デンマークのフォルケホイスコーレ(以下フォルケ)は義務教育を終了した者なら性別、年齢、障害の有無、国籍に関わりなく誰でも入学することができる。詳しくは前編を見てほしい。
前編で渡辺氏にお話を伺って以来、自身もフォルケがどのような場所か実際に見てみたくなり、コペンハーゲンからアクセスしやすい一校、ルイジアナ美術館のすぐ側にある「Krogerup højskole」に通う岡本氏を訪ねてきた。
なぜフォルケに行くことに?
フォルケにしたのは、実際にデンマークに行って住むにはそれが一番簡単な方法で、デンマーク独自の教育機関が魅力的だと思ったから。それに向けて、アパレルの会社で3年間働いて、その間は貯蓄に励んでいました。
なぜデンマークへ?
大学生の時に交換留学で日本に来てたデンマーク人と仲良くなり、それがきっかけでその後コペンハーゲンに遊びに行く機会ができました。コペンハーゲンに滞在中、その友人を介して現地の人たちの生活ぶりを見て、なぜかわからないけどすごい良いと思ったんです。そこからすごくデンマークが好きになって。それでいつか必ずデンマークに住んでみたい、と思いました。恥ずかしい話なのですが、その時はまだ英語が全然ダメで、英語を話せる友達を介して彼らとコミュニケーションをとっていました。
もともと英語を話せなかったのによく決意できましたね。
もともと英語が話せなかったので、2つのフォルケに行くことにしました。まず一つ目に、「Højskolen for Bevidsthedsudvikling」という、高齢者がメインのフォルケに行くことにしました。高齢者の方達は英語が下手な人にも優しく接してくれると予想して。そのフォルケは、クラスに一人でもデンマーク語を話せない人がいたら、英語で授業をするスタンスでした。高齢者向けだからか、同じ内容が何度も繰り返されて、英語が全くダメだった自分にとってはそれがとてもありがたくて、1回目に理解しきれなかったことも、2回目3回目でだんだん理解できるようになりました。
2つ目のフォルケは?
2つ目のフォルケはKrogerup højskole、ルイジアナ美術館のすぐ近くで、学校に通っている間美術館に何度でもタダで入れます。学校のすぐ側にはオーガニックスーパーマケットがあって、そこでナチュールワインも買えます!(笑) 授業はグローバルイシューをメインに学ぶインターナショナルクラスのみ英語、それ以外はデンマーク語で授業が行われています。
英語とデンマーク語を話す人たちで分かれてるんですね。
授業以外の時間はみんな共有スペースで交流できます。「マンゴ」という合言葉があって。みんながデンマーク語を話し始めたり、日本人同士が日本語を話し始めたりしてしまった時に、「マンゴ!」と言うことで、「英語で話そう!」という合図になるのですが、それはデンマーク人の生徒達が率先して考えたルールなんです。
人種と年齢層は?
1つ目のフォルケはほとんどデンマーク人でした。2つ目のフォルケは、インターナショナルクラスだけが英語で授業を行われていたので、デンマーク人80% インターナショナル20%くらいです。二つ目は年齢層も若めで20代が多かったですね。一番上で40歳くらいの方もいます。
実際の授業内容は?
一つ目のフォルケでは、アユールヴェーダやストレスとの向き合い方、瞑想などについてでした。二つ目のフォルケはグローバルイシューで、 難民問題についてディスカッションしたり、実際にデンマークの政治家に今後の政策について聞きに行ったり。大企業がグローバルに進出していくことが本当に良いことかどうか、ローカルでやる方が実際には環境には優しいのではないか、というトピックのドキュメンタリーを見てみんなでディスカッションをしたりしました。
他にも、ヤン・ゲールが講演に来てくれました。人のための街を作る都市計画の話を聞いて、光の当たり方とか、自転車のための道路とか、人にとっても自然にとってもストレスのない環境を作る話しをしてくれて、なぜこんなにデンマークが居心地がいいのかを理解しました。
[ヤン・ゲールは建築家でもあり都市デザインコンサルタント。]
興味深い授業内容ですね。
自由選択科目でダンスのクラスとか、遊びのようなクラスもあって。社交ダンスのクラスの発表会はなかなか本格的で面白かったです(笑) 基本的にどの授業も、必ず出席しなきゃいけないということがないので、プレッシャーがないです。成績や評価がないため、参加しなくても咎められない。あくまで自分が参加したいかどうか。
週末など学校がお休みの時は、みんな何をしているんですか?
どこか遠方へ出かける人達もいるし、学校内に小さなクラブ?のようなイベントスペースがあって、そこでパーティーを開催したり。学校からビールなどの飲み物を調達する資金が配給され、当日は実際にmobile pay (デンマークのアプリでお金を送金するシステム) でお金を払って、バーと同じようなスタイルで運営されます。先生も一緒に混ざって遊んでることもあります。
先生も混ざって遊んでるって、いいですね。
基本的に先生も学校の隣に自宅があり、食事の時間も一緒です。食事の時間は先生の家族も参加しています。
デンマークって幸福度高いって言われてるけど、そう感じる?
2校のフォルケでデンマーク人と生活して約1年が経つのですが、年齢問わず自分のことをちゃんと分かってる人が多いなって思います。自分にとって好きなこと、安らぐ場所、ブレない価値観を知っている、そういう時間を同じ価値観の人と過ごそうとしているからこそ、結果として幸福感を生み出しているのかなと理解しました。
フォルケでかかった値段を教えてください。
どちらのフォルケも半年で、食費と宿泊場所込みで85万円前後でした。一人部屋か二人部屋か選べて、休みの日も含め食事が提供され、さらに学校の課外授業で、デンマークの自然エネルギーで有名なサムソ島やベルリンへ、およそ2週間ほど海外旅行に行ったりすることも含まれていました。
フォルケを訪問してみて、まず驚いたのは学校のある環境。周辺は自然に囲まれ、目の前には広大に広がる緑のグラウンド。すぐ近くにはルイジアナ美術館や海があり、学校の目の前にはオーガニックスーパーマーケットにブリュワリー。さらには学校の建物もさることながら、さすが北欧だけあってインテリアのセンスが高い。食堂から共有スペース、各々の部屋にある椅子はデンマークの有名な家具デザイナー、ボーエ・モーエンセンだったり、クラブ的な場所を学校の中に作ってしまう遊び心まで、とてもデンマークらしいセンスに溢れている。
ただ半日滞在しただけだが、その心地良さに身を包まれ感動した。ここでは授業によって学びたいことを学ぶ以上のことがある。それは自分がデンマークに来て感じたことが、そのままこの学校でも詰まっていた。さらには英語のスキルに関係なく入学でき、一般的な海外の語学留学へ行く資金と比べても同じかそれ以下である。なんといっても北欧の文化を体験できることが、もっとも大きな学びになるかもしれない。
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NATSUKO
モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net