パリを拠点に活動するアーティスト・イラストレーターのAurore de La Morinerie(オロール・ドゥ・ラ・モリヌリ)氏によるアジア初公開となる個展『Hommage à Alaïa』が、AKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMAにて開催中だ(会期は2019年2月23日まで。展示替えを行い、現在は第二部としてドローイング作品を中心に展覧中)。

オロール・ドゥ・ラ・モリヌリは、水彩やインク、水墨を中心としたドローイングに加え、伝統的なエッチングプレス機を使用した、一品制作のグラフィカルなモノタイプの作品を発表している。彼女にしか表現できない、筆で描かれる曲線やにじみには造形の質感が豊かに表現され、繊細さの中にも芯の強さが伝わってくる。色の濃淡のニュアンスと、活き活きとしたダイナミックな表現が魅力だ。

本展では、オロール氏がファッションデザイナーの故Azzedine Alaïa(アズディン・アライア)と彼のメゾン「ALAÏA(アライア)」のために没後一年を機に手がけた、“アライアへのオマージュ”と題された作品の数々を公開。モノタイプ作品を和紙に刷り制作した新作や、2013年にパリ市立ガリエラ美術館で開催された『Azzedine Alaïa』展出品作品などの貴重な原画を展示している。

これまで、エルメス(HERMES)やシャネル(CHANEL)、カルティエ(Cartier)、リック・オウエンス(Rick Owens)、イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)などのメゾンをはじめ、数々の企業に作品を提供。また、フランスの新聞 ル・モンド(Le monde)や雑誌ハーパーズ バザー(Harper’s BAZAAR)などの出版物や広告のイラストなども描く。パリを代表するアーティストのひとりであるオロール氏に、今回の展示について、また、これまでの創作活動やご自身について話を聞くことができた。

©️Aurore de La Morinerie, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

今回、アジア初公開の展示だそうですね。日本やアジアのファンにとって、とても嬉しい機会だと思います。

ミュンヘンのギャラリーに所属しているので、これまでハンブルグでの展示やロンドンでのグループ展示、ミュンヘンのカルチャーセンターでの展示を行ったことがありますが、アジアでは今回初めての展示なのでとても嬉しいです。

アズディン・アライアのために描かれた作品を展示されますが、一昨年急逝されたアズディン・アライアとの思い出はありますか。出会ったきっかけや彼とのエピソードがあればお聞きしたいです。

アズディン・アライア氏との初めての出会いは2013年です。パリ市立ガレリア美術館にて行われた展示のため、館長からデッサンの依頼がありました。そのオープニングに招待していただき、その後お家へ行ったりして仲良くなりました。彼が私の作品をとても気に入ってくれたので、その後も香水ブランドのデッサンの依頼があったりとだんだんと交流が深まりました。今回の展示は、私が自由に創り上げたアライアに対してのオマージュの作品になっています。

今回もその作品の一部を展示されていますが、2013年のパリのガレリア美術館での展示はどのような内容でしたか?

あの時はデッサン10枚、全てドレスという依頼があったので、その内容の中でアライアのために私が自由に制作しました。実際は他にも10名のアーティストが参加していましたが、デッサンは私のみが描きました。

オロールさんの作品は、モノタイプや筆といった手法で描かれていますが、作風のスタイルはどのように生まれたのでしょうか。

筆に関しては小さい頃から描いていますが、とても難しいと思っていました。筆で描くことをマスターするには一生かかると考えていたので、ずっと描き続けています。私は色々なツール(道具)が好きなのですが、例えばモノタイプの手法は、エッチングプレス機を使用しますが、それは一点制作の版画です。カラーのバリエーションもなく偶然出来上がるものでもあるので、それはそれで筆で描くものとはまた違う魅力があり気に入っています。モノタイプも筆で描くことも両方好きです。

©️Aurore de La Morinerie, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

オロールさんご自身のことを教えてください。どんな子供時代でしたか?学生時代は美術大学へ進まれたのですね。

子供のころは小さな街で育ったのでそんなにやることがなかったんです。なので絵を描くことは自然とはじめました。学生時代に美術大学へ進みましたが、その中でもモードに特化した科目を選びました。美術とモードと両方を学ぶことができたので、とても興味深い時間でした。学校を卒業した後に仕事を始めると、色々なオーダーが来たので様々な表現ができる機会がありました。個人的な創作作品は、仕事とは別で描き続けていました。

作品のアイディアやインスピレーションの源は、日常生活のどんなところから得ているのでしょうか?

