東京とニューヨークを行き来しながら、アーティストとして活動しているSHUN SUDOが先月9月15日、東京・中目黒のイベントスペース『Stall Baggage』で「オープンスタジオ 2019 in TOKYO」を開催した。 “オープンスタジオ”とは、アーティストが自身のスタジオを公開し、美術関係者ばかりでなく、一般の人々にも制作現場や作品を自由に見てもらうもの。ニューヨークでは年間を通して各地で行われるアートイベントのひとつとしても親しまれている。

過去に2度(2015、2018年)、ブルックリン区ブッシュウィックで行われた 「ブッシュウィック・オープンスタジオ(Bushwick Open Studios)」に参加したSHUN SUDOは、今回東京でオープンスタジオを開催した理由についてこう話す。「トラックの荷台に作品を載せ、仲間と一緒にストリートに繰り出す。ライブペイントを披露すると、道行く人が笑顔になり気軽に話しかけてくる。こんな風に、アートと人が一瞬で繋がる面白さや楽しさ、嬉しさを、東京の人にももっと身近に、自由に体感してもらいたいと思ったんです」

9日間の会期中に新作を制作しながら、スタジオを訪ねてくれた人と会話し、子供たちと絵を描いた。そんな東京で初めてのオープンスタジオを終えたばかりのSHUN SUDOに話を聞いた。

「もっと自由にアートを楽しみたい。楽しんでほしい」 今回のオープンスタジオの告知フライヤーに書かれていたメッセージですが、そんな思いで東京で初めて開催したオープンスタジオ、いかがでしたか?

SHUN SUDO:思っていたよりたくさん子供たちが遊びに来てくれました。スタジオには、みんなで絵を描ける様にスケッチブック、キャンバス、絵の具、クレヨン、色鉛筆などを用意したのですが、良かったのは、真っ白な紙に何の迷いもなく描く姿を見せてもらったこと。頭で考えてないですよね。すごく勢いがあって。「ああ、こういうことだよな、絵を描くって」と、とても新鮮な気持ちになりました。

お父さんやお母さんからの反応がすごく良かったとお聞きました。絵が嫌いだったのにスタジオに行ったあと、俄然やる気が出たお子さんもいたそうで。子供の吸収力って、すごいですね。

たぶん、きっかけが無いだけなんですよ。例えばニューヨークだと、ふらっと歩いている商店街にギャラリーがある感じじゃないですか。1階から5階までギャラリーが入っているビルなども平気であるから、「よし、全部観てしまえ!」ってなりますが、東京だと「そうだ、今日は思いきりアートを楽しもう!」となっても美術館とギャラリーが密集するエリアがあまりないし、ひとつ、ひとつ、距離もある。

あとは学校が子供にアートを難しく教えすぎているかも知れないですね。成績をつけなくては、ということかも知れないですが、最初からゴッホは偉大とかピカソがどうのとなると「芸術」って、ただただとっつくにくいものになるだけ。それじゃあ、アートが身近にならないよねって(笑)

確かに。子供たちは、とっかかりを見つけてくれたんでしょうかね。

昨日「アートのお値段」という映画を観たんですけど、その中でジョージ・コンドなどのアーティストの作画の様子が紹介されていて、その過程を、「ああ、こうやって描くんだ」ということを、一から観ることができたのが僕にはすごく良かったんです。だから、このオープンスタジオも、僕のように、来てくれた人が描いている人を見て、「ああ、なんか面白いな」と思ってくれたのであればとても嬉しいです。

完成した新作には、たくさんの「ボタンフラワー」が描かれていました。カラフルで、楽しくて、それでいてSUDOさんらしいインパクトのあるモチーフだと思ったのですが、なぜ花の真ん中に「ボタン」があるのですか?

最初は、単純に「花の中心にボタンがあったら面白いな」程度のことだったんです。いままでよく描いていたスマイルマークの様に。ウォーホルの絵を描いた時には、彼の代表作でもあるキャンベル・スープの缶の蓋の部分を花の真ん中に入れたりしていました。なんか、そういう遊びだったんです。でも、だんだん意味合いとして、自分の中で、「結構ピースな感じを入れ込んでいたんだな」とわかって。

無意識だった、ということですか?

