「ついつい表参道から渋谷への帰り道でショッピングしちゃう」と買ったばかりの服を笑顔で見せるアーティストユニット・WADE AND LETA。普段はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するWade JeffreeとLeta Sobierajski夫婦で(以下表記、レタとウェイド)、NIKEやGoogle、Adobe、Tate Modernなどをクライアントに持ち、そのふたりの愛らしいキャラクターから様々な国々のカンファレンスにも参加するオピニオンリーダーの側面も持つ。

「僕たちにとって第二の故郷のような国だよ」と言う日本で、なんと彼らにとって初めての国外展示である「MUSIC TO YOUR EYES」が、西麻布・CALM&PUNK GALLERYにて1月31日まで行われている。

様々なメディウムを楽しむ彼らの等身大かのように、躍動感のあるグラフィックデザインが2.5Mのバルーン、平面彫刻やVR作品など会場中を飛び回る。ふたりで活動すること、彼らのクリエイションにも通ずる本展のコンセプトを語ってもらった。

元々それぞれ互いに活動していたそうですが、どのように出会い、ユニットの活動を始めましたか?

「OkCupid」という出会い系サイトで知り合ったのが、最初のきっかけです。とても今っぽい出会い方ですよね(笑)。お互いにクリエイティブな活動をしている人を探していて、たまたま当時ふたりともグラフィックデザイナーとして活動してたんです。当時、レタはデザインスタジオから独立したばかりで、ウェイドはデザインスタジオ「Sagmeister & Walsh」で働いてた頃。出会ってからすぐに意気投合して、お互いのクリエイティブに対する考えや夢を語っているうちに、自然とクリエイティブパートナーとしての関係値も築けたように感じます。そうして初めて共同制作した作品が、52枚のポートレイトを撮影したシリーズ「Complements Project」。当時はスタジオを持っていなかったので、夜だけ自分たちのアパートをスタジオのようにして撮影してましたね。

2人で活動する前と活動後の変化について、どう感じていますか?

レタ:彼と出会う前はデザインや撮影、スタイリング、プロップ準備、そしてモデルまでなんでもひとりでやってました。今となっては何でそんな大変なやり方で、と思いますが、当時は逆にその方法しか知らなくて。そういうふうにひとりで全部やっていたからか、まず制作に取り掛かる時は「色のバランスは取れているのか?」「曲線はこんな感じで描きたいのか?」などディティールに対して自問自答を繰り返していました。でも客観的に考えると、それは他人にとっては重要なことではなくて。

そのことが2人で活動を始めてから分かるようになり、今はまずプロジェクトの一番核になることから詰めていくようにしてます。そういうふうにお互いの強みと弱みを理解し、思い合いながら制作しているので、これから先もどんなことがあろうとも一緒に乗り越えられると思ってます。

ウェイド:彼女と出会う前は、あまり色を使わずにもっと静かな表現をしてきました。作品においては、そこが一番の違いですかね。仕事のやり方は、お互い違うからこそ最初のうちは試行錯誤を重ねたけれど、いまは仕事も生活も切り分けずとも両方のバランスが取れてます。例えば、彼女はまずスケッチやリサーチを念入りに行うのですが、僕の場合はまるでクモが巣を作るように、一度たくさんのアイディアをはき出して、それらを一つの形にする。そうやって僕たちはあくまでも2つの個体として各々の視点から世界を見ているので、仕事も生活も相互作用し合ってるように思います。

今回、海外での初展示ということですが、これまでにニューヨークで行なった展示はどのような内容でしたか?

去年夏にニューヨーク・サウスストリートシーポート地区で、海景の様々なシェイプからインスピレーションを受けたインスタレーションを発表しました。その延長として、ブルックリンのインキュベーションハブ「A/D/O」でのダンスパーティーイベント「A Party For All」でもインスタレーションを発表し、ここ数年は積極的に僕たちが描いてきた世界観をよりスケールアップして表現できてるように思います。

本展のタイトルである「MUSIC TO YOUR EYES」にはどのような意味を込めましたか?

