昨今では、あらゆるジャンルにおいて、サスティナビリティやフェアトレード、エシカルやローカルなど、環境や人に配慮したビジネスのあり方や生き方が注目され、消費に関しても以前より一歩踏み込んで考えるようになってきた。無論、いくら環境に配慮することを考えなければいけないと言っても、純粋に良いものや、新しいモノやコトへの関心を抑えなければならないわけではない。むしろ今あるスタンダードを疑い、新たなシステムを作るというクリエイティビティは必要なのではないだろうか。

昨年の9月にパリのファッションウィークで、初となるコレクションを発表した新たなブランド「Giddy Up(ギディーアップ)」は、靴やアクセサリー、洋服のパーツの作成に3Dプリンターを取り入れているブランドだ。ブランドの運営は、サブカルチャーやあらゆる業界とファッションの間に架け橋を作り、常に新しいことに挑戦し続けるブランド「Mikio Sakabe」などを手掛ける坂部三樹郎氏と、ハイファッション業界では知らない人はない、ベルギーのアントワープを拠点とするブランド「ハイダーアッカーマン(Haider Ackermann)」などで経験を積んだ発知優介氏の2人によって、デザインからダイレクションまでが行われている。

Photography : DANIEL SANNWALD

2人とも、マルタンマルジェラ(Maison Martin Margiela)やドリスヴァンノッテン(DRIES VAN NOTEN)など、名だたるファッションデザイナーを輩出した、アントワープ王立芸術アカデミーを卒業している。アントワープ王立芸術アカデミーといえば、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ、NYのパーソンズ・スクール・オブ・デザインと並んで、世界で最も厳しいと言われているファッション科のある学校の一つだ。入学できるのはたったの60名程、2年生に上がれるのはそのうちの半分、さらに、そこから卒業できるのはその半分。入学も卒業もかなり狭き門なのだ。

才能ある2人によって生み出された「Giddy Up」は、2019SSのパリファッションウィーク中に、初となるコレクションを発表した。コレクションには、個性溢れる多国籍でジェンダレスなモデル達が、Giddy Upの中心核でもある3Dプリンターを用いて作られたシューズを履いて登場した。

3Dプリンターによって作られたソールは、様々な色や質感のバリエーションがあり、バネが入っていたりクッション性がある特徴的なデザイン。アッパーはニット素材、尚且つホールガーメントを取り入れ、履き心地の良さを追求している。跳ね上がったり、今にもすごいスピードで走り出しそうな、まるでSi-Fiムービーから飛び出してきたような近未来的なデザインだ。

3Dプリンターは金型がなくても立体物を作ることができ、一足や小ロットから作る場合、好きなデザインをコストを抑えて作成することができるそうだ。しかしまだまだ技術が追いついていない部分や、改善すべき課題は多くあるようで、現実的に着用できるスニーカーに至るまでにもう少し時間がかかるようだ。

他にも3Dプリンターを用いて、マグネットとシリコンでできた新たなスタイルのジップのような留め具を開発したり、ウェアの一部の装飾やアクセサリーなども作っている。コレクションで発表したウェアには、ナイロンやポリエステルなどのカジュアルな素材を用いながらもオートクチュール的なシルエットで、機能性とスポーティさを兼ね備えた、まさに近未来的なハイファッションの提案であった。

靴やアクセサリー、洋服が3Dプリンターによって造られる、と聞くとそれらが丸々3Dプリンターから出てくるようなイメージしかなかったが、実際にどのようにしてファッションに3Dプリントを取り入れているのかを、デザイナーでもありブランドを運営するうちの一人、発知優介氏にお話を伺った。

初のコレクションを終えてみて、感想や評判など、いかがでしたか?

評判はよかったと思いますが、実際に靴を触ったり履いたりしてみたかったという声が多かったです。そういう場を設ければよかった。あと、もっと批判を聞きたいと思っていましたがあまり聞けなかったので、次回はもっと批判されるように、ということも目標のうちの一つです。

おふたりの出会いや一緒にコラボレートするに至った経緯を教えてください。

元々仲が良くて。今でもプライベートと仕事のどちらの時間も頻繁に共有しています。

元々のおふたりのデザインの方向性はかけ離れているように思いますが。

元々のベースは近いところにあると思います。今まで実際にやってきたテイストは違うけど、「Giddy Up」はMikio Sakabeでもハイダーアッカーマンっぽいものでもなく、あくまで「Giddy Up」としてのコンセプトや方向性について、みんなで話し合い探っていくということに重きを置いています。

どういった割合で役割を分担しているのでしょうか?

デザインも方向性も全部一緒に話し合い擦り合わせしています。その上で、お互い自由にデザインしますが、生地乗せや色を決める時は必ず一緒に決めます。大事なポイントさえ抑えていれば、全体的にまとまりが出るので。

どうして初めにパリコレからスタートしたのですか?

パリコレからスタートした理由は、あくまで「Giddy Up」はファッションの文脈でやっていくことがベースにあるためです。スポーツブランドのように機能性を追求するというよりは、新しい履き心地や、新たなマテリアルやデザインについて追求しています。

今後3Dプリンターがどんどん普及して、気軽にコンビニなどで誰でも利用できるようになるかもしれませんね。そうなったらまた、クラフト的なことが重宝されていくのでしょうか。

これは声を大にして言いたいのですが、3Dプリントって聞くと、ハイテクで縫わなくてもいいし簡単にモノを作れちゃうイメージを持たれますが、実際にはクラフトなんですよ。靴や洋服のパーツを3Dプリンターで作り、さらにそのパーツを一個一個手作業で靴や洋服に縫いつけていきます。従来のマテリアルとは違うので、縫製上の知識も必要。結局オートクチュールを作る作業に近いんですよね。楽するための3Dプリントではなくて、むしろそれを取り入れ、どのように現実的な存在に落とし込んでいくかという挑戦です。3Dプリントは今はまだ材料にもお金がかかるし、時間も手間もかかる。技術についても最初に学ぶべきことが本当に多くて。

そんなに3Dプリントは大変なのに、それでも取り入れる価値とはなんなのでしょうか?

見たことない感覚とか、触り心地とか、純粋に新しいものへの興味と追求です。純粋に見たことのないような新しいものやマテリアルに感動する、興味と探究心が原動力です。技術の進歩のスピードを考えると、将来的にはコストが下がり、小ロットからオーダーメードすることが可能になります。

なるほど。3Dプリントを用いることによって新たなシステムができるんですね。

3Dプリントの面白さは、自分たちがデザインしたものを、発注した先の国でプリントし、その国の工場で縫製も頼むことができる。そうなると関税もかからないし、Made in 〜という概念がなくなる。そういう新しいアイディアやシステムがどんどんできてくるところも、3Dプリントの魅力のうちの一つだと思います。

今期のコレクションにも参加する予定ですか?また実際に販売を始める予定があれば教えてください。

今のところコレクションに参加する予定は特にないです。とりあえず今は、靴をもう少し現実的に履き心地の良いものにして、実際に販売できるところまで持っていくことが目標です。場所はまだ決めてないですが、今年の半ば頃に展示会を行いたいと考えています。

Photography : DANIEL SANNWALD


GIDDY UP
Instagram : giddy_up_official

NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net