デンマークの首都コペンハーゲンから電車で30分ほどの郊外に、ルイジアナ近代美術館(Louisiana Museum of Modern Art)は、コペンハーゲン滞在が数日だったとしてもぜひ訪れたい場所だ。
「世界で最も美しい美術館」として知られているルイジアナ近代美術館の魅力は美しさだけに留まらない、心地よさがある。

散歩しながらアートを楽しめる空間

ルイジアナ近代美術館は、最寄り駅から落ち着いた住宅街を10分ほど歩いた場所にある。大きなサインがあるわけでもなく、入り口を見逃してしまいそうになる程にひっそりとした雰囲気の佇まい。美術館は1958年にコレクター、クヌドゥ・W・ヤンセン(Knud W. Jensen)により設立。個人の別荘と敷地をベースに、建築家のヨルゲン・ボー(Jørgen Bo)とヴィルヘルム・ヴォラート(Vilhelm Wohlert)の設計により、7つの展開を経て現在の建築が完成。東西南北のウィング、子供向けのスペース、ミュージアムショップの建物が、中庭スペースを囲むような形でリンクしている。庭と、その向こうに広がる崖と海の景色とつながる壁面の多くがガラス張りになっているため、建物自体の存在感は驚くほど薄い。

エントランスを抜けるとまず初めにミュージアムショップの空間があり、その奥にある大きな窓の先にある彫刻庭園が目に飛び込んでくる。日の入りが早い冬の午後の訪問だったため、まずは先に彫刻庭園を歩くことにした。美術館自体が、崖、そしてその奥の海に向かって下降したような立体的な地形の上に立っているため、庭園にも起伏がある。その立体的な地形を歩き回りながら、自然と調和した立体彫刻を楽しむことができる。

ギャラリー内の作品配置もゆったりしており、庭園散歩の延長線上で作品を楽しむことができる。ギャラリーとギャラリーの間にあるガラス張り空間では、ただ外を眺めることだけを目的に配置されたベンチやソファでゆっくりしながら、室内からも庭園とその先に広がる自然の景観を楽しむことができる。美術館内では、老若男女問わず、家族連れやカップルが、それぞれ自分たちに心地よい空間を見つけて、鑑賞や散策を楽しんでいるようだった。

アートと自然の曖昧な境界線

ルイジアナ近代美術館の説明によると、建築は太平洋の両サイドである米国西海岸と日本にインスピレーションを受けたものだという。建築家の一人であるヴォラートはカリフォルニア大学バークレー校で建築を学び、ベイエリアの木造建築に馴染みがあった。他方、建物は日本のシンプルな様式を参考にしている部分もあるという。具体的な要素としては、「統一感(coherence)」と「ゆるやかさ(gentleness)」を意識して設計されたそうだ。建物自体に曲線はないが、全体が自然の中に調和して見えるのは、こうした要素が反映されているからかもしれない。

ガラス張りの回廊や窓、途中のレストランに設けられたテラスによってギャラリーの中と外がシームレスにリンクしている。さらには、抽象的な大型の彫刻が、庭の環境に一体感を持って散りばめれている。こうしたアートと自然の曖昧な境界線は、ルイジアナ美術館の魅力の一つであり、何度でも訪れたいデスティネーションと思える理由だ。

アートを知らなくても楽しめる

訪問時の企画展の一つが、デンマーク人作家のペア・キルケビー(Per Kirkeby)のブロンズ彫刻の個展。西ウィングで6月21日まで開催中だ。同時に開催していた個展の中で印象的だったのは、ベルギー人作家のアン・ベロニカ・ヤンセンス(Ann Veronica Janssense)の光、色、オプティカル・イリュージョンなどを題材にした作品を集めた「Hot Pink Turquoise」の展示。アートや作家に詳しくなくても、空間を通り抜けるだけで楽しめる仕掛けと構成が印象的だった。

カフェテリアやショップスペースも、ルイジアナ美術館の楽しみの重要な構成要素だ。ショップは、アート関連だけでなく、北欧のライフスタイル雑貨やファッションブランドがセレクトされ、コペンハーゲンの小さなコンセプトショップよりも充実している。デザイン、建築、ライフスタイル関係のコーヒーテーブル本や書籍のセレクトのセンスもよく、いつまでも滞在できてしまう空間だ。

ルイジアナ近代美術館の訪問は、コペンハーゲン中央駅で列車の往復と入場券が一緒になったチケットを購入するのがおすすめ。火曜日から金曜日は毎日夜10時までオープンしており、コペンハーゲン市内のショップの多くが閉店してしまう夕方以降の訪問も可能。コペンハーゲン訪問の際は、何度でも訪れたいと思える、そして訪問したら帰りたくなくなるような特別な空間、ぜひおすすめしたい。


All Photos by Maki

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383