「MUSIC TO YOUR EYES」とは、僕たちの作品を定義する言葉でもあり、「視覚的に音楽を体験する」という意味が込められてます。可視的音楽の概念と似ていて、すべてのグラフィックパターンや色に独特のリズムが宿っていることを表していて、今回は様々なメディウムを用いることで、さらに全身でそのリズムを感じられるようにしています。

写真作品、平面彫刻、バルーン、VR作品など様々なメディウムを用いていますが、一つずつディティールを見るとシンプルなパターンや色の構成でできていますよね。

レタ:私たちの作品の構造は、シンプルな要素で大きな世界観を描くことです。2人ともグラフィックデザイナーとして元々活動していた背景から、学生時代は色と形について勉強してきました。ジョセフ・アルバースの色に関する理論は、私たちのものの見方に大きな影響を与えてきました。「色」は、私たちにとって粘土や鉛筆と同じようなメディウムの一つであり、それにシェイプやパターンを組み合わせて複雑な形を作り上げていきます。一見複雑に見えても、その親近感が湧く世界観の向こうにはあくまでも主役である「色」、つまりシンプルな要素が潜んでいることを大事にしています。

ウェイド:レタが言うように、作品を親しみやすく、理解しやすいものにすることが大事ですね。子供から大人まで、作品とともに豊かな時間を過ごせるために、鮮やかなカラーパレットとシェイプを組み合わせていきます。ミニマリズムとはまた違いますが、そういうシンプルなアイディアの組み合わせが僕たちの作品のベースとなっています。

2018年はレタが3ヶ月間日本に滞在し、その間にウェイドも来日するなど度々日本へ訪れていますよね。今回は約1ヶ月半の滞在をし、日本料理や着物、初詣などを体験していましたが、改めて日本や東京をどう感じていますか?

レタ:春、夏、秋、冬、すべての季節に日本を訪れて、そのたび同じ場所でも違う表情が見えることへの美しさを感じています。夏には浴衣を着て祭りに行き、近所の人たちと盆踊りを踊るなど実際に季節の移り変わりを感じることで、さらに日本文化を知りたくなります。

ウェイド:第二の故郷のように思うほど、日本のことが好きです。東京での生活はとても快適で、日本文化や風景、技術、そして人々のクリエイティビティにいつも刺激を受けます。文化について理解を深める中で、いつも友人や宿泊場所のホストが笑顔で僕たちの様々な質問に答えてくれることに感謝しています。

影響を受けた日本人アーティストはいますか?

うーん、数人には選べない程たくさんいるのですが……(笑)
その中でも僕たちのヒーローは、荒川修作とマドリン・ギンズです。ここ数年の来日を通して、三鷹、養老、岡山での彼らの作品を巡りました。養老天命反転地に行った時に、自分の人生を創造的に考え、そして次に何を求めているのかを自然と考えさせられました。「WE HAVE DECIDED NOT TO DIE」という彼らの言葉から、人生は自分の手の中にあり、すべてのステップが次に求めていることへとつながっていることを学びました。他には、川久保玲、田中一光、宮崎駿とジブリ、イエロー・マジック・オーケストラ、三宅一生も好きです。

今後挑戦したいことを教えてください。

みんなが互いに交流できるスペースをもっと増やしたいと考えてます。老若男女楽しめるような作品を作っていきたい。色とは人々を喜ばせる「器」だと考えています。新しい体験を作り出すために努力するほど、ほんの一瞬の至福の時でさえも人々の考えに作用できると信じて、これからも2人で世界観を広げていきたいです。


Photos by Shinsaku Yasujima

MUSIC TO YOUR EYES

会 期 :2020年 1月18日(土)〜1月31日(金)
会 場 :CALM & PUNK GALLERY
東京都港区西麻布 1-15-15 浅井ビル 1F

開場時間 :12:00 – 19:00
* 日曜日 / 月曜日休廊
入場無料

Wade and Leta
ニューヨーク・ブルックリンを拠点に夫婦・Wade Jeffree & Leta Sobierajski でデザイナー兼アートディレクターとして活動。「視覚的音楽」をコンセプトに、ひねりの効いたセンスとカラフルなデザインを表現する。ハッピーでエモーショナルなヴィジュアルを制作するために、写真やアートだけに留まらず、ファッション、テクノロジーと伝統的なグラフィックデザインなど様々な要素をミックスしている。
クライアント:Adobe, Airbnb, Comme Des Garçons, Google, Gucci, IBM, The New York Times, Samsung, Shiseido, Tate Modern, UNIQLO など

@letasobierajski
@wadejeffree
@wadeandleta