テーブルマウンテンやワイナリーが有名な観光地として知られている、南アフリカの西海外都市、ケープタウン。その都心から車で30分ほど離れた近郊の町にある美術館、ノーヴァル財団(Norval Foundation)を訪問した。2018年4月にオープンしたばかりのまだ比較的新しい美術館だが、ケープタウンを訪れた際はぜひ体験していただきたい空間だ。

ゆっくりできるアート空間

ノーヴァル財団は、2018年4月にオープンした、比較的新しいアートスポット。2017年にオープンした現代アフリカアートの新拠点Zeitz MOCCA(ツァイツ・アフリカ現代美術館、通称ツァイツ・モカ)に続くオープンとなり、それと対比される形でケープタウン地域のアートシーン活性化に寄与する拠点の一つとして期待が高まっている。

ノーヴァル財団の特徴の一つは、ゆったりとした環境。展示作品はそこまで多くなく、美術館とアート・ギャラリーの中間といった規模感だ。9つの展示室が設けられ、その中央には大きなガラスと吹抜けが特徴的なアトリウムがある。そのガラスの先には、4ヘクタールの湿地帯と彫刻庭園が広がる。周囲の斜面はワイン畑で囲まれ、そしてその先にはテーブル・マウンテンがそびえ立ち、特徴的な景観が楽しめる。

財団の最高責任者イラーナ・ブルンディン(Elana Brundyn)によると、ギャラリーの構想・設計にあたり、デンマークのルイジアナ美術館や、スイスのバイエラー財団などを参考にしたという。それぞれ主要都市から電車で30分ほど離れた郊外にある美術館で、自然の景観と調和した建築が特徴的な場所だ。筆者はノーヴァル財団の訪問の数週間前に、ルイジアナ美術館を訪れていたため、身を以てその類似性を体感することができた。異なる自然環境だが、どちらも環境と建築の調和が非常によく、作品の数も多すぎないため、美術好きでなくても、のんびりと楽しめる環境だ。

常設展のない美術館

ノーヴァル財団には、常設展示がない。2つのメイン展示と、4-6つの小規模の展示が毎年入れ替わる形で展開される。訪問のメイン展示は、世界的に有名な南アフリカ人作家の一人、ウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge)の彫刻作品に関するものだった。ケントリッジの作品は、ドローイングや映像がよく知られており、彫刻は新しい作品だ。大型の彫刻が、外に繋がる大きなガラスの壁に面してダイナミックに展示されていた。

もう一つの印象的だった展示は、ケニア人画家マイケル・アーミテージ(Michael Armitage)の作品。2017年のケニア総選挙を題材に制作された8枚の絵画と9枚のスケッチ画のシリーズが並ぶ、「Accomplice(共犯者)」と題された企画展として展開していた。

過去にも、アフリカ系作家による政治的・社会的な問題提起の要素がある興味深い展示があった。例えば、昨年の2月から9月までは、ナイジェリア系イギリス人作家、インカ・ショニバレ(Yinka Shonibare)の展示は、帝国主義の遺産であるダッチ・ワックス(オランダとの貿易でもたらされた歴史的な過去を持ちつつ、そのカラフルで特徴的なデザインが皮肉にも「最もアフリカ的」なビジュアルアイコンとして扱われている布)を使った彫刻と写真のインタレーション「Trade Winds(貿易風)」が展開。ほぼ同時期には展開していたのが、ガーナ人作家、イブラヒム・マハマ(Ibrahim Mahama)による展示「Labour of Many(多くの労働)」。マハマは、ガーナにおけるコモディティ貿易のアイコン的存在であるジュート袋を使ったインスタレーション作品でよく知られており、ヴェネチアビエンナーレなどでも注目された作家だ。

日本ではまだ触れる機会が少ないアフリカ人作家について学ぶことは、アフリカの文化、歴史、人々に対する理解を深めるための重要なアプローチの一つ。ギャラリー全体の作品数が絞られているために、それぞれの作家や作品に浸り、学ぶことができる。常設展がないので、訪問するたびに新しい発見ができる美術館だ。ケープタウン郊外というとワイナリー訪問がよく知られているが、この新しいアートスポットも新たなデスティネーションとして発展していくことを期待したい。


All Photos by Maki

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383