一番に言えることは、中国画と日本画、日本のアートには昔から興味がありました。また、子供の頃から自然に対しての興味はずっとありますね。今は様々なツールが増えていますが、写真だったり、デザインだったり、色々なものからインスピレーションを受けています。

オロールさんのinstagramを拝見していると、ストーリーをよくアップされていますね。モノクロでサイレントでの投稿が多く見られますが、とても美しいですね。

ありがとうございます(笑)写真を撮ることは大好きで、15歳からずっと続けています。よく旅行に行くのですが、毎回絵を描く時間はなかなかとれないので、写真をひとつの絵と思って、またいつか違う作品になることも考えながら撮っています。映像は基本ずっと白黒です。白黒がしっくりくるので。

モチーフとして人物、動物、植物、洋服、香水瓶、家具などをよく描かれている印象です。これまでずっと描き続けているモチーフはありますか?

動物や鳥はずっと描いています。生き生きしていて常に動いているので面白いです。あとは人も描いていますね。街に出て描きます。あとは風景や水も。それは一番描きにくいと思っているからですね(笑)

絵を描いていない時はどんな風に過ごすことが好きですか?

友達に会ったり、旅行に行ったりしています。本を読んだりも。

作品を制作する際に、大切にしているものはなんですか?

きれいな紙と、美しい筆を大切にしています。今回の滞在では、福井へ和紙を見にいく予定です。

これまで名だたる一流メゾンと一緒にお仕事をされ、ファッションとの関係が深いオロールさんにとって、“ファッション” とは何だと思いますか。また、パリを拠点に様々な時代を見てこられて、現代のファッションに対してどのように感じますか?

ファッションは常に変化があって、常に動きがあるものだと思っています。人生で、何を身につけるかによってその時々を表現していますよね。人が布を着て動いている、ということですね。現代のファッションについて思うことは、全体的にフラットになっているのは、ファッションがカルチャーではなくコマーシャルになってしまっているということだと思います。

今回の展示について教えてください。

今回は長澤章生とのコラボレーションとして、これまで制作してきた作品のとても良いバランスでの展示内容となっているので、そういった部分も観ていただきたいです。長澤さんにとても感謝しています。


Hommage à Alaïa
会期:2018年11月29日(木)~2019年2月23日(土)
時間:11:00〜19:00(13:00〜14:00 CLOSE)
休廊日:日曜・月曜・祝日
場所:AKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMA
住所:東京都港区南青山 5-12-3 Noirビル 2階
電話番号:03-6427-9611
http://www.akionagasawa.com/jp/
会期中に展示替えを行い、現在は第二部としてドローイング作品を中心に展覧中。

本展の開催に併せ、作品集「Hommage à Alaïa」(900部限定/ナンバー入り)を刊行。展示作品のほかに、元ガリエラ美術館・モード&コスチューム博物館館長のOlivier Saillard (オリヴィエ・サイヤール) 氏のテキストを収録している。

Aurore de La Morinerie | オロール・ドゥ・ラ・モリヌリ
アーティスト・イラストレーター
1962年、フランス西部の都市サン=ロー生まれ。80年代にパリのデュペレ応用美術学校をファッションデザイナーとして卒業。同時期に、書道と中国絵画を勉強し、その後の彼女のスタイルに強い影響を与える。1990年初頭にファッションイラストレーターとして成功を収め、そのキャリアを確立。ミュンヘンのGallery Bartsch & Chariauに所属。主な展覧会歴は、デザイン・ミュージアム(ロンドン、2010年)やThe Museum für Kunst und Gewerbe Hamburg(ドイツ、2015年)などがある。パリのガリエラ美術館より依頼を受け、2013年に開催された「Azzedine Alaïa」展カタログのためにイラストレーションを寄稿。「Azzedine Alaïa」シリーズの10作品はガリエラ美術館のグラフィックアート常設コレクションの一部となっている。現在も、パリを拠点に精力的に制作活動を行う。