例えばジャケットを着るとき、その端と端をボタンで繋げるというか、ボタンって見もしないで、無意識に掛けるじゃないですか。そういうところで何かと何か、例えば大陸と大陸、人種関係なく人と人が繋がることができれば「世界はひとつ」、もっと言えば「ピース」な意味合いになってくる。「ボタン」はそういうアイコンとして成立すると思ったんです。だから、最近は必ず入れるようにしていますね。

日本人でボタンに触ったことがない人っていないと思うんです。そういう意味でも当たり前に日常にあるものでアイコンを作れたなって。

「日常にあるもの」は文句なく、こちらにもすっと入ります。

面白かったのは、この前、アート好きの知人が「なぜお金持ちはフルーツの絵の持っているのか?」という話をし出したこと。その方は普段、仕事でフルーツを扱っているんですね。で、言ったのは「スドウ君、それは安心するからだよ」って(笑)人間は食べ物が無いと生きて行けないから、例えそれが絵だとしても安心するって言うんですよ。確かになぁ、と。

そういう意味では、花も安心するじゃないですか。戦争のときでもそれは癒しだったわけですし。だから、日常にあるものを安らぎや癒しという意味合いで結びつけることもできた様に思います。

SHUNさんが今回の新作を制作した際、具体的にどのように描いたのか教えていただけますか?

いつもと手順は同じなんですけど、まずベースを塗って、キャンバスを寝かせて、スプーンで絵の具をたらします。スプーンは絵の具の量を好きに決めて、はねさせてり、たらしたりするときにはベストな道具。キャンバスが大きいとブラシが必要になる時もあります。ある程度の太さを出したいので。

細い線をかくときはチューブ。醤油やドレッシングを入れる様な先の細い容器にアクリル絵の具を移して使っています。筆だとつけた量でしか描けないので、線が途中で止まっちゃうんですね。僕の絵は、ずーっとその線が、流れが、続くことがとても重要なのでこうしています。

一晩たってそれが乾いたら、壁にかけ直して色を入れます。結構、何回も、重ねて。そうすると、なんかこう、バシっと決まる瞬間が来るんです。だから、そこまで。その後、ムラとか、発色を良くするためのテクスチャーを足します。その細かい作業が終わって、今回はまたキャンバスを寝かせてみました。

「今回は」? いままでは違ったんですか?

いままでは色を重ねた後、アクリルペンでアウトラインを描いていました。きっちりラインを取って、グラフィック的なカッチリ感を出すイメージで。でも、今回は少しアナログ感を出そうと思ったので、縁だけ取ったら、もう一度キャンバスを寝かせてその上に絵の具をたらしたんです。

つまり、今回はライン取りの後、作業がもうひとつ加わったと言うことですね。

そうです。レイヤーが1段、増えたんです。

それは「オープンスタジオ効果」、だったんですか?

う〜ん、実は時間がなかったので途中でどうしようかな?と思って、それで挑戦してみたことが功を奏した感じです。時間がなかったから、逆にできちゃったみたいな(笑)でも、たぶん今後は、最後にたらすインクの色味を変えるなど、やり方がもっと変わってくると思うんですよ。

ということは、次回作がますます楽しみになってきます!

アウトラインを取る前に同系色で色を入れるとかもありそうなので、もっと変化するでしょうね。次回、そうします!

例えば、将来ニューヨークに本格的に拠点を移すことも考えていますか?

この東京のオープンスタジオで描いていて思ったんです。去年ブッシュウィックでスタジオを借りて、今回と同サイズの絵を描いたんです。つまり「作品のサイズ」で言えば、その環境は同じだった。でも、ニューヨークで描いたほうが自分には明らかに良いんです。

その理由は何か。思うに、その時のトレンドとか空気感というのは、やはり、その場にいないとわからないもので、例えば、ニューヨークだと「あのアーティストの個展、やってるよ」と聞けば、ギャラリーでもどこでも行って、すぐ観ることができる。そういう環境がいまの僕には必要なんじゃないかと。

アートが身近なニューヨークは、やっぱり、魅力的ですか?

