常のランウェイではなく、写真展形式でコレクションを発表し、同時に、写真展を編集したカタログ本も発行。コレクションにかける思いと、各写真作品に関する詳細説明があり、全体的にアート作品としての総合的な価値が感じられる仕掛けが存在する。マググは当初から発信活動にも積極的で、現在「Faculty Press」という名の出版事業も手がける。このカタログ本もFaculty Pressの出版だ。

「写真展」で掘り起こされるのは、マググの生い立ちに影響した人々、価値観、場所を紹介しつつ、かつてのダイアモンド採掘場として搾取された場の記憶、その歴史のなかで見落とされてしまった人々の暮らし。これらは「テベ・マググ」の原点になっている。

「キンバリーの人々について、私は数々の物語を伝えることができます。献身的なあり方、無条件の愛、そして元来持ち合わせた「ウブントゥ(協調)」の精神。活力を失い、またしばしば敵対的な環境下においても、彼らはこうした徳を忘れない。事実、こうした極めて対極的な要素、例えば「美と残忍さ」、「贅沢と倹約」、「伝統とモダンさ」といったものが、まさに私のクリエイションの素になっています」とマググは言う。

一方、「写真展」で発信されるのは、過去と記憶の物語だけではない。多くの写真に子どもや制服姿の学生たち、そして学校が登場する。これはマググの教育に対する想いと、子どもたちの夢になぞらえた未来への想いが反映された結果だ。「Nelson’s Children(ネルソンの子どもたち)」と題された写真には、ネルソン・マンデラの肖像のもとに制服姿の女子学生が集合し、その中心には、学生服のイメージを想起させる「テベ・マググ」の服を身につけたモデルが佇む。アパルトヘイト終焉後26年が経過した現在も、タウンシップが抱える課題は少なくない。そのような中こそ、若者の未来と夢に目を向けるべきだというのが、マググのメッセージである。

大量消費や大量生産、そしてトレンドやマーケティングという資本主義的な流れに乗って、成長拡大してきたファッションの世界は、いまそのモデルの限界に直面している。モノの魅力や上辺だけの物語だけではなく、深い思想と研究に基づいた芸術性の高いものだけが、これからも必要とされるファッションなのかもしれない。「テベ・マググ」が、ファッションの新しいあり方を導き、グローバルなファッション業界に変化をもたらす。そんな未来を期待したい。


Thebe Magugu
Instagram: thebemagugu

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383