正直、ここで描いているとパッションが入らない時があるんです。たぶん、便利すぎるからだと思うんですね、基本的に。ここで生きて、生活して、困る事ってあまりないじゃないですか。でも、あっちは地下鉄ひとつ取っても結構不便だったり、お店なのに、店員さんがこっちの注文をちゃんと聞いてくれなかったりしますよね。自分勝手と言うか、ある意味、自由と言うか(笑)でも、そういう自由がきっと羨ましいんでしょうね。「自分は自分で良いんだ」みたいな。全然、人のこと気にしないと言うか。

多くの日本人はそこを気にするし、逆に言えば、それが日本人の良いところ。でも「奔放さ」で言えば、アーティストとしてそれはどうなのかと。

東京だとフラストレーションがたまってしまう?

東京は、例えばキレイなグラフィックなどを作るならすごく良いんです、僕にとっては。でも、そこにパッションを詰め込んで、創造力を爆発させるとか、自分のエネルギーを存分に放出させる、みたいなモノを作るなら、いまの自分には向いていないんです。

「INNOCENT FOREST」というシリーズ作があるんですが、東京で描いたものと去年ブッシュウィックで描いたものは明らかに違います。魂のようなものの入り方にも差が出ましたよ(笑)

東京とニューヨークの「INNOCENT FOREST」は実際、何が違うのですか?

東京で描いたINNOCENT FORESTの背景には色がないんです。ブッシュウィックに行って、初めてそこに色を入れました。キャンバスのサイズとその時に借りたスタジオの広さから判断して、最初からそうすると決めていました。

例えば、スタジオの床も壁もガンガンに汚して良いということなら、もっともっと、色、入っていますよ。でも「汚しちゃいけない」みたいなことが、どうやらここにいると無意識に出ちゃうらしいんです(笑)

だから、これからもアーティストとして生きて行くなら「もうエネルギー100%で行かないと!」って。で、「ニューヨークだから何がいいの?」と聞かれても、「アートが盛んだから」とかでもなくて、なんだろう、目に見えない、何か不思議な何か、でしか僕にはないんです。でも僕なんて不便なことだらけですよ、ニューヨークにいると。英語もしゃべれないし。東京にいる方が絶対に楽です(笑)

最後に東京でのオープンスタジオを終えて、みなさんにもっと伝えたいことなどあれば、ぜひ!

もっともっと自由にアートに触れて、身近なものにしてほしいです!

自由にアートに触れたい時、東京だったら、どこに行けばいいですか?

う〜ん、実際、少ないですよね、「身近に」って言ってしまうと。もちろん美大に進んだり、「この画家が好きだ!」という人もいるだろうけど、スケボーして、グラフィックに興味持って、「誰がコレ作ったんだ?」という感じでストリートから入っていくことだってあると思うんです。僕はこの入り方。つまり、僕という人間がこうして絵を描いている時点で、ものすごくラフでしょう(笑)だから、もっともっとアートは自由に楽しんで良いんですよ!


All Photos by Yusuke Abe (YARD)

SHUN SUDO
3歳の頃から絵を描き始め、小学生で油絵を習う。バックパッカーとしてアメリカを旅した後、整体師をしながらイラストレーター、グラフィックデザイナーの仕事を始め、2012年、HUESPACE, INC. を設立。2015年にはニューヨークで自身初の個展「PAINT OVER」を開き、その後アメリカ各地のアートフェアへの出品も果たす。今年9月、Apple丸の内のオープニングを飾るセッション「TOKYO CREATIVE GUILD」に参加する12人のクリエイターのひとりにも選出された。
Web: www.shunsudo.com
Instagram: @shun_sudo
Contact: SHUN SUDO STUDIO
contact@shunsudo.com


林菜穂子(はやしなほこ)
東京出身。ニューヨークでライター、フォトエディター、撮影コーディネイター、広告制作などに携わる。1997年、独立。現在はブルックリンのブッシュウィックを拠点に、アート関連の活動にも取り組んでいる。
Instagram: @14cube